トランプ氏のビットコインマイナーへのアピールは、暗号資産は「非政治的」であるべきとの警告

ドナルド・トランプ前大統領は、米国内でビットコインマイニング産業を発展させるよう呼びかけている。共和党の大統領候補であるトランプ氏は先日、多少は誇張かもしれないが「残りの」ビットコイン(約210万BTC)をすべて米国産にしたいと述べ、それが同国のエネルギー自立を助け、中央銀行デジタル通貨(CBDC)開発に対抗することになると主張した。

トランプ氏が立ち上げたソーシャルメディアプラットフォーム「Truth Social」で行われたこの発表に先立って、フロリダにあるトランプ氏の別荘マール・ア・ラーゴでは、大手ビットコインマイニング企業のクリーンスパーク(CleanSpark)、ライオット・プラットフォームズ(Riot Platforms)、マラソン・デジタル(Marathon Digital)の代表者を前に、トランプ氏とビットコイン・マガジン(Bitcoin Magazine)のデビッド・ベイリー(David Bailey )CEOが対談した。

セルフカストディの権利を擁護し、暗号資産による選挙献金を受け入れ、「あなたのビットコインから(アンチ暗号資産派の)エリザベス・ウォーレン上院議員とその仲間を遠ざける」ことを誓うなど、一連のますます親暗号資産的な発言の中でも最新のものとなる今回の発言は、暗号資産支持者たちから様々な反応を引き起こしている。

これは、トランプ氏(その好感度は50%を上回ったことがない)に対する米国内での意見がどれほど分裂しているかを考えれば、それほど驚くことではないかもしれない。

しかし、ビットコインの「ファンではない」と発言した2019年以来、トランプ氏が暗号資産に関して的外れな発言をしたのはほぼ間違いなく初めてのことだ。

ビットコインマイニングをオンショア化するという考え方は理解できるものだし、中国が2021年にマイニングを禁止して以来、ずっと繰り返されてきた。

しかし、トランプ氏の発言を文字通りに受け取るなら、すべてのビットコインマイナーを単一の地域に配置するよう求めることは、ビットコインとは何か、どのように機能し、なぜパワフルなのかについての深い無知を表している。

地政学的シグナル?

しかし、これはひとつの意見に過ぎない。他にもたくさんの意見がある。例えば、ビットコイン・マガジンのアレックス・ベルジュロン(Alex Bergeron)氏は、トランプ氏の発言は暗号資産の重要性を示す強力なシグナルと主張している。

「世界で最も権力を持つ人物には、ビットコインマイニングが地政学的な問題であることを、他のあらゆる権力者たちに示してもらいたい。そうすれば、誰もがマイニングを始めるようになる。そうやってネットワークを分散化する」とベルジュロン氏は書き、気候変動の専門家でビットコイン政策サミット(Bitcoin Policy Summit)の共同創設者であるマーゴット・パエズ(Margot Paez)氏に反論した。

パエズ氏は、ハッシュレートの生産を一国に集中させることは、特に最近の記憶では政治家や規制当局が暗号資産を敵視している国では、おそらく賢明ではないと主張した。例えば、バイデン政権は、30%という高いビットコインマイニング税を課すアイデアを提案していた。

いずれにせよ、世界中にビットコイナーが存在し、アメリカ大統領でもマイニングを阻止することは難しいことを考えれば、ハッシュレートが特定の地域に集中することは考えにくい。

そうなると、ここでの本当の疑問は、米国が政府の支援や補助金によってビットコインマイニングを支配しようとすることをきっかけに、他の政府が国内のマイニングにインセンティブを与えるかどうかだ。あり得ないことに聞こえるかもしれないが、世界の指導者たちは、しばしば米国を参考にする。問題は、トランプ大統領の地位が世界のリーダーたちの間で著しく低いことだ。

そのため、トランプ氏の発言が実際にビットコインマイニングを動かすかどうか、判断は難しい。特に、トランプ氏の暗号資産支持の発言を迎合と取るべきか、褒め言葉と取るべきか、判断できないからだ。トランプ氏は確かにビットコイナーたちの間で評価が分かれる人物だ。

朱に交われば…

トランプ氏のナポレオン級のエゴはさておき、どんな政治家であっても、親密になることは率直に言って恥ずかしいことだと考える人は多い。

ビットコインについての著作があり、プライバシー擁護者のL0la L33tz氏は、政治家は信用できない、トランプ氏は以前の選挙公約の多くを実現できなかった、ビットコインには政治的支援など必要ないと主張した。

「あなたの道徳をお金で買うことができるのだとしたら、あなたは愛国者ではなく、裏切り者だ」とL0la L33tz氏。

内面的な一貫性はともかく、「ビットコインの精神」を考えてみれば、L33tz氏の立場は業界の発展にとって、長期的にイメージ戦略のうえで最善である可能性が高いことは注目に値する。

ほとんどの政治的支持が右派から得られていることを考えると、共和党のリーダーと協力することは好都合に思えるかもしれない。しかし先月の「Consensus 2024」でメッサーリ(Messari)創業者でトランプ支持者のライアン・セルキス(Ryan Selkis)氏と討論したユニスワップ(Uniswap)のマーヴィン・アンモリ(Marvin Ammori)氏のように、暗号資産業界は中立で非政治的であるよう努めるべきだという見解の方が、より良い戦略である可能性が高いと思う。

私は以前、暗号資産が世間の注目を集めるものとして、右派が擁護し、左派が非難する問題になるのは避けられないと述べた。しかし、そうなることを望むべきなのだろうか?

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Gerd Altmann(CoinDeskが加工)
|原文:Trump’s Appeal to Bitcoin Miners Is a Wakeup Call for Crypto to Stay Apolitical