10年以上前、私がブロックチェーンビジネスに参入したのは、IoT(モノのインターネット)の問題を解決したかったからだ。
欠陥のあるビジネスモデル
それから10年後、どちらのビジネスも活況だが、ビジネスモデルにはいまだに大きな問題がある。インターネットのように、一度根付いてしまった悪いビジネスモデルからは決して逃れられないのかもしれない。
私自身は、ソーシャルメディアの「サービスは無料、なぜならあなたが商品になるから」というモデルから自由になれるかどうかについては懐疑的だ。
それでも私は、IoT(モノのインターネット)がまだ比較的発展途上であるため、ブロックチェーン、特にこの場合はブロックチェーンが支えるDePIN(Decentralized Physical Infrastructure:分散型物理インフラ)を使って改善できるかもしれないという希望を持っている。
IoTの問題の本質は、ビジネスモデルにある。企業は製品を維持するために、絶え間ない収益の流れを必要としている。消費者は当然のことながら、例えばドアノブや冷蔵庫のソフトウェアを維持するためにサブスクリプション料金を支払うことを合理的とは思わない。
その結果、通常は大いなる失望を伴うお買い得品が登場することになる。つまり、サブスクリプション費用のかからない製品は、ある日突然、企業が製品の保守をやめたくなったために販売中止になる。
ブロックチェーンは、オープンソーステクノロジーと分散型システムを組み合わせることで、自己管理し、より持続可能な運用が可能なIoTネットワークを構築することで、この問題の代替手段を提供する。
問題の核心は、企業が販売する製品の寿命と製品ラインの寿命とのミスマッチだ。我々はスマートフォンやパソコンを3〜5年ごとに買い換えるかもしれないが、一般的に言えば、電球、ドアノブ、冷蔵庫のような家庭用デバイスはより長く使用されるだろう。
これらのデバイスを管理するためにクラウドインフラが必要な場合、製品を販売した後も10年、20年と継続的なコストが発生する。これにソフトウェアのメンテナンスコストが加われば長期的に利益を上げることは難しいことは明らかだ。
その結果、憂鬱になるほどしばしば、企業はかつて販売していた製品のオンラインサービスを停止する。その結果、生活に溶け込んでいたデバイスが使えなくなってしまうことはよくある。あるいは、購入価格に「含まれていた」サービスを提供する業者が料金を請求し始める。
数年前、私は突然、スマートドアロックを使い続けるために年間90ドル(約1万4000円、1ドル160円換算)の料金を請求された。スマートロックが使えなくなるよりはマシだろうが、私は憤慨して新しいロックを購入し、取り付けた。その結果、スマートロック使用料金8年分相当のお金を支払うことになったが、この決断は合理的な分析によるものではなく、腹いせのためだった。
IoTの進歩とブロックチェーンの強み
非常に苛立たしい経験もあったが、IoT業界はここ数年、非常に良い進歩を遂げている。HomeKit規格と統合するデバイスや、新しいMatterコントロールや無線通信規格Threadを使用するデバイスは、インターネット接続なしで動作するようにはじめから作られている。
つまり、基本的な機能にはクラウドインフラを必要とせず、メンテナンスの負担が一企業に集中することもない。
しかし、真のスマートホームやコネクテッドエクスペリエンスを求めるのであれば、インターネット接続とクラウドコンピューティングインフラが必要になる。そしてそのためには、分散型のクラウドインフラも必要だ。
ブロックチェーンを使うことで、コンピューティング能力とネットワーク接続性に余裕のあるデバイスは、より複雑なネットワークレベルのアプリケーションを実行できる。
送電網の状態に基づいて家庭の電力消費を管理したい? 最適なタイミングで電力を売ったり、会話型インターフェイスに生成AIシステムを使いたい?
これらすべては、多くのコンピューティングパワーと帯域幅を消費する。持続可能なビジネスと価格モデルを望むのであれば、多くの新しいデータセンターを必要とすることなく、そのようなことを実行できなければならない。
ありがたいことに、スマートホームデバイスはとても賢くなった。これは、電球にスマートフォン並みのインテリジェンスが必要だからではない。高度にカスタマイズされた電球専用のスマートチップを作るよりも、スマートフォンレベルの頭脳を丸ごと電球に搭載する方が安上がりだということが判明したからだ。
チップ製造は規模のビジネスであり、標準的なスマート過ぎるチップを製造し、ソフトウェアを使って電灯の操作や冷蔵庫の管理などをさせる方が各デバイスをカスタマイズするよりも安価でスケーラブルだ。
その結果、多くの使われていない接続されたコンピューティングパワーを、ブロックチェーンとリンクした分散型クラウドコンピューティングインフラの構築に活用することができる。
スマートホームやスマートカーは、コンピューティングパワーに関して「自活する」でき、使っていない時に余った分を売却し、必要な時には他からより多くの容量を調達できる。
その結果、製品を販売する側から資本を注入し続けなくてもよい、持続可能なネットワークインフラが構築されるはずだ。クラウドが他人のコンピューターに過ぎないとしたら、近所の冷蔵庫でも良いのかもしれない。
分散型コンピューティングインフラを構築する方法はたくさんある。しかし、私が10年以上前にこの道を歩み始めた時、他のテクノロジーではなくブロックチェーンを選んだのには理由がある。決済とスマートコントラクトだ。
非常にシンプルな話。スマートデバイスが互いに取引してコンピューティングサービスを提供するシステムを望むなら、アカウント、台帳、コントラクトが必要だ。ブロックチェーンにはそれらが組み込まれている。
私は10年以上前から、クラウドコンピューティング、ブロックチェーン、IoTの融合を望んできた。ついにその時が近づいているかもしれない。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:The Internet of Things Is Still Broken (But DePIN Can Fix it)