米テキサス州オースティンで開催された米CoinDesk主催の暗号資産・Web3カンファレンス「Consensus 2024」(現地時間5月29-31日)から早1カ月が過ぎた。4日からは京都で「JBW Summit at IVS Crypto」が始まり、7月に日本各地でさまざまなイベントが繰り広げられる「Japan Blockchain Week」(7月4-31日)の開幕を告げる。
「JBW Summit at IVS Crypto(IVS Crypto with JBW Summit)」「Japan Blockchain Week」には、海外からも多くの暗号資産・ブロックチェーン・Web3関係者が訪れ、エキサイティングな7月がスタートする。その準備のひとつとして、「Consensus 2024」でゲーム特化型ブロックチェーン「Oasys」代表の松原亮氏が参加したセッション「The Rise of the Asian Web3 Market(アジアWeb3マーケットの台頭)」を振り返っておこう。
セッションには松原氏のほか、アニモカブランズ(Animoca Brands)グループプレジデントのEvan Auyang氏、ギャラクシー・インタラクティブ(Galaxy Interactive)パートナーのRyan You氏が登壇。モデレーターは、Spiral Capital(スパイラルキャピタル)の縣恵吾氏が務めた。
なお松原氏は「Consensus 2024」で、ゲームとブロックチェーンの現状にさらなるイノベーションをもたらすアイデアとロードマップを発表した。
関連記事:ゲームはブロックチェーンによるイノベーションを必要としている──ゲーム特化型ブロックチェーンのOasys、アイデアと次期ロードマップを発表【Consensus 2024】
※セッションは英語で行われ、記事は編集・要約されています。
アジアは1つではない、その多様性と可能性
ギャラクシー・インタラクティブは、その名の通り、インタラクティブなコンテンツやテクノロジーに投資するアメリカのベンチャーキャピタル。投資の半分はゲーム、あるいはゲーム関連コンテンツで、Oasysをはじめ、アジアのWeb3プロジェクトと連携して、活動している。
アニモカブランズは、香港の拠点にWeb3分野に積極的に投資。最近では、Web3プラットフォーム「Mocaverse(モカバース)」のグローバルDID(分散型ID)「Moca ID」をベースにWeb3エコシステムの拡大を進めている。日本には戦略子会社としてアニモカブランズジャパンを設立、KDDIとの連携も発表している。
まず、Ryan氏がVCとしての現在の資金調達市場を概説した。
「我々は、非常に長期的な視野で考えている。タイミングを見計らってマーケティングしているわけではない。我々は、例えばOasysのような日本の開発者、パブリッシャー、さらには日本のIPに投資している。Web3を使って日本のIPをグローバル化したいと考えている。Web2では投資家としてIPのグローバル化に参加することは難しいが、Web3なら、才能とIPを活用できる」
「ゲームでは、アジアが大きな注目を集めている。一方、欧米では、AIなどに注目が集まっている」
アジアのWeb3市場について、松原氏が補足した。
「アジアを1つのものとして見てはいけない。アジアは実に多様で、日本、中国、韓国はそれぞれ特徴があり、実際には大きく異なる。日本はIPとコンテンツを持っており、韓国は暗号資産取引が非常に盛ん、中国は、暗号資産が禁止されているにもかかわらず、莫大な取引が行われている」
「さらに東南アジアはまったく異なっている。アクシー・インフィニティ(Axie Infinity)、そして現在人気を集めてピクセル(Pixel)など、東南アジアには膨大なWeb3ゲームユーザーが存在している。また南アジアであるインドにも大きな可能性があるだろう。つまりアジアは可能性を秘めており、こうした特徴を組み合わせれば、大きな強みが生まれるだろう」
Evan Auyang氏が、さらにアジアの特徴に触れた。
「まず消費者やユーザーのゲームに対する受容度が、欧米市場とはレベルが違う。だが前回、NFTを使ったゲームが人気を集めたときには、ユーザーのためではなく、収益を優先してゲームをリリースしたところもあった。そして結果的に業界は信頼を失った。もっと信頼性の高いアプローチが必要だった」
「Web3ゲームは、アジア市場で最も多くのユーザーを獲得している。(大手企業のゲームだけでなく)ベンチャー企業がリリースしたゲームに対する抵抗もない。アジアは楽しい場所であり、注目を集めている。特に日本ではこの先、多くのカルチャー資産がトークン化され、世界中に紹介されると期待している」
Ryan氏が重要な点を指摘した。
「付け加えておきたいことがある。アジア各国で合法とされていること、あるいは規制されていることは現実とはかなり違っている。例えば、STEAM(スチーム:米Valve社が運営するゲーム配信プラットフォーム)は以前は規制されていたが、今は事実上、規制されておらず、プレイヤーの3分の1以上は中国本土のユーザーだ。アジアについて考えるときに注意してほしいことは、オンラインで得る情報よりも現実から多くの情報を得られるということだ」
ゲームにとどまらない、もう1つのチャンス
モデレーターの縣氏は次に、アジアでの投資機会やビジネスチャンスについて3人に質問。ギャラクシー・インタラクティブのRyan You氏が口火を切った。
「間違いなく、投資は重要。アジアには、本当に興味深い、ハイクオリティなWeb3プロジェクトがたくさんある。私たちが今、特に興味を持っているのは、既存のIP(知的財産)を活用できるものだ。これはアジアの多くの開発者の強みだと思う」
「Web3ゲームにおいては、何らかのIPや既存コミュニティをベースにする方が良いと考えている。今、主流となっているFree-to-Playのゲームを設計する場合、収益モデルが重要になる。プレイヤーの97%はフリーで遊び、3%がお金を払う。ゲームをどのように設計すれば適切なバランスを取ることができるのか。まだ、多くの課題があるが、まずはIP、ゲーム体験を大勢のプレイヤーに提供し、グローバルに展開したのち、改善や修正を行っていくことが大切だと思う」
アニモカブランズのEvan Auyang氏は、ゲームからさらに観点を広げて語った。
「アジアには、膨大な選択肢があり、例えば、銀行インフラや金融インフラを再構築するという極めて大きなチャンスがあると考えている」
「そして、あまり話題にされないことだが、非常に重要なことがある。政治的なパワーの問題だ。金融システムは基本的にドルベースのシステムで、ドルが重要な位置を占めている。例えば、アメリカはドルを使って、制裁を加えることもできる。その点では、今後の国際社会では、分散型・パーミッションレスの暗号資産は、ますます重要性を増すだろう」
「実際にフィリピンでアクシー・インフィニティやピクセルをプレイしたい人たちをオンボーディングしたとき、彼らにとって初めての金融インフラはウォレットだった。銀行口座ではない。まさに市場に仮想的なイベントが出現し、銀行口座よりも多くの暗号資産ウォレットが登場した。アジアにはゲームにとどまらないもう1つの可能性がある」
Ryan You氏も続けた。
「このイベントに来る前に、ある記事を読んだ。そこにはステーブルコインは防衛テクノロジーと書かれていた。実際、ワシントンDCでは、ステーブルコインをコントロールしなければ、ドルシステムにとって脅威となり、国家安全保障上の大きな問題となる可能性があると考えられている」
最後にオアシスの松原氏がここまでの議論を受けて、全体を総括した。
「アジアにさまざまな側面があることは理解している。重要なことは、なぜ今、ここでアジアについて語っているのかだ。アクシーやピクセルのようなアジア発のプロダクトがあり、コミュニティが存在する。そしてより重要なことは、爆発的な広がりを見せていること。アジアのコミュニティは、アメリカにとって非常に大きなチャンスとなる。絶好のチャンスが広がっている」
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なお、CoinDesk JAPANを運営するN.Avenue株式会社は、7月5日・6日に一般社団法人JapanBlockchainWeekと「JBW Summit at IVS Crypto」を共催。また、7月31日まで続く「Japan Blockchain Week」のメイン・メディアパートナーを務める。
|文・編集:CoinDesk JAPAN編集部
|写真:左からオアシスの松原亮氏、アニモカブランズのEvan Auyang氏、ギャラクシー・インタラクティブのRyan You氏、モデレーターの縣恵吾氏(撮影:CoinDesk JAPAN編集部)