7月4日〜6日にかけて京都で開催されている「IVS Crypto/JBW Summit」、注目のセッションをダイジェストで紹介する。
セッション名:大企業がWeb3ビジネスを実現する際の課題と可能性:社内外の見えない敵とどう戦うか?
日時:7月5日 11:45〜
登壇者
Laser Digital Japan 代表取締役 工藤秀明氏
OPTAGE Web3 business team Team manager 小野晃寛氏
Securitize Japan K.K. Country Head 小林英至氏
SBI Holdings Executive Managing Officer 小田玄紀氏
Finoject Inc. CEO 三根公博氏(モデレーター)
──大企業でWeb3ビジネスをする場合の利点とは?
工藤:(野村ホールディングス傘下の)レーザーデジタルは、野村の中では比較的成功した事例に近いと思っている。立ち上がってまだ2年も経ってない状況だが、(ロンドン、スイス、ドバイ、日本に)4拠点を立ち上げ、ドバイでライセンスを2つ取った。そういう意味ではスピード感をかなり出せている。
通常の野村のやり方ではおそらく無理だったが、今回は野村ホールディングス直下にレーザーデジタルホールディングスを建付け、大きな裁量を与えるというやり方を取った。コンプライアンス、リスクマネジメント、ビジネスジャッジも、この中である程度コントロールしながら進めていくという体制でやっている。それがかなり良かった。
小野:(関西電力グループのオプテージでWeb3事業をしている立場としては)大企業でやるからには兵站をしっかり作りたいという信念がある。いざスケールさせる時、大量にリソースを投入できる状態にしたい。(人材の多い大企業では)よく探せば社内にビットコイナーやクリプトに詳しい人がいて、それもメリットだ。
小林:(ソニー銀行や丸井グループなどと協業しているスタートアップという立場から解説すると)うまくいってる会社はやっぱりトップ・経営陣がコミットしている。Web3ビジネスが企業の将来を左右する話だと戦略的に理解している企業は、ちゃんとビジネスができていると思う。
逆に例えば、案件が良ければやってやるとか、経済性が成り立たないとやらないとか、そういうレベルの話をしているところはダメだ。もう一つは、利用者である発行体や、投資家に「よかった」と言われるようなものを作ろうという意識があるかどうか。この2つが大切だろう。
小田:(代表を務めるビットポイントジャパンが)1年前にSBIグループ入りして感じた以前との大きな差は、会社概要の説明が省けることだ。以前は、何度も説明したあげく、”やっぱりお仕事は仕事できません”と言われるケースが4割ぐらいあったが、そういったことはなくなった。これは大企業にいる最大の価値ではないかと思う。
──逆に「大企業であるがゆえの課題」はあるか?
工藤:複数いる意思決定者のコンセンサスを、どう取っていくかだろう。そのためには、一つ目としては、非常に高い熱量を持った人が、中と外それぞれにいる状況をつくることが大事だ。二つ目はエッジのあるビジネスや、シナジーをどうわかりやすくアピールできるかだ。特にシナジーはあればあるほどよい。レーザーデジタルの場合「これはクリプトのトレーディングです。野村はトレーディングが得意ですよね……」という切り口で攻めていった。
小野:現段階のWeb3はすでに、企業がプライベートチェーンなどでWeb3と戯れるフェーズは終わり、パブリックチェーンと向き合わないといけないフェーズに入ってきている。それは本当のゼロトラストの世界だ。その「不都合な真実」に、自分も含めて向き合わないといけない。意思決定者は「安全か、安全じゃないか」という結論だけを聞きたがるが、われわれ関係者は覚悟を持ってゼロトラストの真髄を理解しておかないといけない。
──どうやって会社を説得しているのか?
小野:私たちのチームは一貫して、(Web3は)社会を変えていくインフラだと説明している。オプテージはインフラをやってきた会社だからだ。そのうえで現場としては、金融というアーキテクチャを、自分たちのカルチャーに取り入れないといけないと考えている。
──STを発行する企業は、小さいとは言えない企業が多い。そういう会社に対して営業をかけるときの秘訣はあるか?
小林:現時点で実例が出ている企業は、上層部も含めて理解が浸透している企業だ。我々がいま取り組んでいるのは、その次のレイヤーにある企業への働きかけだが、やはりディシジョンメーカーに理解してもらうことが重要となってくる。
もちろん、一回の説明で分かってもらえるほど明快でも簡単でもない。実際にプロジェクトをドライブしている人は、みんな分かってやっている。しかし、周囲や「上」については、時間をかけて、ちょっとずつ慣らしていかないといけない。我々はスタートアップなので、大企業とは違うカルチャーをちょっとずつ出していって、一緒に作業をして、社内で違和感をできるだけ取り除いていこうとしている。
(Web3では)完全に違うテクノロジーをベースに、ビジネスを作り直さなければならないことは、上層部もわかっていると思う。我々のような外資のスタートアップは、基本的にグローバルでビジネスをどうやって勝ち抜いていくかという視点でやっている。そういった「異質なもの」をうまく使ってもらって、社内理解を広げていくのが重要だと思っている。
──日本では「パブリックチェーン」の実例があまりない。国内大企業にパブリックチェーンは浸透させられるのか?
小林:私はパブリックチェーンの方がいいと信じているし、それを広めていきたい。いい実例が一つか二つ出れば、みんなが動くと思う。一緒にやってくれる人を探したい。
──SBIグループはWeb3に本腰を入れ、さまざまな取り組みを行っている。そうした企業ならではの課題はあるのか?
小田:幅広い案件に取り組んでいる大企業が、一番に考えるべきことは、その案件が顧客のためになるものなのかどうかだ。顧客のためになっているのなら、会社のためにもなるし、結果的に上も納得すると思う。大企業といっても、それぞれの案件のコアメンバー数を見てみれば、10数人でスタートアップと変わらなかったりもする。結局、自分たちが本当に価値あることを提供できているかどうかだけを考えるのがいいと思う。
──野村・レーザー側から、有望なスタートアップに声をかけるケースはあるか?
工藤:野村ホールディングスは最近、バリデータ事業をしているOmakaseに出資した。これはシナジーが非常に分かりやすいということもあって、進んでいったケースだ。
──オプテージは関西電力グループだが、Web3に地域性はない。グローバルに打って出る可能性はあるのか?
小野:我々は、特にB2Bに向いたWeb3インフラとして、プロトコルと企業あるいはグローバルとローカルの結節点になるべきだと考えている。そうした自分たちの役割を考えると、グローバルに向かざるを得ないと思っている。
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なお、CoinDesk JAPANを運営するN.Avenue株式会社は、7月5日・6日に一般社団法人JapanBlockchainWeekと「JBW Summit at IVS Crypto」を共催。また、7月31日まで続く「Japan Blockchain Week」のメイン・メディアパートナーを務める。
|文:渡辺一樹
|編集:増田隆幸
|画像:IVS Crypto/JBW Summit
※編集部より:初出時、オプテージ 小野様の肩書が誤っておりました。お詫びして、訂正いたします。また本文を一部修正して、更新しました。