7月4日〜6日にかけて京都で開催された「IVS Crypto/JBW Summit」、注目のセッションをダイジェストで紹介する。
セッション名:持続可能な暗号通貨導入のための規制枠組みの構築
日時:7月6日 17:00〜
登壇者
金融庁 イノベーション推進室 チーフ・フィンテック・オフィサー 牛田遼介氏
デジタル庁 Web3.0業務エキスパート 松澤翔太氏
金融庁 イノベーション推進室 伴ちひろ氏(モデレーター)
既存プレイヤーがオープンイノベーションを活用
伴(写真:左):牛田さんは昨日まで海外でしたが、チューリッヒではどんな話を?
牛田(中央):今週の前半はチューリッヒで金融イベント「Point Zero Forum(ポイント・ゼロ・フォーラム)」が行われた。シンガポール金融管理局(MAS)から独立して民間企業になった「エレバンディ(Elevandi)」と、スイス連邦財務省が共催する暗号資産(仮想通貨)やフィンテック全体のカンファレンス。全体的には暗号資産の話はあまりなく、既存の金融機関や事業会社がいかにブロックチェーンを使うことができるかという話で、まさに(前のセッションで議論された)ステーブルコインはそのきっかけの1つになるというような議論だった。
既存の金融システムも今、多くの課題があり、例えば、外国為替取引ではアメリカと日本では時差があり、実際リアルタイム取引できるのは6時間ぐらいしかない。あるいは既存の金融システムはサイロ化していて相対取引が多く、流動性がかなり分断されている。細かく言うともっといろいろあるが、そういう問題をブロックチェーンやトークナイゼーションが解決できるのではないかという方向で議論された。
オープンイノベーションは暗号資産の基盤となっているパブリックブロックチェーンから生まれてくる。オープンイノベーションを既存のプレイヤーがどう活用していくかは「IVS Crypto/JWB Summit」と共通のテーマだと思う。
多様なメンバーがいる金融庁、デジタル庁
伴:今回のセッションは、3日間の最後のセッションなので、少しフランクに進めたい。聴衆の皆さんの中には「この人たちは相談しても、わかっているのか」みたいな疑問もあると思うので、まず2人にキャリアについても聞きたい。デジタル庁は新しい組織だが、松澤さんはもともと何をしていたのか。
松澤(右):外資系金融機関の東京オフィスに入り、そこから香港に移って、8年半住んでいた。香港では、不動産系のファミリーオフィスでWeb3やフィンテックなどに投資していた。香港でずっと仕事しようかと考えていたところに、金融庁からお誘いいただいて、2020年に牛田さん、伴さんのいるイノベーション推進室に入った。
そこで2年働いた後、ファンドを立ち上げる準備をしていたときに、デジタル庁は人手不足なので手伝って欲しいと言われ、今は常勤の国家公務員ではなく、非常勤の国家公務員としてデジタル庁で働きながら、ファンドの運営にも携わっている。
牛田:伴さん、松澤さんに比べると、私のキャリアはつまらなくて、2010年に新卒で金融庁に入ったというだけ。10年ぐらいは普通の仕事をやっていたが、2019年に人事から「ブロックチェーンをやる気はあるか」と言われた。その時はロンドンに留学中だったが、さらに2年間、アメリカのジョージタウン大学でブロックチェーン技術も含めて、ガバナンスや規制の研究をした。最初に書いた論文は、DeFi(分散型金融)とDAO(分散型自律組織)ついて。3年前に東京に帰ってきてからはブロックチェーンも含めたフィンテック全般を担当している。
伴さんも含めて、東京にいる人材は全員外部から来ていただき、金融機関もいれば、日銀や東京都など、多様なメンバーがいる。金融庁プロパーだけではテクノロジーやビジネス、特にフィンテック分野ではついていけないので、各分野で知見を持っている方に来ていただいている。伴さんもフィンテック企業から来て、金融庁はどうですか?
伴:私は新卒でマネーフォワードというフィンテック企業に入り、2年弱経った際に、共同創業者の瀧さんから「金融庁に出向しないか?」と突然DMが来た。当初は金融庁で働くイメージが湧かず「ちょっと難しいかもしれない」と答えたが、業務内容を聞くと、自分の強みを活かせる職場だと思った。現在は事業者の皆さんや海外当局との対話、「Japan Fintech Week」の運営等を担当しており、とても楽しく働いている。
金融庁に来て、改めて感じたことは、日本は規制が厳しい、緩和が必要などと言われるが、必要なことを必要だから行っているということ。入ってみて、身をもって感じている。民間とパブリックセクターのどちらも経験でき、良かったと思う。
相談窓口の活用を
牛田:金融庁でも民間でも本質的な違いはないと思っている。突き詰めると、世の中を良くするために必要なことがあり、我々の仕事としては利用者保護、金融犯罪の防止、金融システムの安定などがある。
おそらく、さまざまな担当部署と日頃やりとりされているなかで、あまり良いユーザー体験をしていないケースもあると思うが、そこは先ほどあったように、もともと必要があったからこそ、規制が生まれた。決して監督側の人間もイノベーションを無視しているわけではなく、むしろイノベーションとリスクの低減を両立させるためにがどうすればよいかを考えている。
とはいえ、ブロックチェーンやAIなど、新しい技術を使ったアプリケーションで、これまでにない金融サービスを提供するのがフィンテックだとすると、やはりビジネスモデルを理解するとか、どこにリスクがあるかは理解がなかなか難しいことがあるので、我々としては皆さまとできるだけ率直にディスカッションして、監督当局の間をうまくブリッジするような役割を担いたい。
松澤:金融庁の方が組織として出来あがっていて、機能もきちんと整っている。デジタル庁は、当初は文化祭みたいな勢いがあって、お祭りのように作り上げてきたところがある。ただ、デジタル庁は所管している業法などが存在しないので、実は民間の方々や自治体の方々とのやり取りが非常に難しい。例えば相談窓口で相談していただいたとしても、具体的にお答えできることがない。だから、一緒に悩む、一緒に考えるというスタンスで進めている。
例えば、我々はマイナンバーカードやマイナポータルを開発している。ここにデジタル証明書(Verifiable Credential:VC)を組み合わせることができるのではないかとのお問い合わせをいただいた際も「YES/NO」ではなく、「こうすればVCがうまく活用できて、より良いサービスになるのではないか」というスタンスで進めている。
民間事業に我々のサービスが組み込まれることで、国民の生活が豊かになることにつながるのではないかと考えている。デジタル庁もいろいろ取り組んでいるが、まだまだ情報発信ができていない。
牛田:暗号資産とかステーブルコインなど金融庁が関わるテーマも当然あるが、Web3全体は金融庁だけだと到底取りまとめ切れない。金融庁にもフィンテックサポートデスクという窓口があり、どしどし連絡をいただきたいと思っているが、金融庁に相談する前にワンクッション置きたい場合は、ぜひ、デジタル庁に問い合わせていただきたい。
「ダサかわいい」パーカーが目印
伴:日本のWeb3政策の向かっていく先と、自分の考え方が異なったりする場合もあるのではないかと思うが、そういった時はどのように対処しているのか教えてほしい。
牛田:オープンイノベーションの可能性はきわめて大きいと思っている。そういう優れたものを世の中が良い方向に進むように活用できるように金融庁としても、個人としてもやっていきたい。
政府の方針と自分の考え方が相反することは今のところは多くないと思っている。一つの役割としては、現状、これほど多くの事業者の皆さんとディスカッションさせていただいているのは金融庁でも、政府全体でも我々ぐらいと思っているので、内部で意思決定をするときにも自分が思ったことはしっかり伝えていきたい。
松澤:政府全体として極めて前向きだと思う。新しい取り組みをどんどんやっていこうという大きな流れがある。そこに違和感はない。各論で意見が合わないかもしれないときは、自分の持っている意見・情報を相手に十分にインプットできていない場合が多く、コミュニケーション不足がその原因のほとんどだと思っている。
伴:金融庁の立場でモデレーターをしながら、外部の人間みたいなコメントになるが、ふたりのように前向きで、かつ諦めない方々がいることは、日本政府のブロックチェーンのマスアダプションに向けた取り組みが前向きに進んでいることを実感できた。
牛田:今日はあまり具体的な政策の話ができなかったが、足元ではステーブルコインも含めたブロックチェーン全般の取り組みもあり、生成AIも金融庁として何をすべきかを考え始めている。ブロックチェーンとAIは相互補完的なところがあると考えており、ぜひ、皆さまと連携していきたい。
松澤:デジタル庁の売り込みを最後にさせていただくと、マインナンバーカードは申請件数では1億件を超え、保有率では70%を超え、かなり普及してきた。スマートフォンに搭載可能になり、これは極めて大きいと考えている。新たな事業のタネ、アイデアもどんどん出てくると思うので、相談窓口もぜひ活用してほしい。
伴:今回のセッションではデジタル庁のWeb3窓口、金融庁のフィンテックサポートデスクの話が出てが、私からは1つ、ぜひ覚えて帰っていただきたいことがある。来年2025年3月3日〜7日、第2回の「Japan Fintech Week」を金融庁主催で実施する。「IVS Crypto/JBW Summit」の活気に負けないイベントにしていきたいと思っている。皆さん、ぜひ足を運んでいただければと思う。
牛田:ちなみに今日、私が来ている金融庁パーカーをデザインしたのは伴さんです。
伴:「ダサかわいい」と話題になっており、このパーカーを着ている金融庁職員はフレンドリーな職員ですので、積極的に声をかけてほしい。
牛田:着ていないから、フレンドリーではないということではありませんよ。
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なお、CoinDesk JAPANを運営するN.Avenue株式会社は、7月5日・6日に一般社団法人JapanBlockchainWeekと「JBW Summit at IVS Crypto」を共催。また、7月31日まで続く「Japan Blockchain Week」のメイン・メディアパートナーを務める。
|文・写真:増田隆幸
※編集部より:本文を一部修正して、更新しました。