Hamster Komba(ハムスターコンバット)が成し遂げたこと: テレグラムはいかにして大人気Web3ゲームを作り上げたのか

2カ月ほど前、イランのライシ大統領がヘリコプター事故で死亡した。イランでは後任を決める選挙が行われたが、そこには問題があった。イラン軍の高官によれば、国民があまりに他のことに気を取られていて、候補者を適切に吟味できなかったという。何百万人ものイラン国民が、携帯電話をクリックすることに夢中だった。

兵器化されたハムスター?

彼らは「ハムスターコンバット(Hamster Kombat)」という暗号資産(仮想通貨)ゲームに夢中だった。

このゲームは、どこからともなく現れたようだ。3月にテレグラム(Telegram)上で開発されたWeb3エコシステム「TON(The Open Network)」でローンチされた。

今やこのゲームは大人気で、イラン軍副司令官のハビボラ・サヤリ少将は、イラン政府に対する西側からの「ソフト戦争」の一環だと批判したほどだ。AP通信が報じたように、サヤリ氏は「敵によるソフト戦争の主力のひとつが『ハムスター』ゲームだ」と述べた。

では、アメリカは本当にWeb3のハムスターをイランに対して兵器化しているのだろうか? 突飛で、興味深い質問だが、その答えはある意味では重要ではない。

問題の存在そのものが重要だ。「あまりの人気に、政治家たちまでが話題にし始めた」と、TON財団のゲーム責任者イナル・カルダン(Inal Kardan)氏は述べた。

ハムスターコンバットの生みの親は匿名で、プロジェクトはインタビューを拒否した。同ゲームは2億人以上のユーザーを抱えていると言われており、Xのフォロワーは1100万人、YouTubeのチャンネル登録者数は3100万人にのぼる。

これは、目を見張るような成長を遂げているTONのいくつかのGameFiプロジェクトのひとつに過ぎない。Web3ゲームは盛況だ。

可愛くて、マンガチックな「Catizen」は、2300万人以上のユーザーを抱えている。TONの最初の大きな成功例である「Notcoin」のユーザーは、4000万人を超えている。

TON財団によると、TONネットワークには現在、合計で5億人のユーザーがいる。現在の時価総額は194億ドル(約3兆1040億円、1ドル160円換算)のトンコイン(Toncoin)は、ポルカドット(Polkadot)、カルダノ(Cardano)、NEARのような暗号資産を飛び越えて、暗号資産全体で8番目に大きなプロジェクトに急成長した。

しかし、イラン軍はポルカドットやカルダノについては批判していない。TONのゲームは何かが違うようだ。シンプルで楽しく、暗号資産の狭い世界から抜け出し、2021年のNFTのようにメインストリームのユーザー層を見つけたようだ。

「これは一部の人だけのものではない。普通の人が、初めてブロックチェーンで何かをするということだ」とカルダン氏は語った。

テレグラムとTONのパワー

TONが爆発的に成長した理由のひとつは、テレグラム自体の世界的な広がり、特にヨーロッパとアジアにおける広がりにある。テレグラムのユーザー数は9億人を超える。しかし、カルダン氏によれば、2023年12月の時点では、そのうちのわずか1%しかテレグラムを使ってゲームをプレイしていなかった。起業家たちはチャンスを嗅ぎつけた。

「我々はテレグラムとTONを見て、これは手つかずの地だと思った」と、Catizen財団のティム・ウォン(Tim Wong)氏は語った。Catizen、Notcoin、Yescoin、Tapswapのようなゲームは、エレベーターを待っている間でも簡単にプレイできることもあり、すぐに空白を埋めた。

「どれも超手軽で、実にシンプルなゲーム。それが好まれる」と、カルダン氏。テレグラムのゲームはインストールが簡単で、遊びやすく、暗号資産への接続も簡単だ(ただし、テレグラムのネイティブ暗号資産ウォレットは、規制上の懸念から米国では利用できない)。

15年もの間、Web3業界は、不便なインターフェースと分かりにくいプロトコルに悩まされてきた。TONはそれを一夜にして解決したようだ。

DeFiアナリストのデビッド・ジマーマン(David Zimmerman)氏は、TONが「暗号資産のキラーアプリになる可能性が高い」と結論づけたレポートを書いたが、その理由はTONのスムースなUXにある。

ジマーマン氏によれば、TONは「これらの分野(UXと実世界でのユースケース)で進歩を遂げるために、他のどの暗号資産市場参加者よりも多くのことをしてきた」。

TONのゲームはシンプルだ。暗号資産を長年取材するなかで、「普通の友人」にWeb3プロジェクトを紹介するときはいつも、40分かけて説明しても、混乱した友人からの質問責めにあったとジマーマン氏は述べた。TONはどうか?

ジマーマン氏は、すでに10人の友人を参加させることに成功した。

ゲーム自体の魅力

ゲームそのものはスマートかつ魅力的で楽しい。Catizenは数秒で始めることができ、小さな子猫をクリックしたり、魔法のようにコインが現れるのを眺めたり(これについては後述)する。

友人を紹介したり、ソーシャルメディアでシェアすると報酬が獲得できるようになっており、賢い成長戦略だ。クリックするゲームもあれば、スワイプするゲームや、ずる賢い選択を迫られるゲームもある。

「ハムスターコンバット」は、Web3カルチャーの目立たない部分に扱った、ユニークなゲームだ。プレイヤーは暗号資産取引所のCEOとして、マーケティング、PR、さらには法的な検討事項に関する決定を下す必要がある。

例えば、「SEC Transparency(証券取引委員会に対する透明性)」という特典を利用したり、KYC(顧客確認)を実施したり、アラブ首長国連邦(UAE)での営業許可を取得すれば、時間当たりの利益を増やすことができる(ある意味、これは普通の人を取り込むには極めて特殊なゲームだ。イランのタクシードライバーがSECに対する透明性にこだわる姿を想像するのは難しい)。

TONのゲームはほんの数週間前に空から降ってきたように見えるが、多くは何年も前から開発されていた。これは、2017年のCryptoPunks以来、インサイダーがトレンドを追っていた2021年のNFTの夏を思い起こさせる。ウォン氏によれば、Catizenは2021年にテレグラムに目をつけ始めたという。

2023年1月になされた次の大胆な予測を考えてみよう。

「TONは、そのテクノロジーと、テレグラムのおかげで、ユーザー数で最大のブロックチェーンになるだろう。時間の問題だ」と、Notcoinの創設者サーシャ(Sasha)氏はツイッターに書いていた。

「テレグラムのMAU(月間アクティブユーザー)は7億人で、暗号資産を扱う人々にとって主要なメッセージングアプリだ。テレグラムの創設者たちはTONを発明し、ブロックチェーンをインテグレートしてテレグラムのユーザー名と匿名番号(NFT)を販売している。ひと月前には、ノンカストディアルウォレットとDEX(分散型取引所)を発表した」

タップして稼ぐ

これがまさにここ数カ月で起きたことだ。とはいえ、広大なネットワークと洗練されたインターフェイスで説明できることは限られている。TONのゲームには、他にも「お金を稼ぐ」という魅力がある。

何百万人ものNotcoinユーザーは、タップを繰り返してコインを稼いだ後、エアドロップを受け取って大喜びした。このエアドロップは800億のNotトークンをコミュニティに分配し、何も考えずにできるクリックを(少なくとも今のところは)本当に価値あるものに変えたのだ。

「テレグラムのミニアプリであるNotcoinは、わずか数カ月でアクティブユーザー数が3500万人に達した。遊び感覚でこのゲームをプレイしていただけのNotcoinユーザーは、突然、ゲーム内通貨を実際のお金に換えることができるようになった」と、テレグラムのCEO、パヴェル・ドゥロフ(Pavel Durov)氏は語った(テレグラムはSECとの規制上の問題の後、TONから正式に距離を置いた)。

Notcoinが先例を作ったことで、今では何百万人ものユーザーが将来の報酬を期待して他のゲームをクリックしている。「Play-to-Airdrop」は新しい「Play-to-Earn」の形だ。これはさりげない戦略ではなく、Catizenの公式キャッチフレーズも「Play to Airdrop」だ。

Web3分野で、価格上昇と無関係な成長を見つけることは難しいが、GameFiも例外ではない。ジマーマン氏は、「価格も含め、ここ数カ月の成功のほとんどは、我々が慣れ親しんだ昔ながらの投機によるものだ」と述べた。

1人の人間が複数のウォレットを持つことができるため、ジマーマン氏は報告されているユーザー数にも懐疑的。しかし、数字を差し引いても、ジマーマン氏は「真のファンダメンタルズ」があることを認めている。

そのようなファンダメンタルズは、他のゲーム開発者の目にも留まりつつある。「TONのゲームにはかなり強気だ」と、ライトニングネットワーク上でビットコインを使ったゲームを開発しているTHNDRのCEO、デス・ディッカーソン(Des Dickerson)氏は語った。

ディッカーソン氏は、モバイル暗号資産ゲームが人気を集める以前からゲームに傾倒してきた。「このトレンドは、ユーザーがソーシャルなやり取りにゲームを組み込んで欲しいと思っている証拠」であり「ゲームプレイに現実世界の価値が組み込まれていることを望んでいる」と述べた。

つきまとうアクシー・インフィニティの失敗と今後の見通し

しかし、1つ問題がある(暗号資産の世界では、いつもこのような但し書きを伴う)。

善し悪しは別として、話がうま過ぎるように思える「無料でお金を稼ぐ!」系の暗号資産ゲームには、次の単語が冷や水となる。「アクシー・インフィニティ(Axie Infinity)」だ。

アクシーは、前回の暗号資産ゲームのハイプサイクルの寵児だったが、今では広く苦い教訓と捉えられている。では、TONゲームはどう違うのだろうか?

まずウォン氏は、アクシーには「ゲームをプレイするための高い参入障壁があり、参入のためのチケットはどんどん高額になっていった」と述べた。

最も安いアクシーはピーク時で300ドルを超えており、新規参入ユーザーが流出ユーザーより多い限り、価格は上昇する。だが、持続可能ではない。ウォン氏は「ネズミ講とそれほど変わらない」と述べた。Catizenや他のTONゲームは対照的に、先行投資を必要としない。

カルダン氏は、「アクシーとどこが違うんだ?」という質問をよく受ける。「答えは簡単だ。これらのゲームはすべてトラフィックが命だ」と、カルダン氏は述べ、エアドロップは基本的にユーザーとトラフィックを獲得するためのマーケティングキャンペーンであり、トラフィックは収益化できると説明する。

「トラフィックを売ることがすべて」であり、それによって「広告主から資金が流れ込む」(カルダン氏)

ジマーマン氏はそう考えていない。

「正直に言えば、(ハムスターコンバットのようなゲームは)持続可能ではないことは誰もがわかっている。ネットワークを本当に成功させたいのであれば、収益性の高いアプリをいくつか用意する必要がある」(ジマーマン氏)

TONが(暴落を予感させる)市場サイクルの頂点のような「大きな頂点」の近くにいる可能性は十分にあると、ジマーマン氏は考えており、本当のテストは「破壊的な大混乱」の後に何が起こるかだと考えている。

ジマーマン氏は、TONが生き残り、成功さえする可能性もあると考えている。「UXと分配において、TONは本当に有利であり、これは暗号資産の世界では今までになかったことだ」とジマーマン氏は語った。

この成長は持続可能かもしれないし、そうでないかもしれない。しかし、成長そのものは否定できないし、重要なことだ。イラン軍に聞いてみれば良い。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Mehaniq / Shutterstock.com
|原文:What Hamster Kombat Did: How Telegram Built a Web3 Gaming Juggernaut