トランプ氏の「ビットコインカンファレンス」でのスピーチ、暗号資産の重要な瞬間に

ドナルド・トランプ前米大統領は、7月13日の暗殺未遂事件で負傷したにもかかわらず、今月末にナッシュビルで開催されるビットコインカンファレンスでのスピーチを予定している。暗号資産(仮想通貨)業界にとって、極めて大きなことだ。

十分な重要性を獲得した暗号資産

暗号資産は今、公式に選挙の争点のひとつになっており、特定の有権者や資金管理団体のPAC(政治活動委員会)を満足させるための台詞ではなくなっている。業界がその誕生から求め続けてきた一片の正当性が、ビットコインに登場する前大統領とともに実現する。

私は選挙戦に詳しくはないが、大統領候補が負けるリスクのない州でキャンペーンに時間を費やすのは奇妙だといつも思う。トランプ氏、あるいは共和党であればどの候補者でも、2024年の大統領選挙でナッシュビルのあるテネシー州で負けることはないだろう。

それなのにトランプ氏は、候補者が軍人の支持を得るために飛行機の格納庫で、あるいは組合の支持を得るためにトラック運転手に交じって、あるいはブルーカラーの名のもとに工場の前で演説をするのと同じように、非常に忙しい選挙運動期間中にテネシー州で開かれるビットコインカンファレンスに出席する。

世論調査やデータによれば、ほとんどの人は暗号資産を使用したり、所有したりしておらず(FRB調べでは2023年に暗号資産を使用または保有していたのはアメリカ成人の7%に過ぎない)、暗号資産を保有、またはかつて購入したことがある共和党員は28%(暗号資産投資会社パラダイム調べ)で、暗号資産を保有しているアメリカ人は5200万人(暗号資産取引所コインベース調べ)にもかかわらず、暗号資産はトランプ氏の再選戦略の一部となっている。

共和党は、公式綱領のマーケティング資料(pdfダウンロード可能な完全版)の「Champion Innovation(イノベーション擁護)」のセクションで、「Artificial Intelligence(人工知能)」と 「Expanding Freedom, Prosperity, and Safety in Space(宇宙における自由、繁栄、安全の拡大)」のすぐ上に暗号資産を追加しているほどだ。

トランプ氏がナッシュビルのカンファレンスに参加することには明確なメッセージがある。カンファレンスの内容が、場所よりも重要になってくる。トランプ氏を支持するシングルイシュー(1つの論点を重視する)の暗号資産有権者は十分に存在する。

少なくとも、暗号資産支持者の富裕層からの献金を考慮すれば十分だ。このカンファレンスにおけるトランプ氏の資金集めイベントへの参加費は、1人80万ドル(約1億2700万円、1ドル159円換算)以上だ。

共和党は、米国で暗号資産を推進する政党と見なされるよう、(無所属やリバタリアンを除けば、特に誰とも言えない人々と)争ってきた。

その一例が、フロリダ州知事のロン・デサンティス氏のような人々による先手を打ったアンチCBDC(中央銀行デジタル通貨)の公式宣言だ(おそらくアンチ中国、親資本主義に見せるためだ)。もうひとつは、親暗号資産的な決議に対するバイデン大統領の拒否権を覆すための下院での投票が、しっかりと党ごとに分かれたことである(共和党の反対者1名と、21名の民主党議員による超党派の支持を除く)。

私には、今回の選挙では、トランプ氏がアンチ暗号資産的な発言を完全に撤回するほど、暗号資産は共和党の有権者が大好きな「個人の自由」を語るための栄誉の印のような存在になっているように思える。

トランプ氏は2019年、こうツイートした。

「私はビットコインなどの暗号資産が好きではない。これらは通貨ではなく、その価値は非常に不安定で、何がもとになっているのかわからない。規制されていない暗号資産は、麻薬取引などの違法行為を助長する可能性がある」

そして2021年、トランプ氏はFox Businessのインタビューで「ビットコインはドルに対する詐欺だ」と発言した。

しかし今年初め、自身の別荘マー・ア・ラゴの晩餐会でトランプ氏は「……もし暗号資産を支持するなら、トランプに投票したほうがいい」と支持を表明した。

明らかに、獲得できる票があり、トランプ氏はそれらを欲しがっている。

5000万人の有権者、10万票: 奇妙なことになりそうだ

我々は健全な現実を知るべきだ。コインベースが示唆するように、5000万人の暗号資産保有者がいるとしよう。彼らは皆、本当にシングルイシューの有権者なのだろうか?

いや、もちろんそんなことはない。

昨年、CoinDeskのマーク・ホフスタイン(Marc Hochstein)とのインタビューで、暗号資産調査会社メッサーリ(Messari)の創設者であり、ゲーリー・ゲンスラーSEC(米証券取引委員会)委員長とエリザベス・ウォーレン上院議員(マサチューセッツ州選出)のアンチ暗号資産軍団に対して、「戦争」を宣言したソーシャルメディアの暴れん坊ライアン・セルキス(Ryan Selkis)氏は、暗号資産を保有するすべての人が暗号資産推進派候補に投票するわけではないことをそれとなく認めた。

しかし、勝つために、そのすべての票が必要なわけでもない。

「数万票の差で勝敗が決まる州もある。だから、5000万人がシングルイシューの有権者になる必要はない。必要なのは、大切な地域での数十万票だけだ」とセルキス氏。

彼は正しい。私は、2024年のアメリカ大統領選挙は10万票(もちろん一般投票ではなく、激戦州での純得票数)で決まると考えている。だから、候補者が勝つためには、激戦地域でできるだけ多くの票を集める必要がある。

そして、バイデン大統領は暗号資産支持者に対処したり、彼らの票を求めて努力したりすることに関心がないように見えるので、すべてのシングルイシューの暗号資産有権者はトランプ氏に投票し、周囲の人々にもトランプ氏に投票するよう影響を与えようとするだろう。

このように考えると、共和党が暗号資産を重要な票を獲得するための価値ある分野と考えていることは、非常に理にかなっている。

さらに、このカンファレンスは人々がテネシー州までわざわざ足を運ぶ一大イベントでもある。トランプ氏はテネシー州の有権者に語りかけるのではなく、地理的に多様な(あえて言うなら……分散化された?)アメリカの有権者に語りかけることになる。

あまりにも理にかなっている。暗号資産は今や明らかにメインストリームに定着している。暗号資産は奇妙だが、アメリカの政治も奇妙だ。

そしてその奇妙さは続いていく。シークレットサービスがビットコインカンファレンスの会場に散らばっているのも奇妙だし、メインストリームメディア(金融やテック関連の記者だけでなく)がカンファレンスの様子を取材するために出席するのも奇妙だし、トランプ氏が残りのビットコインをすべてメイド・イン・アメリカにしたいと再び発言するのも奇妙だ。

状況が奇妙になると、奇妙な人たちがプロフェッショナルになるのだろう。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Danny Nelson/CoinDesk
|原文:Trump’s Speech at Bitcoin Conference Will Mark a Pivotal Moment for Crypto