「アラド戦記」で好調のネクソン、Web3ゲーム「メイプルストーリー N」のデビューが秒読み【インタビュー】

『アラド戦記モバイル』の中国での配信開始で、記録的な売り上げを計上したゲーム会社のネクソン(NEXON)が、ブロックチェーンを基盤とする、いわゆる「Web3ゲーム」の開発を加速している。

ネクソンは、誕生から21年目を迎えた大規模マルチプレイヤー・ロールプレイングゲーム(MMORPG)の『メイプルストーリー(MapleStory)』に、ブロックチェーン技術をかけ合わせたバージョンの制作を進めているが、今月都内で開かれたカンファレンスで、この次世代型ゲームの機能の一部とロードマップを公開した。

累計のプレイヤー数は2億5000万人に達し、総売り上げは50億ドルを超える大ヒット作品のWeb3版を開発するため、ネクソンは中東・アブダビに子会社のネクスペース(NEXPACE)を設立。ネクスペースの事業開発部門を統括するポストには、米ペンシルベニア大学でマーケティングを学んだ後、2015年にネクソンに入社したアンジェラ・ソン氏を起用した。

今月9日、サントリーやコナミ、NTTデジタル、スクウェア・エニックスなどの国内大手企業のWeb3事業担当者らが出席するイベントで、ソン氏は開発中のWeb3ゲーム『メイプルストーリー N』を形づくる4つの機能を、流暢な英語で披露した。

ゲーム業界が注目するネクソンのWeb3ゲーム

(7月9日、都内で開催されたカンファレンスのステージに立つアンジェラ・ソン氏)

そもそもWeb3ゲームとは、ブロックチェーンを基盤にしたもので、プレイヤーはゲームの中で利用するアイテムをNFT(非代替性トークン)で取得したり、他のプレイヤーと交換・取引することが可能だ。また、プレイヤーはゲームをプレイするだけでなく、ゲーム空間やゲームの機能性を高める活動に参画し、報酬をトークンで得ることができる。

当然、オンラインゲームには世界中のプレイヤーがそのゲーム空間に集まる。大ヒットしたゲームで、アイテムがトークンとして流通し、プレイヤーがゲーム環境を整備する活動ができ、トークン報酬を得ることができれば、プレイヤーのゲームに対するエンゲージメントはさらにを高まる。新規のユーザーをゲームに誘導する起爆剤ともなり、プレイヤーのコミュニティを拡大することができる。

世界中のファンを魅了するゲームを開発してきた日本の大手企業も、Web3ゲームの設計を検討してきているが、『メイプルストーリー N』を今年中にデビューさせる計画を発表しているネクソンは、この分野では一歩先を走るフロントランナーと言える。

過去5年間、海外のスタートアップが中心となって、暗号資産を稼ぐことができる「Play-to-Earn型」のゲームの開発が活発化した。「アクシー・インフィニティ(Axie Infinity)」や「ステップン(STEPN)」はその一例だ。

今、ゲーム開発をリードしてきた既存のゲーム会社が注目しているのは、「稼ぐ」ことを第一目的としたものではなく、ゲームの楽しさを追及した基本設計に、いかにブロックチェーンとその関連技術のトークンを組み込むことができるかという点にある。

エクスプローラー、クエスト、マーケットプレイス、ナビゲーター

(ソン氏が公開したメイプルストーリー Nに搭載される4つの機能/ネクソン提供)

ソン氏がステージ上で発表した『メイプルストーリ N』の4つの機能は、「エクスプローラー(Explorer)」、「クエスト(Quest)」、「マーケットプレイス(Marketplace)」、「ナビゲーター(Navigator)」。

ネクソンは『メイプルストーリー N』のエコシステムを形成するコミュニティを「メイプルストーリー・ユニバース」と名付けている。このコミュニティの活動はブロックチェーンに記録され、その活動データは「エクスプローラー」で確認することができる。

コミュニティで利用するNFTは、「メイプルストーリー・ユニバース」専用の「マーケットプレイス(市場)」で交換でき、NFTのデータをチェックする時は「ナビゲーター」を使う。

「クエスト」は、コミュニティメンバーの活動(貢献)や、それに対するリワード(報酬)システムのこと。NFTの機能性を高めたり、「メイプルストーリー・ユニバース」のエコシステムを拡大する活動に対しては、トークン報酬が与えられる。

例えば、動画やイラストの制作、ソーシャルメディア上での活動も、リワードを取得できるアクティビティの一つだ。

利用制限エリアの日本と韓国、制限解除は?

現在、「メイプルストーリー・ユニバース」のリンクをタップすると、「お住いの居住地ではアクセスすることができない」と表示される。日本、韓国、米国、英国などの国は現時点で、利用制限国・地域に指定されている。

『メイプルストーリー N』が実際に始動する時、日本や韓国の多くのファンは参加できるのか。

9日のイベント登壇後のインタビューで、ソン氏は「いま言えることは、利用できる地域を広げるために努めている」とした上で、「現時点で最優先しているのは、ユーザーにとって、より持続可能なサービスを開発すること」とコメントした。

利用を制限している国・地域を設けている理由について、ソン氏は「(当該国の)法規制に関係している」と述べる。日本が制限地域リストから除外されるかは現時点では未定だが、「日本はポテンシャルの高い市場であることは間違いない。多くの『メイプルストーリー』のファンが存在する」とソン氏は話す。

また、ネクソンはポリゴン(イーサリアム・ブロックチェーンのレイヤー2チェーン)を採用する計画を取り止め、アバランチ・ブロックチェーンを基盤に「メイプルストーリー・ユニバース」の開発を進めると発表している。

ソン氏は、「ポリゴンとアバランチは共に優れたブロックチェーンであり、それぞれの強みがある。ポリゴンはWeb3を代表するプロトコルで、オープンで分散型な組織」と話す。

一方、「アバランチは金融機関と協業するトラックレコードを有していることが特徴の一つ。数十年間、ゲームの開発と運営を行ってきた我々にとって、あらゆる不測の事態に対してリアルタイムに応じる体制を維持することが重要だ。そういった面で、アバランチは我々にとっては良きパートナーであると考えている」とソン氏は続けた。

株式市場も注視するネクソン

「ブロックチェーンやクリプト(仮想通貨)を知ったのは、ネクソンで企業戦略の仕事の中で、先進テクノロジーのリサーチをしていた頃。クリプトにも投資してきた」とソン氏。「ブロックチェーンを使ったゲームを開発し、それをさらに改善する仕事をし続けていきたい。そのために学ぶべきことはたくさんある」

世界で約8200人の社員が働くネクソンは、株式を東京証券取引所に上場しているが、開発部隊の拠点を韓国・ソウルに置いている。2023年(1月~12月)の売上収益は約4230億円で、国・地域別では韓国と中国でそれぞれ2550億円と1000億円を稼ぎ、両市場をあわせると全体の8割を占める。

6月、テンセントが中国での配信を開始した『アラド戦記モバイル』が、最初の1カ月としてはベストセラーゲーム『王者栄耀(オナー・オブ・キングス)』の2倍を超える売上高を記録したと、ブルームバーグが報じた。

報道によると、ネクソンは、『アラド戦記モバイル』がアップルの「iOS」で5月21日の配信開始以降、2億7000万ドル(約400億円)を売り上げたという。ネクソンの株価は年初から約20%上昇した。

『メイプルストーリー N』のテスト運用は7月中に始まる。ソン氏によると、ネクスペースは8月と10月に「大きな」発表を予定しているという。

株式市場に加えて、ゲーム業界の関係者は今夏、ネクソンの取り組みを注視する必要がありそうだ。

|取材・文:佐藤 茂
|写真:CoinDesk JAPAN編集部