DePINプロジェクト「DIMO」は、車のデータを提供した自動車所有者に報酬を与える。だが、共同創業者のロブ・ソロモン(Rob Solomon)氏は、自動車向けDePINのメリットは金銭的なインセンティブをはるかに超えると語った。
自動車産業は岐路に立たされている。我々はEV(電気自動車)と自動運転の未来に向けて疾走しているが、自動車を所有する喜びという大切なものが失われつつあるように思える。かつて自動車文化を形づくっていた情熱や個性は消えつつあり、自動車が単なる移動手段でしかないような、つまらない世界になりつつある。
しかし、ブロックチェーンテクノロジーと自動車という予想外の組み合わせが、再び興奮に火をつけるとしたらどうだろう?
減価償却資産が収入源に
ここで登場するのが、DePIN(分散型物理インフラネットワーク)だ。暗号資産(仮想通貨)の多くが投機的な取引などに過度に焦点を当ててきたのに対し、DePINネットワークはブロックチェーンを物理的な世界に結びつける。
ヘリウム(Helium)の分散型ワイヤレスネットワークから、レンダー(Render)の分散型GPUプラットフォームまで、イノベーターたちは、物理的資産の所有権を、より見返りのある、より魅力的な、率直に言ってより楽しいものにしながら、より良いインフラを構築する方法を見出している。
では、これが自動車とどう関係するのだろうか?
DIMOの出番だ。DIMOは、最先端の車両統合テクノロジーを使って「自動車の所有体験」を向上させるために開発されたDePINネットワークだ。
DIMOは、自動車にオンチェーン・アイデンティティを付与し、所有者が自動車とそのデータをコントロールできるようにすることで、まったく新しいサービスや体験、経済的機会を提供する。
ほとんどの人にとって、車は家に次いで大きな買い物だ。さらに毎年約1万2000ドル(約188万円、1ドル157円換算)もの出費を強いられ、苦痛に耐えて陸運局へと出向く必要があり、不意のエンジン警告灯の点灯やパンクで旅行が台無しになることもあり得る。
今は2024年。最新テクノロジーによって、所有権はより安く、より簡単に、そしてより見返りのあるものになっているべきだ。経費を大幅に節約し、面倒なことをすべて自動化するだけでなく、2030年までに8000億ドルの価値があると専門家が言うように、車両データを収益化してお金を稼ぎ、あなたとあなたのクルマのために作られたアプリやサービスの豊富なエコシステムを利用できるようになっているべきだ。
自動車メーカーがこれまで、スマートビークルテクノロジーの導入で追求してきたサイロ化されたアプローチが、この未来を妨げてきた。セキュリティー、プライバシー、そしてオープン性の観点からは、それは災難だった。
自動車を所有するだけでトークンを獲得することができる一方で、あなたが共有することを選択したデータが、交通管理の改善、より良い都市計画、より安価な保険、そして最終的なあなたの車の下取り価格の向上に貢献することを想像してみてほしい。突然、あなたの減価償却資産が受動的な収入源になるという話だ。
DePINがもたらすもの
DePINの可能性は、単なる金銭的インセンティブにとどまらない。DePINは、所有体験全体に革命をもたらす。愛車をカスタマイズすることが誇りだった頃を覚えているだろうか? あなたのお父さんも、週末は1987年型ファイヤーバードのエンジンをいじっていたかもしれない。車の前でポーズをとっているお父さんのポラロイド写真が、地下室の靴箱の中に何枚か隠されているかもしれない。
DePINは、そうしたパーソナライゼーションとコミュニティの感覚を現代的な方法で取り戻してくれる。あなたの車にオンチェーン・デジタルツインがあり、その外観をカスタマイズしたり、バーチャル・カーショーに参加したり、現実世界の車のデジタルバージョンのレースに参加することができる世界を想像してみてほしい。
あなたの車は、まったく新しいエコシステムへの鍵となる。このような自動車所有のゲーミフィケーションは、現実世界にも及ぶ可能性がある。ブロックチェーンベースのシステムは、安全運転や最適なルート取り、あるいは現実世界のカーボンオフセットに報酬を与えることができる。毎日の通勤が突然、ゲームになり、貴重な報酬が得られるようになる。
しかし、おそらく自動車の世界におけるDePINの最もエキサイティングなユースケースは、販売と登録のイノベーションだ。ブロックチェーンが実現する未来では、ディーラーから新車を購入する場合でも、オンラインで知らない人から購入する場合でも、所有権の受け取り、ローン、保険、登録が数秒で完了するだろう。
車自体がウォレットを備え、ガソリン(電気?)代や通行料、スターバックスでの支払いも可能になる。陸運局で1時間も待たされた挙句、「書類の種類が違うので、明日また来てください」と言われることもない。
パーキング場の支払いに小銭を出したり、粗悪な政府アプリをダウンロードする必要もない。ブロックチェーンとDIMOなしには、こうした複雑なトランザクションのすべてを調整できる、オープンで信頼できるシステムを構築することは不可能だろう。
前途
もちろん、DePINが自動車産業やそれ以外の分野で真に成功するには、アクセシビリティの問題を克服しなければならない。あまりにも長い間、暗号資産の世界はテクノロジーに精通した人だけの内輪のクラブであり、技術的な知識や金銭的なリスクの点で参入障壁が高かった。
DePINプロジェクトは、ブロックチェーンテクノロジーの複雑さを隠すユーザーフレンドリーなインターフェイスの開発に注力する必要がある。平均的な車のオーナーは、スマートコントラクトや秘密鍵を理解しなくても、これらのシステムから恩恵を受けられるべきだ。
これは夢物語ではない。DIMOでは現在、その土台作りが行われており、10万台近い自動車が接続され、こうしたシナリオを現実のものとするインフラが整いつつある。
テクノロジーと物理的世界の両方に情熱を傾ける人々にとって、この先はエキサイティングな道のりだ。我々には、単に業界に革命を起こすだけでなく、人々がどのように周囲の世界と関わり、そこから価値を得るかを根本的に変えるチャンスがある。
DePINが自動車に適用している原理は、事実上あらゆる物理的資産に拡張できる。あなたの家は、分散型送電網に貢献することでトークンを得ることができるはずだ。あなたのスマートフォンは、分散型コンピューティングネットワークに参加することで報酬を得ることができるはずだ。
重要なのは、より分散化されたユーザー中心の未来に向けて開発しながら、ユーザーに即座に目に見える形で利益を提供するシステムを作ることだ。ブロックチェーンテクノロジーをそれ自体が目的ではなく、我々と物理的な世界とのやり取りを強化するツールとして使うことだ。
今度ハンドルを握るときは、クルマが単にある地点から別の地点への移動のためだけのものではなく、現実世界でもオンラインでも、あなたの日常生活や個性のシームレスな延長となる未来を想像してみてほしい。
それが我々が築こうとしている未来だ。クルマを所有することは、再びクールなことになるだろう。
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記念すべき二期第1回の「ラウンドテーブル(研究会)」のテーマは今、Web3で最もホットなテーマといえる「DePIN(分散型物理インフラネットワーク)」。注目のDePINプロジェクト「Helium(ヘリウム)」のCEOがオンライン参加する。
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|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Eugene_Photo / Shutterstock.com
|原文:DePIN Can Make Car Ownership Cool Again