「第1のバリア」を解決、税制改正要望を提出:JBA──重要ポイントをJBA税制分科会長に聞く【インタビュー】

日本の暗号資産(仮想通貨)口座開設数が1000万口座を超えた今(日本暗号資産取引業協会:JVCEAのデータ)、国が「骨太の方針」のなかで重要施策のひとつに掲げるWeb3推進のためにも、暗号資産に関するさらなる税制改正が必要として、日本ブロックチェーン協会(JBA)は19日、「暗号資産に関する税制改正要望」を提出した。

法人税については、一昨年度、「自社保有の暗号資産」が期末時価評価課税の対象外となり、昨年度は「他社発行の暗号資産」についても一部対象外とすることが税制改正大綱に盛り込まれた。

だが個人の暗号資産取引に関する課税の改正は、数年前から各業界団体が継続して要望しているものの、依然として進展が見られず、総合課税の対象として最大55%の税率が適用されている。グローバルからみてもきわめて高い税率は、Web3マスアダプションのハードルとなっている。

「2025年度 日本ブロックチェーン協会 暗号資産に関する税制改正要望」について、要望書のとりまとめ、作成をリードしたJBA税制分科会長の岩崎宏太氏(フィナンシェ 会計税務責任者)に今回の要望書における重要ポイントなどを聞いた。

まず、要望の内容は以下のとおり。

JBA 暗号資産に関する税制改正要望

1.申告分離課税・損失繰越控除の導入

個人の暗号資産取引にかかる利益に対する課税方法は総合課税の対象となり、最大55%の税率が適用される。
これを申告分離課税に変更し、税率を一律20%とすること。
損失を出した年の翌年以降3年間、その損失を繰り越して、翌年以降の暗号資産に係る所得金額から控除することができるようにすること。
暗号資産デリバティブ取引についても同様の扱いとすること。

2.暗号資産同士の交換時における課税の撤廃

個人が暗号資産同士を交換した場合には、その交換の都度、発生した利益について個人所得税が課税される。
ボーダーレスであるweb3時代の決済においては、暗号資産同士の交換が経済圏の主流となる可能性が高く、発生するトランザクションや交換する暗号資産の種類が多岐に渡ること等から、納税計算が非常に煩雑になり、暗号資産が本来もつ利便性を著しく阻害している。
ついては、暗号資産同士の交換に対する課税を撤廃すること。

3.暗号資産を寄附した際の税制の整備

以下を通達やガイドライン等において公表し明確化すること。
• 個人が暗号資産を寄附した場合、所得税法上の寄附金控除の適用対
象となりうること。
• 法人が暗号資産を寄附した場合には特別損金算入限度額までの損金算
入の対象になりうること。
また、個人が暗号資産を寄附した場合、その含み益に対して租税特別措置法40条における現物寄附のみなし譲渡所得税等の非課税特例と同様、非課税とすること。

4.特定譲渡制限付暗号資産の今後の見直しの継続検討

2024年4月1日の改正法人税法の施行で特定譲渡制限付暗号資産が導入され期末時価評価の問題が大きく前進したが、「譲渡制限の付与」や「対象となる暗号資産の制限」、「暗号資産交換業者への通知」といった条件を満たすことは、オペレーション上の障壁が高く、制度の活用を躊躇うケースもある。
特定譲渡制限付暗号資産の活用状況や将来の環境変化を踏まえ、今後、各種の条件なしに期末時価評価課税の対象外とすることを継続検討すること。

「2年連続で実現」の気運を活かして

JBA税制分科会長
フィナンシェ 会計税務責任者
岩崎宏太氏

──今回、最も力を置いているものは何か。

要望の順番が優先順位になっている。一昨年度に自社発行(保有)の暗号資産、昨年度に第三者保有の暗号資産と、期末時価評価課税の問題解決が実現した。この数年、まずは自社保有の問題に最優先で取り組み、第三者保有分についての改正は、少し時間がかかるのではないかと考えていた。だが、行政の理解と協力を得ることができ、2年連続で大きく進んだ。これはWeb3業界が、日本経済に大きく貢献できると認識され始めている証と考えている。

──法人税の改正が進み、次はいよいよ「個人」というわけだが、個人の所得税の改正は影響も大きく、ハードルが高いとの声もある。実現可能性をどう考えているか。

サービスを提供する法人側の税制改正はある程度実現したが、一方でサービスを利用するユーザーの所得税の税制では、依然として最大55%の税率が課されており、暗号資産の保有、Web3マスアダプションに向けた第1のバリアとなっている。

もちろんハードルは高いと考えているが、我々の予想を超えて、2年連続で法人税の税制改正が実現した気運に乗って、個人の所得税に関する税制改正を実現できれば、さらに業界やWeb3を取り巻く気運が高まり、注目度が高まると考えている。JBAとしては今年度、大いに期待している。

マスアダプションに向けた両輪を整備

──暗号資産口座数が1000万口座を突破したというデータは追い風と言える。

有価証券の口座数と比べると、まだ少ないものの、口座数はかなり増加している。業界全体を考えたときに需要と供給、つまり提供側である法人と利用者である個人は、Web3マスアダプションに向けた両輪であり、双方の環境が整備されて初めて、マスアダプションに向けてどんどん進んでいけると考えている。

今回、所得税の改正が実現すれば、さらに急角度で口座数および利用者は拡大していくだろう。

──4つ目の「特定譲渡制限付暗号資産」は、第三者保有の暗号資産について、より使いやすくしてほしいということか。

申請のしやすさなどは改善されたが、例えば、条件として「日本国内の取引所に上場されている銘柄」などがあり、厳しいものになっている。そこについての継続検討を要望している。

──税制改正の要望は、他の業界団体と連携して行っていくのか。

今回の提言は単独で発表する形になる。業界団体は、それぞれ構成メンバーに応じて若干の違いがある。例えば、我々JBAはWeb3事業者を中心として構成されているが、横の連携は密に取っている。要望の方向性に大きな齟齬はなく、連携して改正を実現していきたいと考えている。

|取材・文:増田隆幸
|画像:発表資料より