ビットコインマイニング、力強く復活(ただしAI関連で)

ビットコインマイニングが復活している。1週間前の乱高下で一部、不確実性が増しているものの、7月にはビットコイン価格の上昇に伴い、上場している5大マイナー(総ハッシュレート=ビットコインネットワークの安全性を確保するために費やされる計算能力から算出)のうち4社の株価は2桁のパーセントポイントで上昇した。

(上場5大マイナーのうち4社の株価が2桁パーセントポイント上昇:TradingView)

この状況に乗り遅れているのは5社の中で最も小規模なアイリス・エナジー・リミテッド(Iris Energy Ltd)で、先日、カルパー・リサーチ(Culper Research)が同社の空売りを発表した後に株価が15%下落した。カルパーが弱気に賭ける理由は、アイリスのテキサス州チルドレスにある施設がAI(人工知能)やハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)に適していないというリサーチャーの見解だ。

AIやHPCはビットコインマイニングとは無関係に思えるだろうが、先月、コア・サイエンティフィック(Core Scientific)がコアウィーブ(CoreWeave)と200メガワットのAI契約を結んだことで株価が40%上昇したように、こうした多角化はビットコインマイナーにとって収入を得るための手段となっている。

おそらく、ビットコイン価格が上昇を続ければ、アイリスの施設がビットコインマイニング以外の収益を生み出すことに適していないことは、さほど重要ではなくなるだろう。

いずれにせよ、「ビットコインマイニングが力強く復活した」ことの本当の意味は、「ビットコインマイニング“株”が復活した」だ。純粋に「マイナーが増えたかどうか」を基準にすると、既知のプールのハッシュレートは、期待されるような増加は見せていない。ただし、ハッシュレートに関しては「完璧」なデータは存在していない。

しかし、ビットコインマイニングにまつわるストーリーを掘り下げ、インタビューや公開書類でマイニング企業の発言をチェックすると、彼らがまだビットコインマイニングに集中している一方で、他の一見無関係または関連性の薄いことについても多くの議論があることがわかってくる。

AI、あるいはハイパフォーマンスコンピューティング

派手なニュースから取り上げよう。

プライベートエクイティ大手がビットコインマイナーに接近中、データセンターのAI転用を目論む

そしてもうひとつ。「コア・サイエンティフィックは、HPCの拡大を反映し、中立から買いにアップグレード: Bライリー」

2度あることは3度あると言うくらいなので、もうひとつ。

ビットコインマイニング業界、投資家の関心集める──AI企業との取引がきっかけ:JPモルガン

先日、AIとビットコインがいかにエネルギーを大量に消費するかについて書いたが、それだけではなく、ビットコインマイニング施設は、AIあるいはHPC向けに簡単に改造できるようだ。

投資家はこのような適応性を好む。CoinDeskのウィル・キャニー(Will Canny)とアオヨン・アシュラフ(Aoyon Ashraf)によると、「プライベート・エクイティ(PE)企業は、AI(人工知能)関連マシンに電力を供給できるデータセンターに対する需要の高まりを背景に、ビットコインマイナーにようやく価値を見出している」。

JPモルガンの調査も同じことを示唆しており、面白いことに、同行の調査によれば、アイリス・エナジー(カルパーが「AIへの準備が整っていない」と判断している企業)は、このシフトの流れを活用できる最適なポジションにあるという。

ブロックスペース・メディア(Blockspace Media)の共同設立者でポッドキャスト「The Mining Pod」のホストを務めるウィル・フォックスリー(Will Foxley)氏は、ビットコインマイニング施設がAIコンピューティングのサポートに移行するのに適しているという主張について懐疑的な見方を示した。

「ビットコインマイナーの多くは、『AIができる』と話しているだけで、実際にはできない」とフォックスリー氏は語った。

サービスとしての金融エンジニアリング

私は以前、株式公開は馬鹿げていると主張した。その理由のひとつは、長期的な目標に焦点を当てるべきなのに、短期的な四半期ごとの収益に焦点を当てた考え方にシフトする必要があるからだ。また、企業が苦境に立たされた場合、誰もがそれを知ることになり、企業の立場が脆弱になる。

2022年、マイニング企業は苦境に立たされた。コア・サイエンティフィックは破産宣告までした。そしてこれはすべて、2024年4月のビットコイン半減期によって、マイナーの収益見通しが大きく悪化する前のことだった。

一般的にマイナーにとっては厳しい状況であり、上場マイニング企業が多数存在するため、競合他社は誰が苦戦しているかを正確に特定できた。ライオット・プラットフォームズ(Riot Platforms)はこの状況を利用し、小規模なマイニング会社であるビットファームズ(Bitfarms)の買収を試みた。ビットファームズは株式公開されていたため、ライオットはビットファームズの経営陣に声をかけ、丁重にお願いする必要はなかった。

その代わりにライオットは敵対的買収を試み、ビットファームズ株を大量に購入した。ライオットの経営がビットファームズよりも優れていて効率的であるというライオットの推測が正しければ、これはうまくいったかもしれないが、買収の試みは結局失敗に終わったので、実際のところわからない。

株主へのリターンを増やすことのできる財務上のテクニックは他にも存在する(だが、ライオットの株価は今年25%安となっていることからわかるように、失敗すればリターンは悪化する)。

その一例が、相互合意による買収で、これはコアウィーブがコア・サイエンティフィックとのAI取引後に試みたものだ。この提案は拒否されたが、成長意欲のあるAI企業がビットコインマイニング企業を見て、次のように考えたということを物語っている。

「ちょっと待てよ。AIのチャンスを逃す前に、事業を急成長させる必要がある。ビットコインマイナーには設備があり、それを改修して使うことができるのだから、買収するべきだ」

「ビットコイン企業の中には、魅力的な電力契約を結んでいるところもあると思う。もしあなたがコアウィーブのような巨大なデータセンター提供企業なら、ビットコインマイニング施設を更地にして、新しいAIデータセンターを立ち上げるための数十億円なんて大したことはないだろう」とフォックスリー氏は指摘し、次のように続けた。

「もちろん買収は高くつくだろうが、電力契約の期間が長いために、上場AI企業として得られる企業評価と、AI企業としての収益の両方に基づいて、元が取れることに賭けている」

このように考えているAI企業は、コアウィーブだけではないだろう。

他の暗号資産のマイニング

イーサリアムがプルーフ・オブ・ワーク(PoW)からプルーフ・オブ・ステーク(PoS)に移行する前は、マイニング企業はイーサリアム(ETH)もマイニングしていたが、今ではビットコインだけをマイニングしている。

少なくとも、マラソン・デジタル(Marathon Digital)が2023年9月から、カスパ(Kaspa)と呼ばれる比較的無名の暗号資産をマイニングしていることを明らかにするまでは、ほとんどの人がそう考えていた。

カスパは、ほとんどの指標で見て、たまたまマイニング可能だったというだけの暗号資産に過ぎない。マラソンは、マイニングに必要なスペースと電力を手に入れることができ、採算が取れそうだった。採算性のあるアクティビティは良いことであり、マイニングに着手した。

「カスパをマイニングすることで、ビットコインから分散した収益フローを作ることができ、それはデジタル資産コンピュートという当社のコアコンピタンスとダイレクトに結びついている」と、マラソンの最高グロース責任者アダム・スウィック(Adam Swick)氏は声明で述べた。

私は、カスパや潜在的に他の暗号資産のマイニングは、業界の具体的なシフトというよりも、目新しさによるものだと考えている。 他のプルーフ・オブ・ワーク暗号資産が台頭するとは思えないからだ。

しかし、マラソンの動きは、ビットコインマイナーが収益と採算性に苦しんでおり、穴埋めのためにビットコインマイニング以外の場所に目を向けているという、より広範な状況を一層浮き彫りにしている。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:米ワシントン州にあるビットファームズのマイニング施設(Eliza Gkritsi/CoinDesk)
|原文:Bitcoin Mining Is So Back (Except It’s AI Now)