我々が(まだ)Web3ゲームに投資し続けている理由

今年、ゲームトークンが全体で37%下落していることで「Web3ゲームは終わった」という辛口の意見も出ている。しかし、暗号資産(仮想通貨)は周期的なものであり、現在の不況は前代未聞のものではない。

シードやプレシードに特化したエンジェル投資家として、我々は今が投資に最適な時期だと考えている。「暗号資産の冬」から抜け出したものの、暗号資産の強気とそのとんでもない評価額によって手が出せないほど高額になってはいない今は、開発者たちが心躍るような新しいアイデアを売り込み、魅力的なMVP(Minimum Viable Product:必要最低限の機能を備えたプロダクト)を出している特別な時期だ。

そして、Web3ゲームは、他のどのユースケースよりも、イノベーション、普及、インパクトの面で、我々をさらに前進させる。そうしたテーゼに導かれ、我々は実際に投資を行っている。

初期の苦労

我々の会社Emfarsisは現在、ゲームに焦点を当てたアーリーステージのWeb3プロジェクトに投資し、助言している。我々が最初にブロックチェーンに興味を持ったのは、2016年にさかのぼる。

その理由は、このテクノロジーが社会から疎外されたグループに力を与え、インクルージョンをサポートし、富と権力をより公正かつ透明に再分配し、世界中の何十億もの人々の生活を向上させる可能性があると考えたから。究極的には、我々はWeb3は善の力になると信じた。

我々がWeb3に全面的に力を入れ出したのは2017年末のことで、公平な取引を求めて銀行と必死に戦っている事業者のために、公平な競争の場を提供しようとする暗号資産決済スタートアップに参加した。

我々は世界中を回って講演をしたり、ワークショップを開いたりする一方で、リア(Leah Callon-Butler)は、ピアツーピア(P2P)決済や暗号資産に裏打ちされた送金、分散型アイデンティティやレピュテーションに至るまで、あらゆることについて啓蒙的なオピニオン記事を書いていた。

しかし、そのような啓蒙活動は苦労の連続だった。もちろん、自分たちが銀行となり、パーミッションレスで取引できることなどを説明すると、人々は力強くうなずいた。しかし、実際にシフトしたのはごく少数だった。さらにシフトした人の場合でも、セルフカストディをしたり、分散型エコシステムを探索したりするよりも、現地のライセンスを受けたCEX(中央集権型取引所)で暗号資産を購入し、HODL(長期保有)する傾向が強かった。

人々に使ってもらえなければ、世界を変えるテクノロジーに何の意味があるのだろうか、と我々は自問することになった。たまにウォレットの残高をチェックするだけでなく、リアルに使ってもらえないのであれば、何の意味があるのだろうかと。

当時(2018年~19年頃)、我々は学習曲線が険しすぎ、UXは最悪だと感じており、率直に言って、ウォレット、支払い、送金について話すと、人々は退屈で居眠りを始めてしまった。

言うまでもなく、ほとんどの人々は、不安定でリスクが高く、詐欺の可能性があると考えられている「魔法のコイン」に投資することにあまり乗り気ではなかった。そんなギャンブルに手を出したいと思う普通の人はほとんどいなかった。

「Play to Earn」ゲームの登場

しかし、ビデオゲームをしてお金を稼ぐ? それはまったく別の提案だった。これが、「Play to Earn」の明るい希望であり、我々はそれをほとんどの人よりも早く、「ブロックチェーンゲーム」がまだ矛盾した言葉だった頃にいち早く発見した。

2020年8月にリアが米CoinDeskにブロックチェーンゲームについての記事を初めて書いたとき、アクシー・インフィニティ(Axie Infinity)のDAU(デイリーアクティブユーザー)は500人にも満たず、まだイーサリアムブロックチェーン上で、他の暗号資産と同じUXとオン/オフランプの問題に苦しんでいた。

しかしそれでも、お金を払ってプレイするゲームについて噂が広まると、新規ユーザーの波は止まらなかった。特に、若く、デジタルに精通し、英語も堪能で、銀行口座を持たない人々がほとんどだった。暗号資産のマスアダプションの奇跡を起こすと信じ、我々が2018年に移転したフィリピンではその傾向が顕著だった。

2021年7月のピーク時、アクシーは約300万人のデイリーアクティブユーザーを誇った。ユーザーは主に、東南アジア、ラテンアメリカ、インド、アフリカの新興経済圏出身の、貧しく、あまりスキルを必要としないサービス部門労働者たちだった。まさに、暗号資産に個人的なエンパワーメントを見出す日がいつか来ることを我々が望んでいた人たちである。

このコミュニティはこれまで、可処分所得がないために暗号資産マーケティング担当者に無視されてきたが、ここにきてようやく、合法的に、グローバルな分散型デジタル経済で対等に競争できるようになった。これは我々が予測していた奇跡だったが、ビデオゲームがそのきっかけになるとは夢にも思っていなかった。

アクシーの偉業

ここで重要なのは、アクシーの開発元スカイ・メイビス(Sky Mavis)が、ブロックチェーンを使いやすくしたり、理解しやすくしたりすることなく、この普及の偉業を成し遂げたことだ。

プレイするために必要なNFTを購入する必要があったが(少なくとも初期の頃はそうだった)、参加コストを下げることすらしなかった。その代わりにアクシーは、他に類を見ないWeb3ネイティブの体験を提供することで形勢を一転させた。

開発者やパブリッシャーだけでなく、ゲームのバーチャルエコノミーに実質的な価値を提供した誰もが利益を享受できるように、ゲームを金融化した。そして、人々はそれを心から欲しがり、それを手に入れるためには面倒も乗り越えた。

当時、数え切れないほどの記事でアクシーの異常な成長が取り上げられたが、おそらくその最大の要因は奨学金の台頭だった。これは、アクシーNFTのオーナーが他のプレイヤーにNFTをレンタルし、ゲーム内収益の一部を受け取るというコミッションモデルとして記憶されているだろう。

しかし、多くの人が知らなかったのは、奨学金はスカイ・メイビスの発案ではなかったことだ。NFTの価格高騰とゲーム内の生産性低下という問題に対処するために、アクシーのプレイヤーコミュニティが自分たちのために考案したビジネスモデルで、究極的には、より多くの新規プレイヤーを金融化された楽しみの世界に取り込むためのものだった。奨学金制度は、ゲーム開発者が提供したツールを、必ずしも意図されていたとは言えない方法で活用し、許可なく構築された。

ほとんどのWeb3ゲームは現在、「Free to Play」モデルを導入し、NFTの所有はプレイヤーがゲームを始めるための必須条件ではなくなっている。そして、奨学金制度はいまや、ほとんど不要となっている。

しかし、この状況は、完全オンチェーンゲーム(FOCG)やパーミッションレスのユーザー生成コンテンツ(UGC)など、コンポーザブルな「改造」をめぐるより新しく洗練されたトレンドが、Web3ゲームにおける自由奔放な起業家の創造性を解き放つと何が可能になるかを示す前触れだと、我々は今でも考えている。

FOCGは開発の初期段階であること、進歩が遅いこと、DAUが低いことが批判されているが、我々はこれらのゲームをWeb3の研究開発部門と捉えている。

FOCGがWeb3の基本法則を実験的に組み合わせ、ソウルバウンドトークン(SBT:譲渡不可能なNFT)のような新しいタイプのNFTや、ERC-6551のような新しい標準とDeFi(分散型金融)、DAO(分散型自律組織)などを融合させ、所有権、インセンティブ、ガバナンスをめぐるユニークなトークノミクスを生み出すと同時に、Web2では実現可能どころか、考えもできなかったようなまったく新しいユーザー体験を提供すると信じている。

ブロックチェーン史上最高のユースケース

我々がエンジェル投資を始めたのは、Web3の要素レベルを下げることなく、暗号資産をもっと楽しく遊んだり、楽しく学べるものにしながら、マスアダプションさせることが可能だと気づいたからだ。

この気づきは、我々のすべての意思決定の指針であり続けている。特に、巨大なTAM(Total Addressable Market:獲得可能な最大市場規模)が存在することを確信している。

暗号資産のオープンで分散型の手法に支えられ、まったく新しい種類のギグエコノミーを生み出した、新しいカテゴリーのビデオゲームの潜在的なTAMは、気が遠くなるような莫大な規模になるだろう。

我々はCryptoKittiesやアクシーの初期から長い道のりを歩んできた。2024年7月現在、BlockchainGamer.Bizによると、複数のジャンルにまたがる994以上の高品質でプレイ可能なWeb3ゲームが70のブロックチェーン上に存在する。

これらのスタートアップのほとんどが2021年から22年頃に資金調達したこと、従来のゲームスタジオがAAAゲームを作るには8年ほどかかることを考えると、これは驚くべきことだ。

我々は、Web3ゲーム開発者による着実な開発、測定可能な進歩、無限の独創性を見ており、彼らがセクター全体の有望な成長を推進するなか、すべてのレイヤー2(L2)は大きくなる利益の取り分を求めている。

DAUが低く、トークン価格が下がっているときでも、ゲームはリアルで、真にアクティブで、きわめて熱心に参加している暗号資産ユーザーを見つけることができるWeb3の数少ない分野だ。

そのため我々は、ゲームがブロックチェーンにとって、これまでで圧倒的に最高のユースケースであると確信したままでいる。今、投資家たちが知りたいのは、次の強気相場のきっかけとなる「次なるアクシー」は何かだ。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Why We’re (Still) Investing in Web3 Gaming