あなたがビットコインとまだ初期段階にあるライトニング・ネットワークのファンなら、この表を見て失望するかもしれない。
スーパーヒーロー?
ライトニング・ネットワークは、最も難しく、最も大きな問題に対処することでビットコインを新たな高みに押し上げ、ビットコインのスーパーヒーローになるはずだった。問題とは、仮にビットコインが「主流になる」とすると、現在よりも100万倍多いトランザクションをサポートする必要があること──簡単なことではない。
しかしこの表から判断すると、ライトニングは勢いを失っているようだ。ライトニングが保管する資金の量は減少しているようで、決済方法として使っている人が少数であることをおそらく示している。ライトニングの「チャンネル」は、他のネットワークへのゲートウェイのように機能し、ユーザーから他のユーザーへの支払いを可能にしている。
一方、ライトニングはまだ「ベータ版」のソフトウエアで、それゆえ使うにはリスクが高いと見なされている。だがビットコイン支持者はライトニングに熱心で、ゲームをはじめ、どんな用途にも使用し、非公式のスローガン「無謀(reckless)」を掲げている。ライトニングのキャパシティは1年目に急速に伸び、支持者たちはソーシャルメディア上で歓喜した。
留意すべきは、数字は減少しているものの、ライトニング・チャンネルのプライバシー向上とその他の最適化のため、ライトニングの使用は実際はまだ増えているかもしれないことだ。
「(ライトニング・ネットワークの)キャパシティを知る術はない。我々が唯一分かっているのは、パブリック・チャンネルのキャパシティであり、プライベート・チャンネルのキャパシティではない」とブリーズ(Breez)のCEO、ロイ・シャインフェルド(Roy Sheinfeld)氏はCoinDeskに語った。
そして、少なくとも1社は──彼ら自身の経験として──ライトニングの決済は上向いていると語った。
「ライトニング・ネットワークでのドル換算の価値は増加している。私が見た限りでは、価格が上がり、その結果として、購買力を保持するためにチャンネルに保管するコインの量を減らすことができたということ」とファストビットコインズ(FastBitcoins)のマーチャンダイザー、ダニー・ブリュースター(Danny Brewster)氏はCoinDeskに語った。
2つのノード
一方、これまではこの数字をスポーツ──例えば、テックギークにとってのサッカー──のようなものとしてウォッチしてきたが、もう長くは続けられないかもしれない。この数字は時間の経過とともに、追跡が難しくなっている。
なぜなら、多くのライトニング・ウォレットは、そのチャンネルの存在をネットワークの他の人に公開しないことを初期設定にしているからだ。
内部的には、存在をライトニング・ネットワークの他の人に知らせる「公開」チャンネルと、知らせない「非公開」チャンネルがある。ライトニング・ネットワークを使って、ただピザを買ったり、オンラインで写真を合成するなど、日常的なユーザーが使う通常チャンネルは公開する必要はない。
「ここ数カ月間にリリースされた多くのウォレットは、初期設定が非公開になっており、こうしたチャンネルはいかなる公の指標にも現れない。だから公の指標のみに頼ると、全体像の半分しか見えない」とライトニングラボ (Lightning Labs)のCTO、オラオルワ・オスントクン(Olaoluwa Osuntokun)氏はCoinDeskに語った。
通常、公開チャンネルはルーティング・ノードでのみ使用される。そのため、人から人へ支払いを行うための堅牢なノードは常にオンラインにしておく必要がある。
ザップ(Zap)のクリエーター、ジャック・マラーズ(Jack Mallers)氏は「ルーティング・ノードがプライベート(非公開)チャンネルではないユーザーだけ」が「責任を負う」と述べた。
ライトニング・ネットワークにおける決済の全体──もしくはおそらくその大半──を捉えていないことから、公表されているキャパシティは「役に立たない指標」とまで主張する人もいる。
多くのアプリが成功事例に従い始めたために、シャインフェルド氏は「ほとんど」のチャンネルは非公開になっていると考えており、自身のウォレット「ブリーズ(Breez)」は、この2~3カ月だけで「数千」の非公開チャンネルを開設したことに触れた。
「ブリーズは直近の2カ月間に数千の非公開チャンネルを開設した。ライトニングラボの自動機能も非公開チャンネルを開設する」と同氏は述べた。
これは、多くの開発者がライトニングをオンチェーンのビットコイン取引よりも、よりプライバシーが保たれていると見なしている理由の1つ。ビットコインはユーザーの匿名性を確保すると評価されているが、実際、取引は公開されている。ライトニングは取引の詳細をもう少しだけ隠す。
「通常のビットコイン取引が公のウェブサイトに銀行口座の詳細をアップロードするようなものだとすると、ライトニング・ネットワークの取引はウォレットの特定の場所に保有しているお金を商品を購入したお店に見せることに近い。ある程度の情報は公開しなければならない。だが、多くではない」とライトニング関連のスタートアップ企業、シュアードビッツ(SuredBits)は記した。
ゴミの日
キャパシティが減少しているもう1つの理由は、いくつかの事業体が無駄の多いライトニング・チャンネルを閉じていることにある。
「私の知るところによると、チャンネルの減少は、しばらく開いていたが、目立った転送が行われていないチャンネルを閉じるという、ノード・オペレーターの合理的な判断によるもの」とオスントクン氏は述べた。
例えば、LNBIGと呼ばれる有名で、ミステリアスなライトニング・ユーザーは、多くのライトニング・チャンネルを開いている。LNBIGは当初、ライトニング・ネットワークに300ビットコインを投じ、ライトニングの「無謀」というキャッチフレーズに新たな意味を与えた。
「活動を始めた頃、使われるだろうという希望(と、自動機能の不具合)から多くのチャンネルを開いた」とLNBIG内部の人物はCoinDeskに語った。
だが同氏は、そうしたチャンネルは本当にあまり使われなかったと語った。開かれ、そのままだった。
「例えば、多くのチャンネルは2~4カ月間、一度も使われていない。それにもかかわらず、チャンネル内の資金はブロックされている」とLNBIGは続けた。
LNBIGが言うところの資金の「ブロック」は、ライトニングの仕組みが理由だ。ライトニングの「チャンネル」は、他のネットワークへの出入り口のようなもので、ユーザーは他のユーザーに支払いを送ることができる。しかし、誰かと誰かが「チャンネル」を開き、それを使わなかったとすると、他の人間はその出入り口を使うことはできなくなる。
だから、キャパシティを解放し、新しいチャンネルがそのキャパシティを使いたいか否かを確認することは合理的なこと。それはまさにLNBIGが行おうとしていることだ。
LNBIGはチャンネルの閉鎖を実施する前にツイッター投票を投稿し、唯一のマイナス面は、ライトニングのキャパシティが825ビットコインまで下がることによる「心理的な影響」とした。
ライトニングのキャパシティ減少が示すように、ツイッターではLNBIGにチャンネル閉鎖を行うよう賛成する声が多かった。
翻訳:石田麻衣子
編集:増田隆幸
写真: Zap founder Jack Mallers speaks at Bitcoin 2019 in San Francisco, image via Jack Mallers
原文:Bitcoin’s Dropping Lightning Capacity Might Not Be a Bad Thing