仮想通貨業界は、ウォール・ストリートに取って代わることはまだできていない。しかし、発明家や起業家はそれに向けて取り組んでおり、控えめだが、ある程度の初期的成功を収めている。
スマートコントラクトを通じて支払われた0.0202ビットコイン(当時217ドル(約2万3000円))のオプションプレミアムがその概念実証となったかもしれないという出来事があった。
ブロックチェーンによるディスラプションの直近の目標は、アメリカ株の主要な株価指数S&P500インデックスに連動したオプション取引である。2018年には平均で毎日約4000億ドル(42兆8600万円)のオプションが取引された、巨大な市場である。
現状では往々にして、ウォール・ストリートの企業が取引を実行し、決済を後から処理し、基本的に、証券が買い手の口座に、現金は売り手の口座に行くことを確実にする。しかし投資家にとっては、仲介業者からの手数料が課されるため、このプロセスはコストがかさみ、ゆっくりとしたもので、通常は決済に1〜2日かかるものだ。
ロンドンに拠点を置く仮想通貨業界向けの分析ツールに特化したスタートアップ、skew.のCEO、エマニュエル・ゴー(Emmanuel Goh)氏は、S&P500オプションを取引するために、登場してから10年の仮想通貨ビットコインを支える分散型コンピュータネットワーク、ビットコインブロックチェーンを利用するアイデアを2019年7月に思いついたと述べている。
ゴー氏はかつて、ロンドンで米最大の銀行JPモルガン・チェース(JP Morgan Chase)のトレーダーをしており、自動車、化学、消費者関連、工業株のオプションを扱っていた。つまりオプション市場は、ゴー氏のよく知る分野である。skew.は2019年9月、シリコンバレーの代表的企業クライナー・パーキンス(Kleiner Perkins)を含む複数のベンチャーキャピタル企業から、シードファンディングで200万ドル(約2億1400万円)を調達したことを発表した。
S&Pオプションに関する同氏のプロジェクトは、完全に実験的なもので、課題は主にきちんと作動するかどうかを見極めるためだったと、ゴー氏はCoinDeskに語った。(そして注目されることもおそらく損にはならない。)ゴー氏によれば、取引はコンピュータプログラミングを通じて実質的に自動化されることになるので、実行にかかるコストは低く、決済もおそらく10〜15分とずっと高速になる。
ゴー氏は、今回の取引を可能にした技術は、東京に拠点を置く上場テック企業デジタル・ガレージ(Digital Garage)の子会社クリプト・ガレージ(Crypto Garage)によるものであると述べた。クリプト・ガレージは、起動すると実行されるようにビットコインブロックチェーンにエンコードすることのできるプログラミングの小さな文字列であるスマートコントラクトでの知見を構築してきた。
スマートコントラクトは通常、イーサリアムネットワーク上でプログラムする方が簡単と考えられているが、業界ではビットコインブロックチェーンが最も安全なため、トランザクションはビットコインブロックチェーンでクロスする必要があった、とゴー氏は述べた。
トランザクション
そのため9月6日(現地時間)、ゴー氏はskew.社内の研究開発ファンドから幾ばくかの英ポンドを調達し、それをビットコインに交換し、得られた利益を利用して、双方のカウンターパーティーが覚書で合意した条件のもと、新しいスマートコントラクトでクリプト・ガレージから、人気のあるオプションであるS&P500コールスプレッドを10件購入したと、ゴー氏は述べた。オプションの期日は、多くの取引所で標準的な慣習と同様に、月の第3金曜日に設定されていた。
最初にskew.は、スマートコントラクトを通じて、0.0202ビットコイン(当時217ドル(約2万3000円))のオプションプレミアムを支払い、クリプト・ガレージが担保として0.04667ビットコインをポストした。
満期の9月20日には、アトランタに拠点を置き、ニューヨーク証券取引所の親会社であるインターコンチネンタル取引所の価格フィードを自動的に利用して、スマートコントラクトがS&P500の最終価格を設定した。
取引はskew.の有利に進み、0.036ビットコイン(当時365ドル(約3万9000円))の配当という結果に終わった。クリプト・ガレージは、担保のうち0.01ビットコインを取り戻した。(skew.はその後、調整金としてクリプト・ガレージにいくらかの送金を行った。)
上記の画像は、満期日の取引決済を示すビットコインブロックチェーンのデータから作られたものだ。最初は困難に見えたが、ここに見られるエレガントな簡潔さがブロックチェーンを基盤とした未来の可能性である。
一番上の青の文字と数字の列は、トランザクションのID番号である。左側の青い文字列は担保が保管されているアドレス、白い数字は担保の額をビットコイン(BTC)で示したものである。右手上部の青の文字列は、取引で勝った側のカウンターパーティーのアドレスで、それが白い数字のビットコイン(BTC)を獲得し、そのすぐ下の青いアドレスは負けた方のカウンターパーティーで、残りの担保を取り戻した。右手下の黄色は、トランザクションがブロックチェーンによって2068回承認されたことを示し、黄色のビットコインの数は、手数料を除いた後に、2つのカウンターパーティーに担保から分配されたビットコイン(BTC)の合計利益である。
スケーリングの限界
ゴー氏にとって、今回の実験から得られた重要な教訓は、上手くいったということだ。
「取引の決済の処理には45分かかり、トランザクションのコストの合計は数ドルで済みました」と、ゴー氏は述べ、次のように続けた。「スマートコントラクトには、カウンターパーティーがいくら得るかが正確に分かっていました」
理論的には、取引の名目額が何百万ドル、数十億ドルになったとしても、コストは同じであっただろう、とゴー氏は述べた。
重要なのは「諸々の仲介人が関与していないことです」と、ゴー氏は指摘した。
この新しいプロセスは、証券企業が現在処理しているS&Pオプション取引の容量に対応できるほどに拡張可能だろうか。ビットコインブロックチェーンの処理能力が改善されない限り、おそらくそうはならないだろう、とゴー氏は述べた。しかし、多くのプログラマーが、まさにそれに取り組んでいる。
技術的ブレークスルーの歴史の中で、タコの先端に鍵を吊るしているベンジャミン・フランクリン(Benjamin Franklin)ではないのかもしれない。しかし、今回の小さな217ドルのオプション取引は、ウォール・ストリートの関与を少なくして、金融市場をより安価に、より速くにする前進の一歩かもしれない。
翻訳:山口晶子
編集:T.Minamoto
写真:Wall Street via Shutterstock
原文:Tiny $217 Options Trade on Bitcoin Blockchain Could Be Wall Street’s Death Knell