アントレプレナーが語るthe Future of Web3【Web3 Future 2024】

Ginco・GiveFirst主催「Web3 Future 2024」が7月17日、東京ミッドタウン八重洲で開催された。「オープンで建設的なWeb3の社会実装を目指して」をコンセプトに掲げ、さまざまな議論が展開されたが、ここでは最後のパネルディスカッション「アントレプレナーが語るthe Future of Web3」での議論を抜粋して紹介する。

登壇者は以下のとおり。

  • 大塚雄介氏(コインチェック株式会社 執行役員 web3Cloud事業本部長)
  • 小田玄紀氏(SBIホールディングス株式会社 常務執行役員)
  • 齊藤達哉氏(Progmat, Inc. 代表取締役  Founder and CEO)
  • 房安陽平氏(株式会社Ginco 取締役副社長)
  • [モデレータ]神本侑季(N.Avenue株式会社/CoinDesk JAPAN 代表取締役CEO)

──今、Web3には伝統的金融のプレーヤーが参入してきている。日本ではセキュリティ・トークン(デジタル証券)やステーブルコイン、海外では暗号資産ETF(上場投資信託)や預金や金融商品のトークン化が進んでいる。まず、この状況をどう見ているかをお聞きしたい。

齊藤:金融機関は、良くも悪くも何かスタンスを決めてやるというより、この先どうなるかわからないから、とりあえず参加しておこうという面があると思う。

ブロックチェーンを使った決済は、既存事業を脅かす存在という捉え方は間違いなくあるものの、今のシステムがこのまま続くとも思えない。例えば、グローバル決済の視点で考えると、その未来には3つの可能性が考えられる。1つは、各国がCBDC(中央銀行デジタル通貨)を発行し、CBDCでグローバル決済が行われる未来。2つ目は、JPモルガンが進めている預金をトークン化するやり方。JPモルガンなどが各国に支店を開き、それをグローバル決済に使う方法。3つ目は、法整備では日本が先駆けているステーブルコインを使う未来。大きく3つあって、この先、どう進むかは誰にもわからない。だから、とりあえず、いろいろな国際プロジェクトに参加している状況がある。

大きくトークン化に向かっていることは間違いないが、どの方向に落ち着くかはまだ決着していない。実際、トランプ氏はCBDCはやらないと発言しているし、JPモルガンのダイモンCEOがトランプ政権の財務長官になったりした場合は、トークン化預金が主流になるかもしれない。

(齊藤達哉氏:Progmat, Inc. 代表取締役  Founder and CEO)

小田:日本の状況も、これから変わっていくと思っている。これまでは暗号資産業界が既存の金融業界にいかに融合していくかという議論だった。だが直近のデータを見ると、日本の暗号資産口座数は1037万口座になっている。つまり、国民の約10人に1人が暗号資産口座を持つようになった。アクティブな口座は640万ぐらいで、保有額は3兆円ぐらいある。つまり、既存の金融業界が暗号資産業界にいかにフィットしていくかに流れが変わったのではないかと考えている。

(小田玄紀氏:SBIホールディングス株式会社 常務執行役員)

大塚:実際、さまざまな企業がWeb3に参入している。大きな見方をすると、これまでの10年はビットコイン、イーサリアムなどプロトコルの時代だった。今はプロトコルを使って、アプリケーションを作る時代に入っている。その時に例えば、ゲーム業界では、ソーシャルゲームはかなりの資本がないと難しい状況になっているため、資本ではなく、新しい技術を使って新しいゲームを作ろうという観点から、GameFiに取り組む状況が生まれている。既存の業界や産業で、市場が飽和状態になってくると、新しい市場にチャレンジする人が出てくる。

最近では「推し活」にトークンを活用する取り組みも出てきている。この先、業界や産業ごとにトークンを使った新しいビジネスが生まれてくるだろう。

──「NFTは終わった」などと言われるが、そうではなく「どう使っていくか」を考えるフェーズに入ったという記事をCoinDesk JAPANでも掲載したところだ。

大塚:まだチャレンジの段階。チャレンジとは失敗することでもあるが、失敗の仕方がある。失敗して、すべてが吹き飛んでしまうと大変なので、小さな失敗を繰り返し、少しずつ学んでいくことが大切。そこから新しいものが生まれる。

房安:Web3業界や暗号資産業界は「全然進歩していない」と言われることがある。確かに同じようなテーマをビットコインの半減期に合わせて展開していると見ることもできる。だが同じように見えても、背景にある社会情勢やマーケット環境、あるいはオンチェーンのデータ量はまったく違う。同じ位置に戻っているように見えて、前回サイクルよりも良い位置にいるというイメージを持っている。

例えば、2018年ぐらいに相場がクラッシュした後、プライベートチェーンが人気になったが、その時には「プライベートチェーンは意味がない」と言われたり、実際に取り組んだ企業も「効果がなかった」という結論で終わるような事例があった。

だが今、2024年になって、JPモルガンが展開しているようなプライベートチェーンの流通総額は毎月1.5兆ドルにのぼるというニュースが伝えられた。そうなると皆、認識が変わってくる。プライベートチェーンという1つの事例で考えても、レゴブロックのように積み上げられてきているので、以前とは全然違う結果が生まれる環境になっている。周りの意見は気にせずに、自分たちが意味があると考えたことを淡々と積み上げていけば良いと思っている。

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──外から見る景色と、中から見る景色には大きなギャップがあり、しかも時差もある。この先、企業の参入を後押しするという観点で、企業の担当者、責任者の皆さんが企業内で意思決定を積み上げていくためのヒントやポイントはどのようなものか。

齊藤:信託銀行からスピンアウトした立場で言うと、大きな組織には「慣性の法則」が強く働く傾向がある。既存の何かを変更するには、大きなエネルギーが必要だが、逆に動き出したら止まらないという特徴が良くも悪くもある。

せっかく大企業の中でリソースを使えるなら、そうした特徴をうまく把握することが大切だ。そして「慣性の法則」を活用する時に重要なことは、1つ目は、初期投資を極小化して、もしダメだった場合にはすぐに元に戻せる状態にしておくこと。2つ目は初期投資は例えば1000万円だとしても、徐々にゴールポストを動かして事業を進めていき、投資額が1億5000万円ぐらいになったら「まだ成果もないまま撤退するぐらいなら、もう少しやってみる方が得ではないか」と説得すると周りも否定しづらくなる。「そこまで言うならやってみろ」という意思決定になりやすい。

小田:プログマ(Progmat)はそうやって生まれたのかと聞き入ってしまった。大企業には、ライバル企業がやっているから、自分たちも同じ事業をやっているというケースもある。だが、大事なことは、顧客にどういう価値を提供できるかを明確にすること。もし自分たちだけでできない場合は、ベンチャーやスタートアップと一緒にやっていくことが重要だ。

また今は、暗号資産関連の法改正も進んでおり、法人税関連の改正は2年連続で進んだ。今はLPS(投資事業有限責任組合)が暗号資産にも投資できるよう法改正に取り組んでいる。Web3の事業環境はますます整ってきている。

大塚:コインチェックはスタートアップとして始まり、人数が増え、今はマネックス傘下だが、常にチームが大切だと感じている。同じビジョンを見ているが、違う能力を持つ人たちでチームを作ると新しいことが生まれる。まずは自分がどういうタイプかを認識して、自分に足りない能力を持つ仲間を集めていくことが重要。そのためには、最初に「旗を立てる人」は大きなビジョンを語る能力が問われる。

(大塚雄介氏:コインチェック株式会社 執行役員 web3Cloud事業本部長)

房安:企業と仕事をするなかで、リーダーシップを持っている人がいて、自身で仮説を作り、意思決定をしていることは重要だと感じる。重要な部分を外部に任せているケースだと、検討段階で終わったり、スタートしてもうまくいかないことがある。

また、Web3はいろいろな話が進んでいて、「もうやり尽されている」みたいな話を聞くが、あくまでも手段と捉え、ビジネスに組み込むことを考えるとまだまだやれることはある。ビジネスモデルをしっかり考えることが大事だ。

(房安陽平氏:株式会社Ginco 取締役副社長)

──最後に「WEB3 FUTURE」ということで、こんな未来をともに作っていきましょうというメッセージを一言ずつお願いしたい。

大塚:ブロックチェーンは発明だと思う。たぶん我々が生きている中で50年に1度、起こるか起こらないかの発明。今、ここにいる人たちは、ビジネスパーソンとして脂が乗ってきた時期にブロックチェーンと出会えた。それは非常に良いことだし、国が成長戦略として推している状況もある。皆さんが一歩踏み出すことが、これからの50年の1つの歴史を作っていく。ぜひ、一緒に少しずつでもチャレンジしていきたい。

小田:暗号資産は価格変動があるが、それとは別にWeb3マーケットは広がっていく。例えば、ステーブルコインはもうすぐ、日本で発行と流通が行われる状況になっている。ステーブルコインは単体で収益を上げることは難しいとも言われているが、ステーブルコインがあり、暗号資産があり、点と点が4つぐらい重なっていくと今までなかったようなサービスが登場するのではないかと考えている。

齊藤:個人のキャリアを考えた時にWeb3は間違いないだろう。トークンがインフラとしてさまざまな産業の第1層に浸透していく未来は、私はもう100%間違いないと考えている。「確実にくる未来」であって、問題はいつ来るか。そこは読み切れないが、方向は間違いない。

房安:仮説が2つあって、1つ目は、ここから10年以内にブロックチェーン上に乗っているデータは閾値を超え、今までの「ブロックチェーンでやる意味は?」みたいな話が反転するタイミングが来ると思っている。Gincoは「経済のめぐりを変えていく。」をミッションに掲げていて、とにかくブロックチェーン上で行われる経済活動を増やし続けることを重視している。

2つ目は、AI(人工知能)が突然ブレイクしたように、Web3も突然来ると思っている。突然、社会情勢が変わって、「分散型テクノロジーはきわめて重要」と言われるタイミングが来る。そしてその時に一番沖に出ていたいと思っている。そこに皆さんと一緒に取り組んでいきたい。

──この分野に、長期的な視点で取り組んでいるアントレプレナーの皆さんだからこその言葉がいろいろ聞けたと思う。Web3の未来を信じる皆さんと一緒に作っていく業界、市場は、私自身も一層楽しみになった。今日はありがとうございました。

|文・編集・写真:CoinDesk JAPAN編集部