スイスの金融最大手UBSは、「we.trade(ウィートレード)」上での本格的な取引を開始した。これは、ブロックチェーンを基盤とした貿易金融(トレード・ファイナンス)プラットフォームであり、加盟銀行による広い普及が近づいている。
UBSは、10月初めにウィートレードが稼働し、中小企業(SMEs)向けサービスを促進していることを認めた。広報担当者はCoinDeskに次のように語った。
「我々は、新しいプラットフォームについて顧客を啓蒙し、プロセスを順を追って説明するために、1対1で顧客に働きかけています」
ブロックチェーンは、以前は紙ベースだった国際貿易の世界に、共有型のデジタル記録を提供し、契約を履行する企業間の信頼を高めるのに役立つ。ウィートレードは、欧州系銀行の中小企業顧客の間に信頼されるネットワークを構築することに注力している。サービスには、銀行支払保証およびインボイスファイナンス(売掛金担保融資)が含まれ、それらに対して銀行は手数料を請求する。
2018年半ばにローンチされたウィートレードは、TradeIXとR3に支援される貿易金融ブロックチェーンのマルコポーロ(Marco Polo)のような、まだ試験段階にある競合他社に先んじている。ウィートレードのプラットフォームは、今や商業的な普及に重点を置いており、より多くの銀行を集めることと、より多くの中小企業を呼び込むことという2本柱のアプローチを取っている。
オーストリアのエルステ・グループ(Erste Group)とスペインのカイシャバンク(CaixaBank)も、今月からライブトランザクションを推進し始めた。来年初めには、ギリシャのユーロバンク(Eurobank)並びにチェコの3大銀行 -チェコスロバキア貿易銀行(CSOB)、コメルチニー銀行(Komercni)、チェコ貯蓄銀行(Česká Spořitelna)-が参加する予定だ。チェコの銀行三行は、同国の国内貿易の80%を占めている。
ウィートレードのゼネラルマネージャーのシアラン・マクゴワン氏は、CoinDeskに次のように語った。
「我々は、チェコ共和国ではオートセトルメント商品が無料のモデルから始めています。それによって、国内取引の無料モデルが、我々に利するような簡単で迅速な参入をもたらすかどうかを見極めます」
ユーロバンクについて、ゴワン氏は次のように付け加えた。「興味深いのは、ギリシャでは未だに先日付小切手が非常に普及していることで、彼らはプラットフォームをそれに取って代わるものと見ている。これも我々が予想していなかったユーザーストーリーだ」と述べた。
ソシエテ・ジェネラル(SociétéGénérale)、HSBC、サンタンデール(Santander)、ウニクレディト(UniCredit)、ノルデア(Nordea)、KBC銀行、ラボバンク(Rabobank)、ドイツ銀行(Deutsche Bank)は、既に取引契約の決済にウィートレードを使用している。
利用者数の増大
これらの銀行は、企業顧客にこのプラットフォームの利用を勧めており、それが普及に拍車をかけている。「こうした企業と銀行の連携が加速しているのは驚くべきことだ」とマクゴワン氏は言う。
ソシエテ・ジェネラルの貿易金融部門副部長、マリー=ロール・ガステル(Marie-Laure Gastellu)氏は、「ウィートレードは、このプラットフォームを利用する中小企業をもっと必要としている」と述べた。「より多くの中小企業が参加するためには、より多くの銀行が参加する必要があります。株式投資家としてではなく、ウィートレードの実際のユーザーとして。我々が取引している中小企業は、このようなオファーを受けたことにどれだけ満足しているかを我々に伝えてくれており、また、他の銀行にも参加してもらうよう、できるだけ説得してほしいとも言っています」
ガステル氏によると、ソシエテ・ジェネラルのフランスの顧客の1社がイタリアの企業と取引していたが、その会社はプラットフォーム上にはなかったという。同社はその企業の勧めで、直接ウニクレディトに口座を開き、ウィートレードに参加した。
「ウィートレードは銀行にとって新しい関係を築くのにも素晴らしいツールだ」とガステル氏は述べる。
スカンジナビアからも似たような話が出ている。そこでは、ノルデアが、スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、フィンランドにウィートレードの顧客ネットワークを構築している。
例えば、限定版のスニーカーを輸入しているスウェーデンの企業が、スペインのサプライヤーにサンタンデールのビジネスアカウントを開設してもらい、ウィートレードに申し込みできるようにしてほしいと依頼したと、ノルデアの新興技術責任者、ビル・ソイントウ(Ville Sointu)氏は述べた。
ウィートレードは、クライアントがウィートレードのプラットフォームに自社のパートナーを招待できるようにする新機能をソフトウェアに追加する計画だ。「契約して取引相手を探している顧客が 「あなたとウィートレードで取引したい」 と言うだけの簡単な方法でできるような仕組みを作ることで、我々はネットワークを増やすことができます」とソイントウ氏は言う。
ノルデアはウィートレードを同行のポートフォリオにおけるもう1つの商品として位置付けている、とソイントウ氏は説明した。つまり、コーポレートクレジットカードのように、ウィートレードのパンフレットやカスタマーサポートなどがあるということだ。同氏は「ウィートレードのための実際のランディングページがあります」と述べ、こう付け加えた。
「このページには『ブロックチェーン』という単語はありません」
価格設定
同プラットフォーム上での取引価格は、(初期の好奇心旺盛なユーザー向けの)月額2,000ドル(約22万円)から年間175,000ドル(約1,900万円)のフルメンバーシップライセンスまでさまざまだ。ウィートレードとのプロジェクトのトライアルには年間75,000ドル(約800万円)かかる。
「これまで銀行は年間33万ドル(約3,500万円)を支払ってきた」とマクガワン氏は言う。「他の銀行と話をして、これは高すぎるという明確なメッセージを得ました。それで、私たちは聞く耳を持ったのです」
ウィートレードプラットフォームは、IBMがオープンソースのハイパーレジャー・ファブリック(Hyperledger Fabric)ブロックチェーンシステム上で構築したものだが、マクゴワン氏はまもなくこの技術を社内に導入する計画だ。
「我々はテクノロジー企業であり、独自の能力を構築したいと考えている」と同氏は語った。「我々はIBMと非常に良好な協力関係を築いており、アウトソーシングされたチームに対して継続的に料金を支払うことができないことを、IBMは理解してくれている」
翻訳:新井朝子
編集:T.Minamoto
写真:Shipping image via Shutterstock
原文:Banking Giant UBS Goes Live on We.Trade Blockchain for Trade Finance