世界のどこかに“魔法を信じてもいい”と感じさせてくれる場所があるとしたら、大阪で開催された「デブコン5」だ。
イーサリアム・コミュニティーは、気が滅入るような課題に直面している。主流の用途のための需要の高まりに、安全に対応するためにそのエコシステムを拡張することだ。
何千人もの技術者と熱心なファンがこの核心的な課題に取り組むために、虹色のサインで飾られた大阪の会場に集まった。その中には、シリアのアレッポから参加した16歳の独学の開発者ショーキ・スカー(Shawki Sukkar)君の姿もあった。
「学ぶ機会のある場所を探している」と奨学金を受けてデブコンに参加した50人のうちの1人であるスカー君はCoinDeskに語った。
「ここにいる人たちは賢く見える。皆、素晴らしい考え方を持っている」
父親の工場が内戦で破壊され、友人の身分証明書が無くなってから、まだ銀行口座を持たないスカー君はイーサリアムベースのアイデンティティ・ソリューションと金融プロダクトに強い興味を持つようになった。
スカー君の他にも、複数の参加者が、デブコンをはじめ、イーサリアムをテーマにした小規模な世界中のイベントに貢献して学ぶために参加していると語った。
同じようなスタンスで、メーカーダオ財団(MakerDAO Foundation)のスマートコントラクト責任者、マリアーノ・コンティ(Mariano Conti)氏は、アルゼンチンで仮想通貨の給料だけで暮らしている状況についてプレゼンした。コンティ氏は率直に、公的な銀行に預金された国家通貨ではなく、イーサリアムに依存するリスクを認めた。だが同氏は、アルゼンチン政府よりもイーサリアム・コミュニティーを信頼していると述べた。
コンティ氏の発言は、観衆から大きな拍手で迎えられた。観衆の中にはコンティ氏と同じように仮想通貨をサバイバルツールとして使っている人が複数いた。このようなテストのための場所──参加者が直接、デブコンに参加した技術者にフィードバックするような場所──は、イーサリアム・ネットワークにとって貴重な場だ。
しかしそれ以上に、このイベントはイーサリアムの来年の優先事項を決定する重要な場所でもある。
「多くの議論が多くの合意を生む」とイーサリアムの定義を尋ねられたコンセンシス(ConsenSys)の創業者ジョゼフ・ルービン(Joseph Lubin)氏はCoinDeskに語った。
「『ワールド・コンピュータ』という議論は便利で、優れたもの。それは、イーサリアム・エコシステム、あるいはイーサリアムが中心的要素となる分散型プロトコル・エコシステムを表している」
計画
デブコンは内容が非常に技術的、かつ参加しやすいようになっている点で、仮想通貨カンファレンスの中では例外的存在だ。
分散型アプリケーションのスケーリングといった問題についての討論会やワークショップは、あらゆるスキルレベルのコミュニティーメンバーからの質問を受け付けることを中心に展開されている。
ときにはエンジニアがクライアントのために取り組んだ問題について述べ、あるときはユーザーが価格メカニズムについて質問する。非許可型ステーブルコイン「オープンリブラ(OpenLibra)」やイーサリアム・クラシックといった、イーサリアムのライバルについての討論会や発言の時間すらあった。
これまでのところ、イーサリアムの新バージョンEth 2では、現状のイーサリアム・エコシステムのスケーリングの限界に対処する確実な計画はない。しかし、進行中の複数の提案があり、利益を得るよりも理論をテストすることにより注力する数千の人たちがいる。
「関わっている人たちのスコープは反復プロセス」とイーサリアム財団(Ethereum Foundation)の開発者で、Eth 2の研究を率いるチームの一員のダニー・ライアン(Danny Ryan)氏はCoinDeskに語った。
「そして(そのプロセスを)すべての分散型アプリケーション・ユーザーにまで拡大し続けることを期待している」
同氏は、コミュニティーメンバーはギットハブ(GitHub)とEthresear.chを通じて、このプロセスにコメントやリクエストを寄せることができると述べ、イーサリアムとEth 2の間の互換性については2020年、より具体的な計画が間違いなく出されると付け加えた。
メーカーダオのエコシステムはどのようにして、下位互換性を提供しない可能性の高いEth 2の進化に適応していくかについて、イーサリアム財団のコミュニティーマネージャー、ハドソン・ジェームソン(Hudson Jameson)氏はCoinDeskに次のように語った。
「大小を問わず、我々は分散型アプリケーションと緊密に連携して、例えば、メーカーダオのローン契約といったデータがEth 2.0でも利用できる、あるいは移行できるようにしていく」
一方、現在コンセンシス傘下でインキュベート中のギットコイン(Gitcoin)の創業者ケビン・オウォッキ(Kevin Owocki)氏は、オリジナルのイーサリアム共同創業者からの寄付以外にも、オープンソース開発者への資金を増やそうとしている。
ギットコインの資金分配プラットフォームが2019年1月にローンチして以来、ひと月に20万ドル(約2200万円)相当の仮想通貨の寄付を処理するまでに成長したとオウォッキ氏はCoinDeskに語った。
「インターネットの役に立ちたいと思っている。ソフトウエア開発者が、雇用に独占権を持つ企業での仕事をする必要がなくなることを望んでいる」とオウォッキ氏は述べた。
「このコミュニティーには、雇用の主権のために、拡張するシステムを作るチャンスが多くあると考えている」
進行中の定義
外部の批判者は、イーサリアム開発の目標や目的を定義する際の言葉の曖昧さを繰り返し指摘している。
しかし、デブコンの多くのイーサリアムファンと同様にオウォッキ氏は、伝統的なオープンソース・プロジェクトに比べて間違いなく厳密さや控えめさを欠く、イーサリアム・インフラ開発の実験的な性質を気にしていない。
「根本的に新しいものを扱い、リサーチが必要な場合は、締め切りを設けないほうが正直だと思う」とオウォッキ氏は述べた。
コンセンシスのセキュリティエンジニア、シャヤン・エスカンダリ(Shayan Eskandari)氏は、2011年からビットコインを保有し、イランで仮想通貨ユーザー向けの主要な教育用リソースの作成に携わった。同氏は、イーサリアムとビットコインは、本質的に異なる哲学を持っていると語った。
「ゴールドをアイスクリームと比べているようなもの。イーサリアムは、望むことはほぼ何でもできる遊び場、だが(プロトコルの)すべては変化する」とエスカンダリ氏は述べた。
「イーサリアムは、検閲に抵抗力を持つ(お金)を開発しようとすることではない。よりオープンなシステムを目指すものなの」
イーサリアムのリーダーたちもその見方に賛成のようだ。助成金で初期の実験に資金提供するだけではなく、1000人規模のコンセンシスは2018年後半の人員削減を経て、再び人員採用に乗りだしているとルービン氏は語った。
「我々は、分散型ワールドワイドウェブの初期ステージを築き上げた。これは世界にとって、基盤となる信頼レイヤーの最も強力な候補」とルービン氏は述べた。
「極めて具体的な計画がありが、曖昧な言葉でしか伝えることができない」
この件に詳しい情報筋がCoinDeskに語ったところによると、コンセンシスは銀行などの金融機関や政府組織と連携して、パイロットプロジェクトに取り組んでいる。ルービン氏はこの件を認めたが、具体的に語ることは拒否した。
同氏の会社を含め、イーサリアム・コミュニティーはデブコン2020までに何を達成することを期待しているかと尋ねられると、ルービン氏はこう答えた。
「もっと良いもの」
翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸
写真:Joseph Lubin speaks at Devcon 5, Osaka, Japan, October 2019, image via ConsenSys
原文:Devcon Shows Ethereum’s ‘World Computer’ Is a Movement, Not a Product