ハリス氏の姿勢探る暗号資産業界と政界への接触──人事や党の公式文書も参考に

米国の暗号資産(仮想通貨)業界関係者が、無関心を貫くバイデン政権を非難し続ける一方で、カマラ・ハリス(Kamala Harris)副大統領のデジタル資産に対する見解を探ることがより喫緊の課題となっている。とはいえ、現職の副大統領と大統領候補の二足のわらじを履くことがハリス氏にとっては強い立場をとることの障害となっているかもしれない。

暗号資産業界関係者はホワイトハウス関係者と会合を開いてきており、先週の会合の1つにはハリス氏自身の事務所の上級顧問も出席していたが、その場は主に一方的なもので、ハリス氏の選挙運動とは何の関係もないものだった。一方、暗号資産業界の大物や投資家の中には、民主党の大統領候補と目されるハリス氏を支援すべく、同氏がこの業界に対してどういう態度で接するかを直接示すことがなくとも、新たな取り組みを進めている者もいる。

crypto4harris

今週、始まったばかりの「crypto4harris」の活動は、現地時間8月14日のオンライン・フォーラムで幕を開けるが、著名な業界関係者が同副大統領の旗の下に集まる予定だ。とはいえ、こうした取り組みは、まだハリス陣営と正式な関係を結んでいる訳ではない。

元連邦検察官で、現在は暗号資産関係のコンサルティングを行い、ハリス氏への業界支援を組織する手助けをしているアマンダ・ウィック(Amanda Wick)氏は、現時点での目的は、ハリス氏に業界に対しての「オープンさとリセットする意思」を公に認めさせることだと述べた。

暗号資産ウォレット・プロバイダーであるエクソダス(Exodus)の最高法務責任者であり、ハリス氏のイベント開催にも協力しているヴェロニカ・マクレガー(Veronica McGregor)氏は、インタビューでこう語った。「暗号資産業界は実に重要な産業であり、実に重要な票田であり、実に重要な資金調達源である。」そして「私が知っている業界関係者のほとんどは有言実行の人物で、この業界を殺そうとしていない候補者を支持するつもりだ。」

マクレガー氏によると、crypto4harrisプロジェクトに携わる人々が、公式ではないにせよ、副大統領の選挙キャンペーンと接触しているという。ウィック氏は、ハリス陣営と暗号資産支持者との交流について詳細を明らかにすることは避けたが、「陣営チームは、対話に前向きであることがうかがえる」と述べた。

11月の選挙まであと数ヶ月となったが、暗号資産ビジネスの関係者たちは、主な目標であり米国において達成しようとしている「暗号資産の使用と取引に関する明確なルール」のために、あらゆる政治家への接触を続けている。その一環として、事情に詳しい人物によると、2週間前、暗号資産ビジネスのリーダーたちとウォーリー・アデイモ(Wally Adeyemo)財務副長官がサンフランシスコで会合を持ったという。アデイモ氏は暗号資産業界のリーダーたちと連絡を取り合い、同氏が取り組んでいる政策的な取り組みについて議論しているとのことだ。

現職の副大統領ならではの制約

デジタル資産セクターの関係者は、ハリス氏が未だ自身で暗号資産を推進するというメッセージを展開していないことに不満を抱いているが、現政権をサポートする副大統領という職務内容に由来する制約を挙げる者もいる。

マクレガー氏は「現職の副大統領が『ああ、私の上司は完全に間違っていました。今後どうするか説明させてください』と言うとは思えない」と、そして「そんなことは期待できない。要求が重たい」と語った。

ドナルド・トランプ(Donald Trump)前大統領はそのような制約に直面していない。トランプ政権は前回、この新興テクノロジーを受け入れなかったが、ここ数週間はデジタル資産の応援団になっている。その結果、著名な業界リーダーたちの一部は、第二次トランプ政権がバイデン政権時代の取締りの強化やコンプライアンス面での衝突を覆すことを期待し、トランプ氏に対して支持と資金を提供している。

「たとえそれが蜃気楼であったとしても、砂漠の中にいてオアシスに向かうことに喜びを感じている人々の中から、彼の迎合的な態度に対するファンが生まれるのだ」とウィック氏はインタビューで語った。

ハリス氏は週末にかけて、経済政策についての見解を近々発表する予定だと述べた。とはいえ、デジタルトークンについての言及がそこでなされるという兆候まだない。ハリス氏の陣営に対して、crypto4harrisについてコメントを求めたが、即時の回答は得られなかった。

ハリス陣営の人事

業界関係者は今週、ハリス氏の選挙キャンペーンにおける登用のニュースに対し、渋い顔をしている。というのも、ジョー・バイデン(Joe Biden)大統領の元国家経済会議ディレクター、ブライアン・ディース(Brian Deese)氏や、同会議の副ディレクターだったバラット・ラマムルティ(Bharat Ramamurti)氏など、過去に起きた反暗号資産の動きに関連した人物が含まれているからだ。ハリス氏はまた、元財務省幹部で、在職中はテロや不正な金融活動におけるデジタル資産の役割を精査する仕事もしていたブライアン・ネルソン(Brian Nelson)氏を起用した。しかし、同時にハリス氏は民主党の政治家として知名度が高く、直近では暗号資産企業にアドバイスを行っているデイビッド・プルーフ(David Plouffe)氏も招聘している。ハリス氏は自身の立場を公表していないため、これらの登用に関する決断が参考にされている。

トランプ氏に対する熱狂ぶりには及ばないかもしれないが、ハリス氏の選挙活動が突如として始まったことで、親暗号資産の民主党支持者やトランプ支持が本意でなかった人々の間で興奮が巻き起こっている。

マクレガー氏は「この選挙キャンペーンにはエネルギーが渦巻いており、バラク・オバマ(Barack Obama)大統領以来かもしれない。」と述べた。そして「私に何か手伝えないだろうか、と飛び込もうとする方々がたくさんいる」とのことだ。

暗号資産投資会社パラダイム(Paradigm)が現地時間8月12日に発表した世論調査の結果によると、ハリス氏はバイデン政権の動向に反感を抱いている一部のトークン推進派の民主党員に対して考えを変えさせる望みがあるという。

ホワイトハウスとの会談

大統領の座をめぐって候補者たちが争う中にありながら、暗号資産業界はバイデン政権についても対策を講じようとしている。デジタル資産のリーダーたちは、現職の連邦政府高官との会合を大々的に行っている。たとえば、コインベース(COIN)の最高法務責任者であるポール・グレワル(Paul Grewal)氏が連邦法を支持すると唱えた先週の会合も数えられる。

「現政権が暗号資産に関して非生産的であり続けた事実から脱却するためのいかなる会話も、前向きなものだ」と、グレワル氏は文書で述べている。「まだ遅すぎることはないが、時間はない。ホワイトハウスは、下院が行ったように、超党派の市場構造法案を可決する上院の努力を公に支持し、署名して法律を成立させてしかるべきだ。」

これまでのところ、現政権は暗号資産について何か手を打つことを漠然と支持しているに過ぎない。ホワイトハウス高官との最近2回の会合や、アデイモ氏による暗号資産企業数社との会合は、まだ具体的な成果を出していない。

ハリス氏の支持者たちは、暗号資産業界がトランプ氏と共和党にますます偏りつつあることに見られるように、米国において暗号資産が党派を分かつ流れとならないように主張することを、自分たちの目的の一つとして挙げる。

共和党はその公式な綱領において親暗号資産の立場を正式にとっている。民主党が来週シカゴで開催する全国大会については、すでに綱領の草案が発表しているが、一部の議員の努力もむなしく、暗号資産を受け入れる姿勢は示されていない。

ウィック氏は以下のように述べた。「他国の台頭が加速している時、我々が債務危機を抱える時、ドル安が進行している時、この問題を見誤って思いもよらない結末を招いてしまえば、支持する党に関係なく誰もが恐怖を感じるはずだ。それを前にして、声を上げようとしている民主党議員がいる。」

|翻訳・編集:T.Minamoto
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|原文:Crypto Insiders Courting Vice President Harris Chase Whispers of Her Openness