イーサリアム、ペクトラで開発者フレンドリーなEVMオブジェクトフォーマット──リスク懸念も
  • 新しいEVMオブジェクトフォーマット(EOF)のプロポーザルは、事実上の業界標準であるイーサリアム・バーチャル・マシン(EVM)をより開発者フレンドリーなものにすることが目的。
  • 一部の開発者からは、このプロポーザルを実施するリスクがメリットに見合わないと懸念の声が上がった。

イーサリアム(ETH)の開発者たちは、10年近く前にこのオリジナルのスマート・コントラクト・ブロックチェーンが登場して暗号資産(仮想通貨)業界を震撼させて以来、同ネットワークのプログラミング環境に最も根本的な変化をもたらす可能性のあるアップグレードに向けて舵を切っている。

EVMオブジェクトフォーマット(EOF:EVM Object Format)として知られるイーサリアム・インプルーブメント・プロポーザル(EIP:Ethereum Improvement Proposal)は、セキュリティリスクの可能性に対して一部の開発者が懸念していたことから今年の開発者界隈で盛んに議論されてきたが、今年後半から来年前半にかけて予想される大規模な変更パッケージであるペクトラ(Pectra)ハードフォークに組み入れられることになった。

EOFのプロポーザルは、イーサリアム・バーチャル・マシン(EVM)の更新を目的とした一連の小さな変更である。EVMとはブロックチェーン上でスマートコントラクトを実行するプログラミング環境であり、これは2015年にイーサリアムが始まった際にビットコインやその他の初期の分散型ネットワークとは一線を画した、極めて特有な存在である。

具体的には、EOFはスマートコントラクトを、ソリディティ(Solidity)やVyperといったプログラミング言語で分散型アプリケーションを構築している者を筆頭に更に開発者フレンドリーなものにする。一連の変更は、既存のスマートコントラクトを壊す可能性も孕む実にデリケートなものであるため、開発者たちは新しいバージョンを追加し、分散型アプリケーションの構築者がコードをデプロイする際にEVMのどのバージョンを使うかを選択できるようにした。

イーサリアム財団の中心的な開発者であるParithosh Jayanthi(パリトシュ・ジャヤンティ)氏は、テレグラム(Telegram)のテキストメッセージでCoinDeskに対して次のように述べた。「EOFは、EVM関連ではここ数年で初の大規模な変更となる。「これは、EVMの将来のアップグレードに向けた基礎を設定し、EVMを改善し続けるというベースレイヤーの意思を示すものである。」

EVMスタンダード

世の中で最初かつ最大のスマート・コントラクト・ブロックチェーンであるイーサリアムは、他の多くのブロックチェーンが採用しているプログラミング・スタンダードを定義した。他のレイヤー1ブロックチェーンもEVMと互換性を持つ方法を見つけており、この技術がブロックチェーン業界でいかに重要であるかを認識している。

しかし開発者たちは今、より安全なスマートコントラクトや分散型アプリケーションを書けるように、EVMの新しいバージョンを導入しようとしている。これに伴い、一部の開発者は、この手順がネットワークに意図しない結果をもたらすかもしれないという懸念を抱いている。

現在、イーサリアムの次のハードフォークであるペクトラ・アップグレードのEOFコンポーネントは、11のイーサリアム・インプルーブメント・プロポーザル(EIP)で構成されている。

EOFプロポーザルは、前回のアップグレードであるデンクン(Dencun)で提案されていたが、イーサリアムの開発者たちがプロト・ダンクシャーディング(ブロックチェーン上のデータストレージをより安価かつ高速にする、もう1つの重要なイノベーション)に集中して取り組みたいと考えたため、EOFは二の次になりペクトラの際に再検討する提案がなされていた経緯がある。

EOFのリスクとリターン

EOFを批判する立場として注目されたのは、中心的な開発者のマリウス・ファン・デル・ワイデン(Marius Van Der Wijden)氏だ。

ブリュッセルで開催されたイーサリアムコミュニティ会議でのインタビューで、同氏はCoinDeskにこう語っている。「私が問題だと思うのは、こうしたオペレーションや検証、チェックを行うこともコンセンサスの一部になっていることだ。」そして、「つまり、もしそこにバグがあり、検証に合格したものをデプロイしたが、その中にバグがあった場合、後に非常に予期せぬ形でクラッシュしてしまうということだ。」

同氏がEOFについて大変懸念しているのは、「このEVMを古いEVMと並行して維持することが大きなデメリットとなる」ということだ。「旧版のEVMがどこかに行ってしまう訳ではないだろう。ある意味で、誰もが旧版を利用しているようなものだ。」

しかし、中心的な開発者のほとんどは、EOFはリスクを上回る利益をイーサリアムのエコシステムにもたらすと述べている。

「EOFの準備は整っており、実装も完了しており、ソリディティのような川下のユーザーもEOFを支持している」と、クライアントチームBesuに対して独立した立場から貢献するダノ・フェリン(Danno Ferrin)氏は、CoinDeskにテレグラムのメッセージで語った。

「機能の準備が整い、完成したら、それを世に出すか、永久にしまい込んでしまうかだ。EOFはまた、EVMが当初から抱えていた大量の技術的負債を修正するものでもある」とフェリン氏は言う。

|翻訳・編集:T.Minamoto
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|原文:Ethereum Set for Overhaul of Crucial Programming Standard With ‘EVM Object Format’