SEC vs リップル、次の展開は?

米国時間8月7日、連邦判事はリップル社に対して、約1億2500万ドル(約180億円、1ドル145円換算)の民事罰金の支払いを命じた。昨年、裁判所は同社のエックス・アール・ピー(XRP)の機関投資家向け販売は連邦証券法に違反していると判断した。これはSEC(米証券取引委員会)が求めていた20億ドルの罰金から見ればわずかな金額であり、少なくとも現時点では、2020年のクリスマス頃に始まった長期にわたる裁判は終結した。たぶん。

ポイント

この裁判は、SECと暗号資産業界大手との間で起きた初の、大型裁判のひとつだった。メッセージングアプリのKikやテレグラム(Telegram)などとSECの裁判は比較的早くに終結した。だがリップル社は戦い続け、その結果は、取引所や他の暗号資産企業とSECとの現在進行中の裁判の行方を業界が見守るなかで詳しく分析されるだろう。

詳細

簡単に振り返ると、 SECは2020年12月下旬にリップル社を提訴し、同社は連邦証券法に違反して暗号資産XRPを販売したと述べた。訴訟はニューヨーク南部地区連邦地方裁判所で審理され、2023年7月、連邦判事はリップル社が機関投資家に対してXRPを直接販売した方法では連邦証券法に違反していたが、XRPを取引所に販売し、個人投資家がXRPを購入できるようにしたことは違反していないと判断した。

SECは、この判決の一部について上訴を試みたが失敗し、10月にはブラッド・ガーリングハウスCEOとクリス・ラーセン会長に対する告訴を取り下げた。8月7日、連邦判事はリップル社に対して、1億2500万ドルの民事罰金の支払いを命じた。また今後、同社が法律を破らないよう差し止め命令を下した。

SECとリップル社の双方が勝利を主張できるような判決に思えるが、1億2500万ドルはリップル社が支払いを主張した1000万ドルをはるかに上回り、SECが求めた約20億ドルからみれば、ほんのわずかな金額だ。

実際、SECの広報担当者は勝利宣言を行い、この判決には「リップル社が妥当と主張した金額の12倍以上の大きな民事上の金銭政策が含まれている」と述べた。だが、リップルが勝者であることは明らかだ。

SECは、上訴については言及していない。

リップル社の最高法務責任者であるスチュアート・アルデロティ(Stuart Alderoty)氏は、今回の判決は裁判の終結を意味するだけでなく、「判事がSECの行き過ぎた主張を引き続き退けたことを意味する」と述べた。

「判事はSECに、詐欺の訴えも、市場操作の訴えも、資金の不正流用も、被害者もいないことを思い出させた」

Foley and Lardnerのデジタル資産業務責任者のパトリック・ドハーティー(Patrick Daugherty)氏は、双方とも上訴を望むような判決だったかもしれないが、リップル社に有利な二次取引に関する判決が最も重要かもしれないと述べた。

「SECにとっては大きな敗北。なぜなら、トークンが取引所で取引されている他の案件、特に長年取引されている案件において、SECの勢いを削ぐことになるからだ」

また匿名を希望した別の弁護士は、SECは2023年7月の判決の特定の部分について上訴する可能性があると述べ、それは規制当局にとって「極めて大きな損失」と述べた。

罰則について

罰則自体は極めて単純明快だ。1億2500万ドルはリップル社にとって容易に支払える金額とアルデロティ氏は述べた。同氏と匿名を条件に取材に応じた弁護士は、連邦判事は機関投資家が被害を被ったとは判断していないことを指摘した。

別のもう1人の弁護士は、SECにとって悪い前例となる可能性があると述べた。なぜなら、違反に関連する高額な判決を主張することがより難しくなる可能性があるからだ。

差し止め命令も大きな問題にはならないだろう。アルデロティ氏は、これを「法律に従うことを命じる」差し止め命令と呼んだ。

ドハーティー氏は、この差し止め命令には「実質的な指針」がなく、これは裁判所がしばしば課す手続き上のものだと述べた。今回のケースでは、判事はリップル社のオンデマンド・リクイディティ・サービスが連邦法違反の境界線に近づいている可能性があると述べるにとどまった。

「リップル社は、裁判所が違法と判断した方法でXRPを販売することは避けなければならない」と同氏は述べた。

「つまり、リップル社は、海外での販売や私募など、いずれかの理由で要件を満たす方法でXRPの販売を継続できるということだ」

上訴?

SECが上訴する場合は、判決の公表から60日以内に通知しなければならない。だが、SECの控訴は難しいだろう。

リップルの法務責任者のアルデロティ氏は、もしSECで働いていたとしても、上訴を勧めないと述べた。

「判決の最終性について、願わくば人々がSECが上訴するかどうか、上訴した場合に何が起こるかなどに気を取られないことを願う」と同氏は述べた。

「万一、SECが上訴したなら、私はただ皆に『深呼吸して』と言うだろう」

CoinDeskが話を聞いた弁護士は、SECが上訴する可能性は高いと述べた。特に二次取引に関する判決はSECにとって「悪い前例」となると指摘した。

「多くの人が『SECは敗訴ばかり』と言っているが、必ずしもそうではない。勝訴している例もある。だが、SECの『すべては証券』という戦略には、明らかに持続不可能と思われる重大な欠陥がある」

SECが上訴した場合、リップルのアルデロティ氏は、控訴裁判所が地方裁判所の判決を覆すことはめったにないことを踏まえ、SECには長い道のりが待っていると述べた。

この訴訟は現時点ではリップル社の大きな勝利となっているが、暗号資産業界全体にとって明確な指針となるかどうかはまだわからない。

法律事務所Withersのパートナー、クリストファー・ラヴィーン(Christopher LaVigne)氏は、断片的な判決が下されている現状では、業界が求めているような明確な回答は出ていないと述べた。これまでの判決は実質的な変化をもたらしていないという。

SECは企業に法律を遵守するよう求め、企業は法律を遵守していると主張し、裁判所がどちらの方向に判決を下すかはわからない。

「実際にはどうなるのか? 現状とほとんど変わらない」

|翻訳・編集:CoinDesk JAPAN編集部
|画像:リップル社のブラッド・ガーリングハウスCEO (Suzanne Cordiero/Shutterstock)
|原文:What’s Next in SEC v. Ripple?