暗号資産取引で個人情報開示の米国税法、違憲となるか──再審理へ
  • 暗号資産シンクタンクのコインセンターは、米国控訴裁判所から財務省とIRSに対する訴訟の再審理の許可を得た。
  • コインセンターは2022年、特定の暗号資産取引とその取引参加者の個人情報をIRSに開示することを義務付けるという、物議を醸した米国税法の改正案をめぐって訴訟を起こしていた。
  • 同シンクタンクは、この改正は違憲であり、暗号資産ユーザーに対する「過度な監視」の証左であると主張している。

暗号資産(仮想通貨)シンクタンクのコインセンター(Coin Center)は、特定の暗号資産取引の詳細を米国内国歳入庁(IRS)に開示するよう米国民に義務付ける「違憲」な税法改正をめぐり、米国財務省を相手取って訴える機会をを再び手にした。

現地時間8月9日、米国第6巡回控訴裁判所のカレン・ネルソン・ムーア(Karen Nelson Moore)巡回裁判官は、ケンタッキー州東部地区連邦地方裁判所のカレン・コールドウェル(Karen Caldwell)裁判官によるコインセンターの訴訟を棄却する従前の決定を覆した。コールドウェル裁判官は昨年7月、事物管轄権の問題でこの訴訟を棄却することに同意し、コインセンターの訴訟で提起された問題がまだ「成熟していない」ため、自身の裁判所にはそれについて決定する権限がないとの判決を下した。「成熟していない」とは、原告が実際の損害が発生したことを十分に主張しておらず、将来的には仮定的に発生する可能性があるとしか主張していないことを意味する法律用語である。

2021年に可決された1.2兆ドル(約175兆円、1ドル=146円換算)規模のインフラ投資・雇用法に盛り込まれた合衆国法典第6050I条の改正により、1万ドル(約146万円)以上のデジタル資産を交換する暗号資産ユーザーは、実名、社会保障番号、自宅住所などの個人情報を収集し、相互に、また当局に対して、共有することが法的に義務付けられることになる。

この改正案で求められる要件について、多くのユーザーが匿名である暗号資産の精神に反するものであり、プライバシーの侵害や政府の権限の濫用につながる可能性があると考える暗号資産業界の人々から多くの抗議が巻き起こった。

裁判の経緯

コインセンターは2022年6月に財務省とIRSを相手取り訴訟を起こし、この修正案は「高圧的な監視」に相当し、憲法修正第1条の表現の権利や結社のプライバシー権など、数多くの憲法上の権利を侵害すると主張した。

巡回裁判所のムーア裁判官は、コインセンターのプライバシーに関する懸念の一部はまだ成熟していないと判断し、「決して起こらないかもしれないシナリオに基づいて6050Iを無効にすることはできない。また、その合憲性について一般的に意見を述べる権限もない」と記していた。

しかし、同裁判官は、コインセンターが実際には、憲法修正第4条、憲法修正第1条、および列挙された権限(本質的には、議会によって付与された政府の権限に関する問題)に関する3つの主張を有しており、それらは法廷で審理するのに十分に「成熟」していると判断した。

「原告の列挙する権限の主張は明らかに成熟している」とムーア裁判官は判決文で述べた。「列挙された権限の主張は極めて単純で純粋な法的争点を提示している。すなわち、議会が憲法で与えられた権限を超えたか、そうでなかったかのどちらかである(中略)議会が法律を可決した瞬間に成熟していたのだ。」

ムーア裁判官がコールドウェル裁判官による判決を部分的に覆したというのは、訴訟が「(ムーア裁判官の)意見と一致した」新たな手続きのために下級裁判所に差し戻されたことを意味する。

コインセンターのリサーチ・ディレクター、ピーター・ヴァン・ヴァルケンバーグ(Peter Van Valkenburgh)氏は、現地時間8月18日のブログ投稿でこの裁判所での勝利を祝い、次のように書いている。

「寄付を通じて私たちの使命を支援してくれる、こうした団体のプライバシーや、米国民の名前や個人情報は、私たちの憲法上の権利であり、私たちはその権利を正当に守るために歩を進めるられることを嬉しく思う。」

CoinDeskは財務省とIRSにコメントを求めたが、応じられることはなかった。

|翻訳・編集:T.Minamoto
|画像:Shutterstock
|原文:Coin Center Wins Right to Sue U.S. Treasury, IRS Again Over Controversial Tax Reporting Rule