DePINが今、注目される理由

2019年頃のDePIN(分散型物理インフラ)の取り組みの第一波は、デジタルインフラに焦点を当てていたが、今では他のタイプのネットワークが出現している。具体的には、データやサービスネットワークを中心としたプロジェクトが一般的になりつつある。

究極的には、私はDePINを、

  • ブロックチェーンベースの分散型の調整によってインフラを運用し、
  • サーバー、センサー、または不動産などの物理インフラに依存または影響を与えるもの

と定義している。

DePINが注目されている要因について述べる前に、DePINはほぼ常に2つの側面を持つマーケットプレイスで構成されていることを理解する必要がある。需要側と供給側の2つだ。

  • 需要サイド:ユーザーが特定の問題やニーズに対処するためのサービスや製品を探す市場の側面。
  • 供給サイド:ノード、ハードウェア、センサーなどを含む分散型インフラが、プロジェクトやdApp(分散型アプリ)を通じて展開されている市場の側面。

では、それぞれ、市場の両側では何が起きているのだろうか?

供給サイド

DePINの供給を容易にすることで、より優れた、より多様な供給が可能になり、多様な需要に適合できるようになる。

供給サイドが提供可能になるには、次の2つの要因を考慮する必要がある。

  • コスト曲線の低下
  • ユーティリティトークンの設計の改善

コスト曲線

従来、ホスティングインフラには、先行投資が必要であり、それは大規模な中央集権型の事業者のみが可能だった。だが、コスト曲線の低下により、ほぼ誰もがインフラプロバイダーになることが可能になった。

最近の研究によると、メモリコストは過去20年間で100分の1に低下し、コンピューティング(GPU)コストは100分の1〜300分の1に低下したという。こうしたリソースに対する需要は高まっており(供給不足さえ生じている)、膨大な演算能力やメモリをホスティングするための参入障壁は大幅に低下している。インフラを構築するために必要な資本は縮小しており、より多くの人々が参加し、ノードを実行し、障害が発生しやすいポイントを排除して、ネットワークをより強固なものにすることが可能になっている。

ユーティリティトークン

ユーティリティトークンの設計は、長い間、きわめて専門的な技術と見なされてきた。だがここ数年でノウハウは急速に改善され、より強固なトークンモデルが提供されるようになった。

DePINネットワークは、ネットワーク効果を生み出すため、多くの場合、ユーティリティトークンに依存している。なぜなら、ユーティリティトークンは、異なる経済的利益を持つステークホルダーの間でインセンティブを一致させるからだ。適切なゲーム理論を構築し、ネットワークを支える行動を奨励し、貢献に適切に報酬を与えるためには、優れたトークン設計が不可欠。

ユーティリティトークンは、初期のネットワーク効果を生み出すことにも役立つ。そのため、現在では、より多くのトークンエンジニアが設計時にシナリオ分析や統計を活用している。これにより、時間や市場の変動に耐える、より堅牢なトークン設計が可能になるはずだ。

需要サイド

これまで、DePINプロジェクトは需要が限定的だった。つまり、サービスやアプリケーションは稼働していたが、さまざまな理由により利用率は低かった。需要の増加により、DePINビジネスが遂に実現可能となり、改善プロセスが回りだす。

需要サイドがオンラインになるには、次の3つの要因を考慮する必要がある。

  • ユーザビリティの向上
  • プライバシーとセキュリティの重視
  • データの生成の爆発的な増加

ユーザビリティ

正直に言おう。今、多くのWeb3アプリは暗号資産に慣れていない人には使いにくい。だが、アカウント抽象化とAIを活用したUXがこの問題を解決するはずだ。

2024年は、アカウント抽象化(取引の技術的な仕組みのいくつかをユーザーから隠すこと)がWeb3全体で普及した一年。現在のWeb3のUXは、Web2から移行するように、メインストリームのユーザーを説得するにはあまり魅力的ではないという認識が改めて注目を集めている。

現在、UXとアカウント抽象化に重点的に取り組んでいる企業は数多い。同時に、まさにこの点に焦点を当てた2023年のイーサリアムのアップグレード「ERC-4337」が、DePINを含む幅広いプロジェクトで実際に採用されている。

一方、AIは約2年前にChatt GPTが発表されて以来、ルネサンス期を迎えており、モデルの改善とインテグレーションが急速に進んでいる。現在、ブロックチェーン上で開発が進められているAIアシスタントは、アプリケーションの使用を簡素化し、人間にとって使いやすいフロントエンドの必要性を低減するものとなるだろう。

プライバシーとセキュリティ

データ保護に関する懸念は、DePINの普及にプラスになることが証明されている。すなわち、DePINは分散型であり、この懸念を根本的に改善できる。

プライバシーのパラドックスは、AIが社会全体に普及して以来、よく知られた現実となっているが、ユーザーの懸念はますます高まっている。特にデータ管理に関しては、プライバシーとセキュリティに対する懸念が強まっている。

数々の証拠が、ユーザーが個人情報の保護を優先する別のソリューションを求めるようになっていることを示している。DePINは分散型アプローチを採用しており、本質的にプライバシーとセキュリティを強化しているため、個人や企業にとって魅力的な選択肢となる。このテーマに対する関心が高まっていることは、長年にわたる無関心の後に起きたい追い風であり、DePINにとっては良い環境だ。

データの生成

現在、1日に生成されるデータは、約350万テラバイト(TB)にのぼると推定されている。人類は、ストレージに保存し、コンピューターで処理しなければならない、途方もない量のデータを生成しており、これはDePINが得意とする分野だ。

我々はかつてないほど大量のデータを生成している。現在、全データの90%はこの2年間に生成されたものと考えられている。生成AIによって、データはまさに「21世紀の石油」となったため、我々はデータを確実に、適切に保存する必要がある。

かつて、企業や個人の多くは、データを手元のマシンに保存するか、クラウドに保存するかについて無関心だったが、現在ではデータストレージに関する意思決定プロセスが数多く存在する。DePINは、その成熟とともに、データの保存と処理の現実的な選択肢として存在感を高めている。

次に起こること

DePINには多くのメリットがあり、ユーザー、投資家、そしてコミュニティ全体がエキサイトしている理由も納得できる。DePINは、経済的に重要なインフラが社会でどのように組織化されるかをまもなく再定義し、少なくとも従来のインフラと同等の地位を確立すると私は確信している。

|翻訳・編集:CoinDesk JAPAN編集部
|画像:代表的DePINプロジェクト「ヘリウム(Helium)」の機器
|原文:Why DePIN Is Taking Off Now