高速なコンピューターと優れたアルゴリズムがブロックチェーンを完全に分散化する

コンピューターはより高速になり、私たちの数学スキルも向上している。この組み合わせがイーサリアムのようなブロックチェーンを再形成し始めている。これにより、さらなるスケーラビリティが促進されるだけでなく、真に分散化されたブロックチェーンエコシステムと、より強力なスマートコントラクトが実現するだろう。

クラウドサービスへの依存

今日のブロックチェーンはすでに膨大なコンピューティングリソースを消費しているが、多くの人々が望んでいるよりも、はるかに中央集権的で脆弱。高度なプロトコルは大型サーバーに依存しており、そのほとんどが少数の強力なクラウドサービスに存在している。真に高度なスマートコントラクトの開発は、まだ初期段階にある。

今日、イーサリアムのスマートコントラクトは概ね24〜25KB程度であり、多くのDeFi(分散型金融)エコシステムは複数のコントラクトに依存している。スマートコントラクトがメガバイトサイズになり、組み込みの機械学習モデルや複雑な決定木などの機能が搭載される未来が訪れないと考える理由はない。

スマートコントラクトのサイズを25KBに制限すべきだという考え方は、いずれ初期のパソコンのメモリ制限が640KBだったことと同様に時代遅れになるだろう。

こうした科学的な進歩がブロックチェーンにどのような変化をもたらすかを理解するには、そもそも、なぜこうなったかを振り返ることが重要だ。ブロックチェーンは、かつては多くの人が非常に無駄が多いと考えていた方法で膨大なコンピューティングパワーを使用している。

厳しいメモリ制限

コンピューターの初期の時代に遡ると、メモリや演算リソースは非常に限られていたため、例えば、年を表す「1985」の「19」を省略していた。何千もの並列プロセスを必要とするプルーフ・オブ・ワーク(PoS)システムは、当時から見れば、考えられないほど無駄が多いだろう。

ブロックチェーンの問題は、そのセキュリティと価値が、同じことを何度も繰り返すことによって得られることだ。誰もが残高や計算をチェックし、検証し、合意に達しようとする。仮に信頼できる1つの存在を選び、全プロセスを管理してもらうことができれば、99%の労力は削減できる。しかし現在、信頼できる中央集権的な存在は圧倒的に不足している。

全員にお互いの結果をチェックさせることは、以前は不可能だった。十分な処理能力がなかったからだ。私は、両親がコンピューターで使用するパンチカードがあちこちに転がっている家庭で育った。幸いにも、そのような時代はとっくの昔に過ぎ去った。

ムーアの法則の限界?

ムーアの法則、つまりコンピューティングパワーは18カ月ごとに倍増するという見解によって、私たちはパンチカードから救われた。その結果、時代とともに理解が難しいスピードで性能は向上している。1970年には、チップ上に約1,500の回路を搭載していたが、2020年には500億に迫る勢いだ。

ブロックチェーンに関して言えば、非常に安価になったもの(コンピューティングパワー)を、非常に価値の高いもの(信頼できるデータや結果)と交換できるようになったことを意味する。イーサリアムの台頭により、ブロックチェーンは実用的なアプリケーションを満載したエコシステムへと変貌を遂げたが、ムーアの法則は減速しているとはいえ、まだ有効なため、変革はまだ終わっていない。

ムーアの法則は、チップ上のトランジスタ数は2年毎に倍増し、コストはほとんど変わらないと述べているが、この10年のうちに限界に達すると長らく考えられてきた。量子力学の奇妙な効果が計算結果に影響を与え、回路をこれ以上小さくすることはできなくなるからだ。だが、まだそうなってはいない。

現在、最小のチップは4ナノメートルの回路を使用しており、半導体業界は、回路幅が0.7ナノメートルのチップを製造するロードマップを策定している(ちなみに、シリコン原子の直径は0.2ナノメートルであり、これが最終的な限界となるだろう)。

数学的な処理能力の向上

チップに搭載する論理回路を増やして高速化を図るだけでなく、数学的な処理能力も向上している。ブロックチェーンにとって極めて重要な、非常に特殊な種類の複雑な数学的証明であるゼロ知識証明(ZKP)を私たちは大幅に改善してきた。ゼロ知識証明は、基礎となるデータを公開せずに、情報の真偽を証明できる数学的手法だ。データをすべて添付せずに多数の取引をまとめたり、取引に関する情報を秘密にしておくことが可能になる。

ゼロ知識証明は、ブロックチェーンでより多くの取引を処理すること、および、ユーザーのプライバシーを保護することの両方に不可欠。ゼロ知識証明の課題は、実行が難しく、膨大なコンピューティング能力が必要なことだ。

わずか数年の間に、ゼロ知識証明(ZKP)は概念実証からブロックチェーンのコア技術へと発展した。その理由の一部は、高性能かつ低価格なコンピューターの登場にあるが、私たちの数学的能力も大幅に向上していることは明らかだ。ゼロ知識証明におけるムーアの法則のようなものはまだ定義されていないが、EYでの私たちの経験は極めて良好だ。私たちが開発したプライバシー技術「Nightfall」のパフォーマンスは、2018年にプロトタイプを発表して以来、1万倍以上に向上している。

真の分散化に向けて

チップの性能向上と数学の進歩を組み合わせれば、ブロックチェーンの運用方法に大きな変化が生まれるはずだ。その兆候はすでに現れている。ゼロ知識(ZK)ロールアップとゼロ知識ベースの仮想マシンは、高度な数学と膨大な演算能力を使用して、イーサリアム上のブロックチェーン取引を圧縮し実行する。以前は、Nightfallをテストするために、サーバーの使用時間をかなり購入する必要があったが、現在では最新バージョンのNightfallを最高性能のラップトップ上で実行できる。

このままのペースで進めば、スマートフォンを含め、ほぼあらゆるデバイスがブロックチェーンノードとして機能し、クラウドに送信するだけでなく、デバイス上でトランザクションを処理できるようになるだろう。Zcash(ジーキャッシュ)のようなチェーンでは、すでにブラウザで基本的なゼロ知識証明トランザクションを行うことができる。こうした機能が普及すれば、計算集約型サービスの集中化が大幅に緩和され、より真の分散型ブロックチェーンエコシステムが実現することになる。

もう1つの重要な変化は、最大のスマートコントラクトの許容サイズが大きくなることだろう。現在、イーサリアムでは24KBに制限されており、大規模なDeFiサービスの多くは複数のコントラクトを結合しなければならない。より大きなスマートコントラクトを許可することで、サービスは簡素化され、コストは削減され、ハッキングの被害も減少する可能性がある。

長年、私たちはインターネットの再分散化について語ってきた。ブロックチェーンは私たちに前進の道筋を示してきたが、現実が常にその期待に応えてきたわけではない。Web3の世界の多くの部分は、依然として高度に中央集権化されている。ブロックチェーンの改善の次のフェーズは、真の分散化を極限まで達成する新たなチャンスをもたらし、革新的なサービスを備えた強靭なネットワークを実現するかもしれない。ブロックチェーンの進化はまだまだ終わらない。

|翻訳・編集:CoinDesk JAPAN編集部
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|原文:Faster Computers and Better Algorithms Will Fully Decentralize Blockchains