IPOは不要、バイナンスは100年続く企業を目指す:テンCEOインタビュー
  • 創設者のCZこと、チャンポン・ジャオ氏の後を継いでCEOに就任したリチャード・テン氏は、バイナンスは財務状態が良好であり、IPO(新規株式公開)は検討していないと述べた。
  • 現在4カ月の懲役刑に服しているジャオ氏は、もはや経営には関与していないが、ジャオ氏のパートナー(共同創設者)のイー・ヘ(YI He)氏は関与しているとテン氏は述べた。
  • テン氏は、償う必要があると述べた。「我々は過去の誤りを認めている。その点については重い代償を支払った」

リチャード・テン(Richard Teng)氏は、創設者で前CEOのチャンポン・ジャオ氏が米国政府との数十億ドルの和解の一環として取引所を辞めざるを得なかったため、昨年、理想的とは言えない経緯のなかで暗号資産(仮想通貨)業界大手バイナンス(Binance)のトップ座を引き継いた。

だがプラス面で見れば、彼は高収益企業のCEOに就任した。

彼がCEOに就任してからの9カ月間、シンガポールとアラブ首長国連邦で規制当局に勤めた経験を持つテン氏は、ジャオ氏の時代はジャオ氏がリードしていたバイナンスを、取締役会がリードする組織に変革することに重点的に取り組んできた。同社は、本社の所在地について明確なコメントを避けていたが、少なくとも一度は「国際企業」であると曖昧に主張し、常に中国企業ではないと述べてきた。テン氏は、本社所在地となる場所を探している。

2022年後半にライバルのFTXが破綻して以降、暗号資産価格が上昇したこと、伝統的金融機関がこの分野を受け入れたこと(あるいは、進出したこと)、そして米国の規制当局が暗号資産に対する姿勢を軟化させるのではないかとの期待が相まって、同社はIPO(新規株式公開)を検討しているのではないかとの憶測が飛び交っている。

しかし、8月21日にニューヨークでの米CoinDeskとのインタビューで、テン氏は、同社はIPOを検討していないと述べた。

「当社は非常に健全な財務状態にあり、現時点で資金調達やIPOを検討する必要性はまったくない」「経営を引き継いで5カ月目以降、当社は利益を上げており、支出に関しては非常に慎重だ。だから(IPOは)話題に上ったことはない」

取引所の透明性を高める取り組み、すなわち、2022年と比較して昨年はコンプライアンスへの支出を36%増やしたことや、現在も本拠地を置く場所を探していることなど、テン氏は、こうした取り組みは世界中の規制当局と良い関係を築くことにつながり、その結果、より将来を見据えた方向へと会社を導くことになると述べた。

「本当に重要なことは、今後数年間のみならず、今後50年から100年にわたって成功し続ける持続可能な企業を築くこと」とテン氏は述べた。

「それが間違いなく、我々の願いだ」

ジャオ氏の関与

テン氏は、米国政府との43億ドルの和解の一環として、 ジャオ氏が退任したため、CEOに任命された。ジャオ氏は、適切なアンチ・マネーロンダリング(AML)および顧客確認(KYC)体制を維持していなかった罪を認め、6月に4カ月の懲役判決を受けた。

バイナンスの顔として広く知られていたジャオ氏は、もはや同社の日常業務や意思決定には関与していない。

「米国政府の和解の一環として、ジャオ氏は会社の業務に関与することができない」とテン氏は述べ、「私は彼とは話さない」と続けた。

だが、ジャオ氏のパートナーであり、彼の3人の幼い子供の母親でもある共同創業者のイー・ヘ氏は、同社の経営陣にとって依然として「重要な存在」とテン氏は述べた。

「イー氏はビジネスのさまざまな側面に関わっている」とテン氏は述べ、彼女はバイナンスの人材部門を統括しており、冗談半分に「自分は取引所の最高顧客サービス責任者」だと言うことがあると続けた。

「彼女は非常に有能で、非常に独立心に富んだ人物だ」

グローバルな野望

同社は、ジャオ氏の所有権を希薄化させる可能性のある資金調達を検討したかどうかとの質問に対して、テン氏は、そのような質問は株主と取締役会が決めることだと述べた。

だがテン氏は、ジャオ氏が重罪犯であるという立場は、外部が考えるほど大きな課題にはなっていないと述べた。

「当社は世界中の規制当局と緊密に連携している。世界の多くの場所では問題はない。課題となる可能性がある地域もあるだろうが、すでにいくつかは解決済み」と、テン氏は、同社が最近取得したライセンスや、ドバイ、インド、タイ、ブラジルなどの国々で締結した和解に言及した。

テン氏は、バイナンスは世界中の規制当局と過去の誤りを清算し、透明性が高く、規制された方法で事業を進めることが重要だと強調した。

「我々は過去の誤りを認めている。その点については重い代償を支払った」とテン氏は述べた。

「今後は、世界中の規制当局と連携しながら、持続可能で堅固なプラットフォームを構築し続ける方法を模索している」

アメリカには興味なし

バイナンスが現在、進出に興味を示していない国の1つがアメリカだ。「現時点では、我々が本当に注目しているのはアメリカ以外の市場だ」とテン氏は述べた。

暗号資産業界の多くの人々が、トランプ氏の勝利が暗号資産にとって、より明確で友好的な規制体制への道を切り開くのではないかと期待し、大統領選の結果を心待ちにしているが、テン氏は、選挙結果がどちらになってもバイナンスにとっては、ほとんど意味がないと述べた。

「我々のビジネスはアメリカ以外にある」とテン氏。

「だから、アメリカで何が起きているかをワクワクしながら見ているが、我々のビジネスにはまったく関係がない」

|翻訳・編集:CoinDesk JAPAN編集部
|画像:米CoinDeskのインタビュー動画(キャプチャ)
|原文:New Binance CEO Sees No Need for IPO as He Plots 100-Year Strategy for Crypto Exchange