DAOで地域経済は本当に再生できるのか? ~リアルとバーチャル、都市と地方、世界と日本をつなぐDAOの効用~ 【N.Avenue club 2期2回ラウンドテーブル・レポート】

人口の減少や高齢化、首都圏への人口一極集中が進む日本において、全国の地方・地域の都市づくりを考える上で欠かせないとされるのが、その土地に定住していない「関係人口」の取り込み。そこで活用が今、期待されているのがDAO(自律分散型組織)だ。

DAOは、参加者がどこからでも平等に参加できる組織で、企業のようなピラミッド型の組織とはことなり、代表や管理者にあたる存在がいない。特定のユーザー同士の約束に基づくスマートコントラクトによって、事業やプロジェクトが進み、発行するガバナンストークンは原則、参加を希望すればだれでも購入できる。

今年4月、金融商品取引法の内閣府令が改正・施行され、日本では合同会社型のDAOを設立できるようになった。合同会社型DAOは、社員権トークンを販売して資金を調達し、その資金を元手に他のトークンと組み合わせて事業を拡大できる。

既に合同会社型のDAOはいくつも誕生しているが、誰もが成功と評価できる事例はまだない。本当にDAOは、これから日本の地方・地域の都市やコミュニティを盛り上げ、疲弊しつつある地域経済を再生できるのだろうか。また、そのためにどのような取り組みが求められるのか。

2024年7月から二期目に突入した「N.Avenue club」は、CoinDesk JAPANを運営するN.Avenueが展開する、Web3をリサーチする大手企業のビジネスリーダーを中心とした限定有料コミュニティサービス。その第2回のラウンドテーブルVol.14は、この「DAO」をテーマに8月15日に開催された。

DAOを活用して地方創生・地域の活性化・再生につなげられるのか、そのためにはどういった取り組みが求められるかを議論。ラウンドテーブルには、Web3やDAOの普及に取り組む政治家、起業家でもある弁護士、国内外で法人の立ち上げとDAO向けツールの開発などに取り組む起業家がスピーカーとして参加、事例を紹介するとともに、参加者からの質問にも答えた。

ラウンドテーブルは会員限定のクローズ開催のため、ここでは当日のプレゼンテーションや議論の様子について、概要を紹介する。

【N.Avenue club 2期2回ラウンドテーブル】DAOで地域経済は本当に再生できるのか?~リアルとバーチャル、都市と地方、世界と日本をつなぐDAOの効用~

冒頭、登壇したのは、自民党デジタル社会推進本部web3プロジェクトチーム(web3PT)の事務局長を務める川崎ひでと衆議院議員。

川崎氏は、ラウンドテーブルの前日に岸田首相が次期総裁選への出馬を見送る方針を示したことに触れ、岸田内閣がWeb3を国家戦略に掲げるなど積極的だったことを紹介、次の政権下でもWeb3の取り組みを止めないためにも、会場の参加者たちに、積極的な発信・アピールを続けるよう訴えた。

(川崎ひでと衆議院議員)

川崎氏が所属するweb3PTは、DAOに関する法律のあり方を検討することなどを目的に、昨秋以来、DAOルールメイクハッカソンを開催。関係者、事業者からの意見を吸い上げて取りまとめ、政策提言の形で発表している。

川崎氏は、地元の三重県伊賀市を引き合いに、「人口が減るとその分、(振興に向けた)アイデアも減ってしまう。しかし、DAOを活用することで、たとえ伊賀市に住んでなくても、伊賀を愛していれば、(伊賀の)忍者を愛していれば貢献してもらえる」などと主張。その上で、「DAOの活用で地方創生を実現しながら、企業には利益をあげてもらえるようにしたい」として、DAOが活動の中心とする地域・地方の振興につながるだけでなく、関わる企業にとってもメリットが出る形を目指すという姿勢を明確にした。

次に、共創DAO共同創設者の本嶋孔太郎氏が登壇。業界関係者には“マックさん”という愛称のほうがなじみが深いかもしれない本嶋氏は、独立前は森・濱田松本法律事務所という大手事務所に勤めていた弁護士で、スタートアップ、ディープテック(web3、AI、データ、バイオヘルス)、ファイナンス、ルールメイキングを専門としている。

現在は香川県に移住、主に中・四国で、web3特区作りや、ソーシャルセクター/スタートアップのエコシステム作り、DAOを使った共助共創の循環作りに取り組んでいる。

(本嶋孔太郎氏)

本嶋氏は、ルールメーキングに取り組むDAO(RMD、RULEMAKERS DAO)や、日本DAO協会の取り組みについて説明したほか、自身が取り組んだ事例を中心にさまざまなDAOを分類して紹介。四国でのNEO四国88箇所祭り、空き家・古民家を活用するDAO、漁業関連の陸上養殖DAOなどについて、その概要と狙いを解説した。

合同会社型DAOについては、当初はトークン発行で資金調達するなどスモールスタートするとしても、ゆくゆく拡大することを考えると、IEOや取引所への上場を視野に入れる必要があると指摘。そこで問題になるのが、保有する暗号資産への税制で、総合課税ではなく分離課税にする必要があるなどと訴えた。

最後に登壇したのは、日本とスイスの法人で代表を務める岡崇氏。岡氏はDAOの世界観、従来の組織との大きな違いなどについて解説。DAOの“三種の神器”として「トークン」「スマートコントラクト」「ガバナンスメカニズム」を掲げた上で、この3つは部分的に企業の活動に活用できるとアピール。その結果として、「計測手可能な成果に落とし込める」「ステークホルダーを可視化・組織化・仲間化できる」などのメリットを紹介した。

(岡崇氏)

その上で、8つの質問に答えていくことで、自分たちが目指せる、目指しやすいDAOのタイプが分かる「DAOセレクションフレームワーク」を提示。これは、いずれの質問も2択から5択で答えられるようなっている。たとえば、「組織の目的に最も近いのは?」という質問は、「A 新規事業の立ち上げ/B 既存事業の改革/C コミュニティ形成・強化」から回答を選び、「理想の組織形態は?」には選択肢として「A 法人として運営/B コミュニティベースで運営」が提示されているといった形だ。

これらのメインセッションが終わった後は、参加者がテーブルごとにグループディスカッションを行い、意見や感想を述べあった。

そこでは、DAOに取り組む目的を明確にすることの必要性や、地方創生DAOにとっての成功は何かといったテーマについての意見が提示された。また、DAOはトップダウン型の組織ではないものの、「立ち上げと拡大においては、(イーサリアムにおけるヴィタリックのような)パッションを持ったリーダーが必要ではないか」といった指摘も多く見られた。

このほかにも、各スピーカーのスピーチの後にはそれぞれ質疑応答の時間が設けられ、具体的な質問や疑問が投げかけられた。

「N.Avenue club」のラウンドテーブルは毎回クローズドな環境で行われており、先駆的な事例が紹介されるほか、Web3に携わる参加者たちのディープな議論が行われている。こうしたイベントは毎月開催されており、事務局は、Web3ビジネスに携わっている、または関心のある企業関係者、ビジネスパーソンに参加を呼び掛けている。

|文:瑞澤 圭
|編集:CoinDesk JAPAN編集部
|写真:多田圭佑