ソニー、イーサリアム・レイヤー2「Soneium(ソニューム)」発表──アスターはAstar zkEVMをSoneiumに移行

ソニーグループと、渡辺創太氏率いるスターテイル・ラボの合弁会社 Sony Block Solutions Labs Pte. Ltd.は8月23日、イーサリアム・レイヤー2「Soneium」を発表した。

昨年9月、ソニーグループ傘下のソニーネットワークコミュニケーションズとStartale Labs Pte. Ltd.(以下、スターテイル・ラボ)は、Web3グローバルインフラとなるブロックチェーンの開発に向けて合弁会社 Sony Network Communications Labs Pte. Ltd. の設立を発表。この合弁会社が今回の発表に先立ち、8月19日に Sony Block Solutions Labs Pte. Ltd.(以下、Sony Block Solutions Labs)に社名変更した。合弁事業自体もソニーネットワークコミュニケーションズからソニーグループに移管されているという。

Soneiumは、あらゆる業界の多様なニーズに応え、世界中のユーザーをサポートする汎用性の高いレイヤー2(L2)ブロックチェーンで、Web3の基盤となるブロックチェーンを開発することで、部分的なサービス提供に留まらず、インフラからアプリケーションレイヤーまで包括的なWeb3ソリューションの提供を目指すという。

Soneiumの開発には、Optimism Foundationが開発したOp Stackを使用。イーサリアムエコシステム内で複数のレイヤー2を統合し、スケーラビリティを改善しつつ、セキュリティと分散化を維持する「Superchain」に加わる。

Sony Block Solutions Labsのチェアマン、渡辺潤氏は「ソニーグループは、『クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。』というパーパス(存在意義)のもと、多種多様な事業を展開しており、ブロックチェーンをベースとした包括的なWeb3ソリューションの開発は、ソニーグループにとって非常に意義深いと考えている」と述べている。

Astar zkEVMをSoneiumに移行

一方、渡辺創太氏が日本発ブロックチェーンとして立ち上げたアスターネットワーク(Astar Network)は同日、イーサリアムL2のAstar zkEVMをSoneiumに移行すると発表した。

アスターネットワークは2022年1月、異なるブロックチェーン間の相互接続を目指すポルカドット(Polkadot)のパラチェーンの1つとしてローンチ。日本発のレイヤー1(L1)ブロックチェーンとして注目を集め、米暗号資産取引大手のコインベース(Coinbase)から出資を受けたり、さまざまな国内企業とWeb3事業を手がけるなど、ポルカドットエコシステムで最大規模のチェーンに成長している。

2023年9月には、Polygon Labsとの協業を発表。ゼロ知識証明を活用したPolygon CDKを使ったイーサリアム・レイヤー2「Astar zkEVM Powered by Polygon(以下、Astar zkEVM)」の開発に着手。レイヤー1とレイヤー2を連携させたエコシステムの拡大に乗り出した。

同じく9月には、今回の発表につながるソニーネットワークコミュニケーションズとスターテイル・ラボが合弁会社の設立を発表している。スターテイル・ラボは、アスターネットワークとは別の法人としてWeb3事業開発・プロダクト開発を担ってきたが、2024年1月、アスターネットワークと一体化し、より大きな成長とイノベーションを目指す「Astar Evolution」が発表されている。

2024年3月にはAstar zkEVMがローンチ。ローンチに際しては、40を超えるWeb3プロジェクト、クリエイター、大企業が提供するNFTをカプセルトイ形式で配布・販売するキャンペーンを展開したが、期間中にネットワークの巻き戻し問題が発生。その後、「正常復帰」「ユーザーの資産は安全」と発表している。その後も、Astar zkEVMを使ったユースケース創出の取り組みを発表していた。

関連記事:渡辺創太氏のスターテイル、秋元康氏のアイドルプロジェクトと戦略的パートナーシップ──キラーユースケース創出へ

今回発表したAstar zkEVMのSoneiumへの移行は、2ステップで構想されているAstar Evolutionのフェーズ1になるという。

スターテイル・ラボの代表取締役CEOで、アスターネットワークの創設者の渡辺創太氏は「アスターネットワークの創設者として、アスターとそのコミュニティの価値を最優先事項と捉えている。エコシステムの拡大とオンチェーンでのマスアダプションを加速させるために、Astar zkEVMをSoneium L2に移行することは正しい前進と信じている」と発表で述べている。

渡辺氏は、年始のCoinDesk JAPANのインタビューで「具体的なことはまだ言えないことも多い」と述べていたが、Soneiumの発表と移行で、アスターを「世界トップ10レベルにしていくための勝負をしていきたい」と語っていたプランの1つが明らかになった。

新たな局面を迎えているレイヤー2

イーサリアム・レイヤー2ネットワークは、イーサリアムのガス代(取引手数料)高騰、トランザクションの遅延、スケーラビリティなど、イーサリアムエコシステムの発展・拡大とともに浮上してきた課題を解決するために登場した。イーサリアムメインネットの外側でトランザクションを処理し、結果のみをメインネットに送ることで効率を向上させ、前述の課題に対処するものだ。

最近では、米暗号資産取引大手コインベース(Coinbase)のレイヤー2「Base」が注目を集めている。TVL(預かり資産)でBase最大のDEX(分散型取引所)Aerodromeの手数料収入は、16チェーンに展開するユニスワップ(Uniswap)に追いつきそうな勢い。Baseは、取引所が手がけていることで法定通貨からのオンランプ/オフランプが容易であることに加え、使いやすいウォレットを提供。DeFi(分散型金融)をはじめ、さまざまなプロジェクトがBase上で誕生している。

レイヤー2ネットワークの基盤技術としては、ゼロ知識証明(zk)ロールアップ、Optimisticロールアップなどが知られている。Astar zkEVMは、zkロールアップを採用。一方、今回発表されたSoneiumは、Optimisticロールアップを採用。アスターネットワークはレイヤー2を推進するにあたり、その基盤技術を乗り換えたことになる。

レイヤー2は、イーサリアムの創設者ヴィタリック・ブテリン氏が一部の機能をメインネットに戻す計画を発表し、先行きが不安視されることもあった。だが一方でブテリン氏は自身のブログに「Return of Plasma」と記し、zkロールアップ、Optimisticロールアップの人気に押されていたスケーリングソリューション、Plasma(プラズマ)にも再び注目が集まっている。ブテリン氏は、7月末に日本で開催されたイーサリアム開発カンファレンス「EDCON」のサイドイベント「PlasmaCon」にも登壇し、Plasmaの優位性を語っている。

テストネットと技術文書を公開

Sonieumは、ソニーグループが手がけるレイヤー2ネットワークとして、エンターテインメント、金融、エレクトロニクス、ゲームなど、ソニーグループがグローバルで手がける多種多様なビジネスと連携した新たなサービスの検討を行うという。

ソニーグループは7月、暗号資産取引サービス「WhaleFin」を運営するAmber Japanの買収を発表、暗号資産関連ビジネスに注力する動きを見せている。

また、傘下のソニー銀行は同じく7月にWeb3エンターテインメント領域向けアプリ「Sony Bank CONNECT」をリリースし、ブロックチェーンを基盤としたウォレットのリリースに向けた要件定義や設計を進めていると発表している。この基盤としてSonieumが検討されているかもしれない。

一方で、ソニー銀行は4月にPolygon Labsと連携したステーブルコイン発行に向けた実証実験を発表している。

関連記事:ソニー銀行、ステーブルコインの実証実験:報道

Soneiumは、最先端技術の開発にとどまらず、ブロックチェーンをマスに届けることをミッションにしている。「Go Mainstream with Soneium(GM with Soneium)」は単なるキャッチフレーズではなく、マスアダプションへのコミットメントを宣言するものと発表には記されている。

近日中にテストネットをローンチ。開発者やクリエイターがSonieumの開発環境を体験し、テストネット上で独自のアプリケーションを構築できるようになるという。詳細な技術文書も公開される予定だ。

|文:増田隆幸
|画像:リリースより