電子機器製造大手「フォックスコン(Foxconn)」の創業者で、台湾で最も裕福な人物、テリー・ゴウ(Terry Gou)氏は、台湾がフェイスブック(Facebook)の仮想通貨プロジェクト「リブラ(Libra)」を歓迎することを望んでいる。
台湾というポジション
先日のあまり注目されなかったスピーチの中で、台湾総統戦の候補者でもあったゴウ氏は、他国の政府のようにリブラに懐疑的な姿勢を取るのではなく、リブラを受け入れることで台湾は国際的な金融ハブとしての地位を高めることができると述べた。
ゴウ氏はまた、リブラがローンチした場合には、台湾は中国人民銀行が開発しているデジタル通貨とリブラをつなぐことができると述べた。
「私は(フェイスブックのCEO、マーク・)ザッカーバーグ氏をよく知っている。将来、リブラを台湾に迎え入れることを望んでいる」とゴウ氏は10月3日(現地時間)、台湾の首都・台北で開かれた同国技術協会の年次総会で述べた。
「中国本土はリブラを受け入れず、独自のデジタル通貨を開発する決断をした」とゴウ氏。
「それによって台湾は、2つの異なるシステムが合流する場になるという素晴らしいチャンスを手にした」
そのためには、台湾の規制当局は分散型金融技術をより歓迎できる法的システムを確立する必要があるとゴウ氏は述べ、フィンテック・プロジェクトは、半導体事業と仮想通貨事業の双方に利益をもたらすと述べた。どちらもフォックスコンが力を入れている事業だ。
ゴウ氏はまた、自身の教育プロジェクトでもブロックチェーン・カリキュラムを導入すると発表した。
ビジネス界から政界へ
フォーブスによるとゴウ氏の純資産は67億ドル(約7200億円)、1976年にフォックスコン・テクノロジー・グループ(Foxconn Technology Group)を創業して以来、絶大な経済的、政治的影響力を獲得してきた。
時価総額330億ドル(約3兆5000億円)のフォックスコンは、消費者向け電子機器の世界最大規模のメーカーで、2018年の売上高は1730億ドル(約18兆5000億円)。スマートフォン、コンピューター、電子機器部品などをアップル、IBM、マイクロソフト、ソニー、デル、レノボなど、世界のさまざまな大手ITメーカー向けに製造している。
ゴウ氏は2019年6月、2020年の台湾総統選に出馬するためにフォックスコンの会長を辞任、だが9月に出馬を断念した。
ゴウ氏は出馬断念を発表した後、フォックスコンに復帰していない。だが同氏の発言には、ブロックチェーン技術の普及と教育を促進するために、より大きな役割を果たすという野心が隠されていた。
スピーチの中でゴウ氏は、台湾の次世代の政治・経済リーダー養成を目指す「テリー・ゴウ・インスティチュート(Terry Gou Institute:TGI)」向けに、リブラに関するテキストを発行し、台湾でのリブラ推進を図ると述べた。
「多くのベンチャーキャピタルと話をしてきた。彼らはより良い投資先を見つけ、台湾の若者のために仕事の機会を作り出したいと考えている」
フォックスコンと仮想通貨
フォックスコンは、同社サプライチェーンのメンバー向けのレンディング・プラットフォームを含め、複数の取り組みやクライアント・プロジェクトを通して、仮想通貨分野で積極的に活動している。
2017年3月には子会社「富金通(FnConn)」を通して、中国の有名なピアツーピア・レンディング・プラットフォーム「点融(Dianrong)」と提携。そのスピンオフ・プロジェクト「チェーンド・ファイナンス(Chained Finance)」は、銀行以外の貸し手がサプライチェーンの中で国際的に直接貸付を行うことを支援する。
そのプロトタイプの初期のデモ運用では、サプライチェーンのメンバーを対象に650万ドル(約7億円)の貸付を実現した。
フォックスコンの投資部門「HCMキャピタル(HCM Capital)」は元ファンドマネージャーでビリオネアのマイケル・ノボグラッツ(Mihcael Novogratz)氏が創業した仮想通貨ベンチャーキャピタル、ギャラクシー・デジタル(Galaxy Digital)」の2億5000万ドルの資金調達に参加している。
またHCMキャピタルは2018年5月、アイデンティティ・サービスのスタートアップ「ケンブリッジ・ブロックチェーン(Cambridge Blockchain)」の700万ドルのAラウンドの資金調達を主導。ペイパルは2019年4月、ケンブリッジ・ブロックチェーンへの出資を発表した。
フォックスコンはまた、ブロックチェーン携帯電話メーカー「シリン・ラボ(Sirin Lab)」による、ブロックチェーン・スマートフォン「フィニー(Finney)」の開発を支援するなど、他社のブロックチェーン・プロジェクトもサポートしてきた。仮想通貨フィニーは2018年12月、トークンセールを通じて2億2700万ドルを調達した。
フォックスコンがビットコイン分野に初めて投資したのは2017年10月のこと。ビットコイン送金アプリ「アブラ(Abra)」の1600万ドルのシリーズBの資金調達ラウンドを主導した。
台湾と仮想通貨
台湾におけるフォックスコンの影響力と、ゴウ氏のブロックチェーン支持の姿勢を反映してか、人口2380万人の台湾はブロックチェーンを発展させる政策を実行してきた。
台湾の金融監督当局「金融監督管理委員会(Financial Supervisory Commission:FSC)」は2018年、ビットコイン取引におけるアンチマネーロンダリング(AML)施策をさらに強化することで、仮想通貨への規制を強化した。
台湾最大の仮想通貨ウォレットおよび取引所「ビットエックス(BitoEx)」は台湾市場の80%を握っている。同社の主要事業は、5000を超えるコンビニのATM、または銀行ATMを通したビットコインの販売。2018年5月、ビットエックスはICO(Initial Coin Offering)の最初の5時間で1000万ドルを調達したと発表した。
2018年11月、台湾の金融当局は匿名の仮想通貨の購入の取り締まりを開始したため、ビットエックスは同社プラットフォームにおけるビットコイン購入に身分証明書の提示を義務付けた。
翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸
写真:Terry Gou image via Shutterstock.
原文:Foxconn Founder: Libra Can ‘Converge’ With China’s Digital Currency in Taiwan