アニメ映画ファンドのトークン化でアバランチを採用、都内のスタートアップがデジタル証券を発行へ

みずほ証券と共同で、アニメ映画の制作資金を調達するためのファンドを立ち上げる計画を進めている新興企業のクエストリーが、アバランチブロックチェーンを基盤にデジタル証券(セキュリティ・トークン)を発行する。

資産をブロックチェーンでトークン化する事業を展開しているクエストリー(東京・千代田区)は8月28日、アバランチ(Avalanche)の関連技術を開発する米Ava Labsとの提携を発表し、ファンドのトークン化事業の一部を明らかにした。

クエストリー(QUESTRY Co.)とみずほ証券は現在、アニメ映画の制作費をまかなうための「Talent of Talents」と名付けたファンドを組成する準備を進めているが、クエストリーはこのファンドとは別のファンドを年内に立ち上げる。

「クエストリー・グローバル・アニメ・STファンド(Questry Global Anime ST Fund)」と呼ぶファンドを、アバランチブロックチェーンを使ってトークン化し、デジタル証券(セキュリティ・トークン)として投資家に販売する。将来的には、法定通貨だけでなく、暗号資産(仮想通貨)による出資も可能にするという。

このファンドを通じて集めた資金を、「Talent of Talents」ファンドに投資する計画だ。

クエストリーは2022年9月に設立したスタートアップで、これまで約1.5億円の資金を国内の事業会社やエンジェル投資家などから調達してきた。最高経営責任者(CEO)は伊部 智信(いべ・とものぶ)氏で、ゴールドマン・サックスに10年以上勤務してきた金融マン。

国内のデジタル証券の発行額は倍増

デジタル証券は、ブロックチェーンを基盤とするセキュリティ・トークンと呼ばれるデジタルの有価証券のことで、一般の個人投資家がファンドやプロジェクトに投資しやすくする取り組み。野村証券や大和証券、SBIホールディングスなどの金融機関がデジタル証券(セキュリティ・トークン)市場の創生を進めてきた。

例えば、マンションや温泉旅館、商業ビルなどの不動産に投資する場合、多額の資金が必要となり、従来では、機関投資家や富裕層を中心にその投資機会が与えられてきた。デジタル証券を利用することで、多くの個人投資家から資金を調達することが可能となり、一人当たりの投資金額を小口化できるメリットがある。

国内では、主に不動産に紐づくデジタル証券が販売されており、2023年度に発行されたデジタル証券(セキュリティ・トークン)の総額は約980億円。野村ホールディングスの子会社で、デジタル証券の発行基盤を開発するブーストリー(Boostry)が4月にまとめたレポートによると、2024年度の発行額は1700億円に達する見込みだ。

クエストリーの今回の取り組みは、運用会社が自社のファンドを通じて別のファンドに投資する仕組みだが、アニメ制作を目的としたファンドをデジタル証券化する事例は、国内では初となる。

ブルームバーグが7月に報じた記事によると、みずほ証券はファンド「Talent of Talents」を通じて、15億円~25億円の資金を機関投資家などから調達する計画だ。一口5000万円や1億円を想定し、国内に加えて海外の投資家も視野に入れてファンドの設計を進めているという。また、アニメ映画1作品当たり8億円程度を投下し、複数作品の制作を支援する。

クエストリーが使うアバランチブロックチェーン

クエストリーが使うブロックチェーンのアバランチは、以前まで「サブネット(Subnet)」と呼ばれていた仕組みが特徴的だ。現在は「アバランチ L1(Avalanche L1)」と呼ばれ、複数のノードで構成されるネットワークの中で、独自のブロックチェーンを作ることができる。

チェーンをプライベート型またはパブリック型に設定することができ、ネットワークに参加できる者を制限したければ、プライベート型のアバランチ L1を作ることが可能だ。

ブロックチェーン上で稼働するアプリケーションの数ではイーサリアムが圧倒的に多い中、アバランチはイーサリアムとの相互運用性を備えた「イーサリアム・キラー」と呼ばれるチェーンの1つだ。EVM(イーサリアム仮想マシン)と呼ばれる機能が実装されており、イーサリアム上のアプリケーションをアバランチで稼働することができる。

クエストリーの今回の取り組みが実現すれば、アバランチ上でセキュリティトークンが国内で発行される初の事例となる。

|文:CoinDesk JAPAN編集部
|編集:佐藤茂
|画像:リリースより