トランプ氏の暗号資産プロジェクトの内部:200万ドルをハッキングされたDeFiプロジェクトとデート指南サイトの元運営者が関与

トランプ氏の新ビジネス「ワールド・リバティ・ファイナンシャル(World Liberty Financial)」のホワイトペーパーに記載されている4人のチームメンバーは、7月に200万ドルが流出したDough Financeで働いていた。また、そのうちの1人は「Date Hotter Girls LLC」を設立している。


トランプ氏とその息子たちは、数週間前から計画中の暗号資産プロジェクトをほのめかしていたが、詳細を公にしていない。

だが非公開ではあるが、トランプ氏周辺の人物たちは、ワールド・リバティ・フィナンシャルのホワイトペーパーをひそかに売り込んでいる。米CoinDeskはその抜粋版を入手した。

文書やそのレポート内容には、ワールド・リバティ・ファイナンシャルのチームメンバーとされている4人の人物が構築し、最近ハッキングされたブロックチェーンアプリ「Dough Finance」と驚くほど類似した借入・貸付サービスが記載されている。Dough Financeの他のメンバーには、トランプ氏の3人の息子(プロジェクトの「DeFiビジョナリー」として紹介されている18歳のバロン氏を含む)や、金融関係者、eコマースのインフルエンサーなどがいる。

この計画に詳しい人物によると、このプロジェクトには新しい暗号資産「WLFI(譲渡不可のガバナンストークン)」も含まれるという。譲渡制限によって、投機家がこの資産を取引することは難しいようだ。

ホワイトペーパーによると、ワールド・リバティ・フィナンシャルは「ブロックチェーンのパワーをわかりやすい方法で強調している」という。アプリはまだ本番化されていないが、GitHubから削除されたコードのレビューを見ると、少なくとも初期段階は、7月のハッキングで200万ドルを失ったDough Financeからダイレクトにコードを流用したように思える。アプリのその後のバージョンにも、そうした初期のコードが含まれているかどうかは未確認だ。また、Dough Financeのコードに脆弱性があったとしても、それが新しいプロジェクトのコードにもあるとは限らない。

2名の人物、それぞれワールド・リバティ・ファイナンシャルの業務責任者、データ・戦略リーダーとホワイトペーパーに記載されているザカリー・フォークマン(Zachary Folkman)氏とチェイス・ヘロ(Chase Herro)氏はDough Financeを構築したと、この計画に詳しい人物は述べている(ヘロ氏は以前、メッセージングアプリのプロフィールにDough FinanceのTelegramグループへのリンクを貼っていた。米CoinDeskはスクリーンショットを確認済み)。

スマートコントラクト担当のオクタヴィアン・ロジニタ(Octavian Lojnita)氏も、オンラインプロフィールによると以前、Dough Financeで仕事していた。フロントエンド開発者のボガ(Boga)氏は、Dough Financeのソースコードの作者(0xboga)として記載されている。

ワールド・リバティー・フィナンシャルは、フォークマン氏名義で登記されている。フォークマン氏はヘロ氏とともに、Subify(サビファイ)の共同創業している。Subifyは、有料コンテンツを提供するPatreonやOnlyFansの競合として、検閲がないことをアピールしているが、OnlyFanshaは特に成人向けコンテンツが多い。またフォークマン氏は以前、Date Hotter Girls LLCという会社を作り、女性を口説く方法についてのセミナー動画をYouTubeに投稿していた。

フォークマン氏、ヘロ氏、ワールド・リバティ・ファイナンシャル、そしてトランプ氏陣営にコメントを求めているが、返信はない。

トランプ氏のDeFi参入についての詳細は、まだほとんど明らかになっていない。トランプファミリーのメンバーは、ソーシャルメディア上で、まもなくとほのめかしていたが、名称以外はほとんどわかっていない。先月、初めて発表された際には「The DeFiant Ones」と呼ばれていた。

ブランド名を変更したワールド・リバティ・ファイナンシャルのホワイトペーパーによると、このプロジェクトには「クレジット・アカウント・システム」が含まれ、分散型の貸し借りが行われる。

同プロジェクトが発行するWLFIのようなガバナンストークンは、通常、所有者がプロジェクト運営に参加することを可能にする。このプロジェクトの場合、ホワイトペーパーによると、プラットフォームのユーザーは「新しいDeFレンディング市場の追加や新しいブロックチェーンの統合を提案し、投票できる」という。

また、ホワイトペーパーには、このプロダクトは「スマート・アカウント」または「ブローカレッジ(仲介業者)」としてWLFIにアクセスするための「使いやすいインターフェース」を備えていると記載されている。

過去、暗号資産ブローカレッジ・サービスを提供する取り組みは、微妙な結末を迎えている。ボイジャー・デジタル(Voyager Digital)は2022年に倒産し、顧客に多額の損失をもたらした。伝統的な金融サービス企業も暗号資産顧客にブローカレッジ・サービスを提供する動きを見せているが、これまでのところ、特にDeFiに深く関わることは控えている。

ワールド・リバティー・フィナンシャルを支えるチーム

プロジェクトの象徴するのは、ドナルド・トランプ氏で、「最高暗号資産擁護者(チーフ・クリプト・アドボケイト)」を名乗っている。息子のエリック・トランプ氏、ドナルド・トランプ・ジュニア氏もプロジェクトに関わっているようで、「Web3アンバサダー」を名乗っている。

トランプファミリー以外の人物も、プロジェクトのリーダーシップチームに含まれている。フォークマン氏、ヘロ氏、ロジニタ氏、ボーガ氏に加え、トランプ氏の長年の友人であり、著名な不動産開発業者のスティーブ・ウィトコフ(Steve Witkoff)氏が「機関投資家」として、その息子ザック・ウィトコフ(Zach Witkoff)氏が「情報担当」として、アレックス・ゴルビツキー(Alex Golubitsky)氏が「法律顧問」として名を連ねている。

ゴルビツキー氏とその法律パートナーであるガブリエル・シャピロ(Gabriel Shapiro)氏は、暗号資産ガバナンスのアドバイザリー企業であるMetaleX Proを経営している。同社は、ワールド・リバティ・ファイナンシャルが発行するWLFIの1.3%を受け取っていることを明らかにしている。

フォークマン氏とヘロ氏は、長年の友人でありビジネスパートナーでもある。2人はSubifyでの仕事に加えて、高額な入会費が必要なオンラインネットワーキングクラブを運営している。また、オンラインのeコマースコースも販売している。

(Dough Financeのユーザーインターフェース(左)と、現在は削除されたコードから取得したワールド・リバティ・ファイナンシャルのインターフェース)

ヘロ氏は、人気ポッドキャストにゲスト出演しており、YouTuberのローガン・ポール(Logan Paul)氏のポッドキャスト「Impaulsive」では、薬物関連の容疑で服役した過去や、「自力で成功したビジネスマン」としてリッチになった経緯を語っている。ポール氏は現在、失敗した「CryptoZoo」プロジェクトでラグプル(出口詐欺)を画策したとして集団訴訟で訴えられている。

裁判記録によると、ヘロ氏は「Clickbait(クリックベイト)」という名の34フィート(約10m)のクルーザーを所有している。

Open Corporatesのデータによると、フォークマン氏は別名ザック・バウアー(Zack Bauer)として、かつてロブ・ジャッジ(Rob Judge)氏という人物と女性を口説く方法を紹介する「Date Hotter Girls」を運営し、「マスタークラス」を担当していた。

2015年から、フォークマン氏とヘロ氏は暗号資産に関する情報や起業に関するアドバイスを提供するFacebookページおよびYouTubeチャンネルの「The Watchers」を開設した。チャンネルの登録者は2280人、最新の動画は4年前にアップロードされている。ヘロ氏は以前、「Pacer Capital」という暗号資産トレーディング企業を運営していたが、現在は存在していないようだ。

暗号資産の有権者を集める

この取り組みは、これまでも伝えているように、暗号資産に対するトランプ氏の大幅な方向転換を示している。同氏はかつて大統領在任中に暗号資産に対して懐疑的な見解を示し、ビットコイン(BTC)を「根拠が薄いもの」と批判していた。今、トランプ氏は米国を「世界の暗号資産の首都」にするという公約を掲げ、現状、企業献金の半分以上を占めている暗号資産業界にアピールしようとしている。

すでにトランプ氏は自身をモチーフにしたNFTを数回販売している。NFTには、購入者にトランプ氏とディナーに参加できる権利などを与えるものも含まれていた。ちょうど先日には、4回目のシリーズを販売したばかりだ。

暗号資産企業は今回の選挙戦に1億1900万ドルを投じ、石油産業に次ぐ多額の支出を行っている。企業献金トップ10には、コインベース(Coinbase)とリップル(Ripple)がランクイン、特にコインベースは第1位となっている。

暗号資産業界は、政治活動委員会のフェアシェイク(Fairshake)やその関連団体がターゲットを絞った資金提供を行い、予備選挙で26勝を収めたことで存在感を示している。

トランプ氏をはじめとする共和党は、不人気の規制当局に代わって暗号資産業界を育成し、起業家がSEC(米証券取引委員会)などからの訴訟や召喚状を恐れることなくサービスを立ち上げられるようにすると主張してきた。

民主党は、この問題について見解が分かれており、チャック・シューマー(Chuck Schumer)上院議員のような一部の著名議員は、ルールを明確にするための法案を約束しているが、暗号資産に対して依然として敵対的な議員もいる。民主党の米大統領候補カマラ・ハリス副大統領は、暗号資産や関連する問題について、公の場ではまだ何も発言していない。

|翻訳・編集:CoinDesk JAPAN編集部
|画像:Shutterstock
|原文:Inside the Trump Crypto Project Linked to a $2M DeFi Hack and Former Pick-Up Artist