プルーフ・オブ・ステーク(PoS)への移行は、過度な中央集権化の懸念を引き起こしている。分散化への取り組みを再確認することで、イーサリアム・ブロックチェーンは目標を実現できると、DFGの創業者兼CEOであるジェームズ・ウォー(James Wo)氏は以下のように述べている。
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米証券取引委員会(SEC)が6月にイーサリアムに対する告訴を取り下げた決定は、同プラットフォームが成熟し、金融界により広く受け入れられるようになる途上における画期的な出来事だった。
この件を知らない方のために説明すると、SECはイーサリアム(ETH)が未登録の証券として販売されていると考え、特定のルールやプロトコルに従わずに販売されているのではないかとの懸念を持った。対して、イーサリアムの支持者は、ネットワークは分散化されているため、投資契約や証券には当たらないと主張した。
SECは直接の法的措置を取らないことを決定したかもしれないが、今回、中央集権化に関するさらなる議論への扉が開かれた。
イーサリアムのアーキテクチャに関する技術的な話は、影響力がある組織の間でコントラクティング・パワーに関する重要な対話を促した。それらの議論は主に内部的なものだが、こうした懸念に対処することで、ネットワークのアップグレード目標を高め、真の分散化を支えることができる。
これは、ネットワークがトークンとインフラのより強力で、よりアクセスしやすく、より実用的なバージョンである「イーサリアム 2.0」の理想を具体化しようとしている場合には特に重要だ。すでに実現できていると言う者もあれば、その到来を明確に主張しつつ越えなければならないギャップを指摘する者もいる。
確かに、イーサリアム2.0はDeFi(分散型金融)とより広範なエコシステムを変革する大きな可能性を秘めているが、まだ道半ば。その可能性を最大限に引き出すには、重要な開発を成し遂げる必要がある。
バリデーターの中央集権化
2022年9月にプルーフ・オブ・ステーク(PoS)メカニズムに移行したことで、イーサリアムはバリデーターがイーサリアムをステーキングできるようにし、ステーキングが大きいほど検証のチャンスと報酬が増えるようになった。このアップグレードは、ネットワーク上でレンディングやトレーディングといったユースケース向けに無数の革新的な金融ツールが作成されるきっかけとなり、DeFiにおけるイーサリアムの重要な役割を明確に強調するものだ。
ただし、バリデーターの数よりもトークンの所有権を重視すると、権力が小規模なグループに集中する可能性があり、暗号資産の持つ、分散化の精神に反する。さらに、ステーキングには32イーサリアムが必要なため、大量のイーサリアムをステーキングしたバリデーターは、ネットワークのガバナンスと意思決定プロセスに不均衡な影響力を及ぼすことができる。
これにより、特定の参加者に有利なフィードバックループが生まれ、権力と富が少数の個人の手に蓄えれられる可能性がある。
3月には、ヴィタリック・ブテリン(Vitalik Buterin)氏が「怠惰なステーカー」、つまりソロステーキングではなくステーキングプールのみに従事する人々に対する懸念を表明し、中央集権化の問題がはらむ重要性が明示された。
本質的に、イーサリアムは金融サービスの設計、アクセス、および利用方法の変化を体現している。しかし、少数の組織に依存することで、リスクが生じ、イーサリアム2.0が実際にどの程度分散化されているかについて疑問が生じ続けている。
DeFiへのギアシフト
イーサリアムの中央集権化の傾向は、将来的に、規制当局との関係やネットワークの回復力の低下など、より深刻な問題を引き起こす可能性がある。最終的に、DeFiとブロックチェーンエコシステム全体におけるイーサリアムの将来は、可能な限り中央集権化を制限しながら、技術的進歩のバランスを取ることにかかっている。そして、それを実現可能にする方法は存在する。
適切に実装されれば、レインボーステーキングなどの概念により、イーサリアムの適応性がさらに強化され、中央集権化にも対抗できる。本質的に、レインボーステーキングにより、ユーザーは複数のプールと戦略に同時にイーサリアムをステーキングできるため、いわば「報酬の虹」が効果的に生成され、ステーカーは非競争的リスクを軽減し、より回復力のあるエコシステムを構築しながら報酬を受け取ることができる。
イーサリアムの検証プロセスは、「ヘビー」ステーキングと「ライト」ステーキングに分かれている。「ヘビー」ステーキングはファイナライズのための検証サービスに重点を置き、「ライト」ステーキングは取引の監視耐性に焦点を当てるものだ。
たとえば、LidoやRocketなどの流動性ステーキングプロトコルは、ヘビー・サービス・ステーキングを提供できるが、既存のステーカーはライト・サービス・オペレーターを実行することを選択できる。レインボーステーキングは、最終的にはより効率的で競争力のあるネットワークを実現すると同時に、流動性ステーキングプロバイダーの多様性を高めてくれる。ただし、実行するのは簡単ではなく、全体的なステーキング構造に混乱をもたらす可能性をはらむ。
レインボーステーキング以外にも、イーサリアムは、シャーディングなど、初期の2.0アップデートですでに導入されているネットワーク全体の進歩を活かすことができる。シャーディングはセキュリティ絡みの問題で精査の対象となっており、それがレイヤー2およびゼロ知識開発への移行を正当化しているが、だからといってこのテクノロジーを完全に放棄すべきだというわけではない。
ダンクシャーディング
レイヤー2専用の「ダンクシャーディング(danksharding)」などの開発のおかげで進化が見られた。ダンクシャーディングには、提案者とビルダーの分離(PBS)が含まれている。これは、イーサリアム・バリデーターが現在機能している方法(ブロックの提案とブロードキャストを完全に独自に行う)とは異なる。代わりに、PBSは同じ精神のもとでタスクを複数のバリデーター間に分割する。
究極的には、ダンクシャーディングはデータの可用性を実装するのに役立ち、バリデーターがBLOBデータを迅速かつ効率的に検証すると同時に、欠落しているデータを特定できるようにしてくれる。
ここでの目的は、レイヤー2での取引をユーザーにとって可能な限り安価にし、イーサリアムをスケールして、1秒あたり10万件を超える取引を検証できるようにすることだ。これにより、ユニスワップ(Uniswap)などの分散型アプリケーション(dApp) は、取引の承認時間を短縮し、大幅に低いコストで取引を処理できるようになる。
ただし、ダンクシャーディングの高度な技術インフラと実装では、より小さなロールアップが省略され、中央集権化が促進される可能性がある。したがって、この技術は現状では人気がなくなったものの、ハードウェアの削減やスケーラビリティの向上といった利点から、この技術自体を改善して次世代のイーサリアムに役立てられることがわかる。それは、おそらく「イーサリアム3.0」となるだろう。
イーサリアム2.0の規制および分散化の分野における大きな進歩は無視できないものだ。ネットワークの運用や法的に勝ち抜くために、ネットワークが少数のアクターに依存することを減らすのは、すべて前向きな一歩となる。しかし、ネットワークとしてのイーサリアムの次の段階には、進化してゆく法的要件に適応し、DeFi および主流のブロックチェーンの使用の両面で変革をもたらす力として、確固たる地位を打ち立てることが含まれる。
こうしたハードルがあるにせよ、イーサリアム2.0の現在の成果は、エコシステムを正しい方向に導いている。未来に焦点を当て、分散化への取り組みを再確認することで、イーサリアムはブロックチェーン分野でイノベーターとして主導的な役割を担い続ける力を持っている。
身辺を整理することは、自らのレガシーを固める、ほんの一歩に過ぎない。
|翻訳・編集:T.Minamoto
|画像:Shutterstock
|原文:How Ethereum 2.0 Can Transform DeFi