DePIN、温室効果ガス排出ゼロに欠かせない

温室効果ガスのネットゼロ目標をできるだけ早期に達成するには、最終消費者をエネルギー市場に積極的にインテグレートする方法を見つけなければならない。そして、その答えはDePIN(分散型物理インフラネットワーク)だと、カイ・シーフェルト(Kai Siefert)氏は述べる。同氏は、ユーザー所有の分散型エネルギーネットワークであるコンバインダー(Combinder)の創業者兼CEOだ。

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エネルギーは生命に等しい。エネルギーは私たちの家を暖め、冷やし、照らしてくれる。食料や雑貨を運ぶトラックを動かしている。AI(人工知能)革命の原動力となるチップに燃料を供給する。エネルギーへのアクセスは人権とみなすことができ、温室効果ガス排出ゼロの経済に移行しない限り、エネルギーが理由となって我々は酷い目に遭うだろう。

排出ゼロの経済の基盤は再生可能なエネルギー源であり、エネルギーの消費方法を変える必要がある。化石燃料ベースのエネルギーとは異なり、再生可能エネルギーは需要に応じてエネルギーを生産するのではなく、太陽が輝いたり、風が吹くときにエネルギーを生産する。したがって、ネットゼロ目標をできるだけ早期に達成するには、最終消費者をエネルギー市場に積極的にインテグレートする方法を見つけなければならない。

その実現のためにこれまで行われた試みは、ほとんど失敗に終わっている。大規模な公営電力会社は、デマンドレスポンス(需要応答)プログラムに参加する意思のある世帯に対して定額料金を支払っていた。こうしたプログラムでは、中央集権型の合図(多くの場合、ショートメッセージ)で促された場合、エネルギーを消費するデバイスの電源を切ることが基本的には求められていた。

しかし、これらの方法は、規模を拡大するにあたっては不正確でコストがかかり過ぎる。再生可能エネルギー特有の需要に合わせて設計されていないシステム(化石燃料に対応するために1世紀以上かけて構築されたシステム)で実装されているため、困難に直面する。

化石燃料システムは、地球規模に広がるサプライチェーンに存在する数百ものプレーヤー間での専門性の高い、2者間契約によって特徴づけられている。しかし、私たちが必要としているのは、地産地消のエネルギーを中心とした水平構造であり、数十億の生産者と積極的な消費者が多者間で共有するシステムだ。

コミュニティの力

その実現が可能なことは、歴史が証明している。電気を使う時代が到来した際に、電力網は都市部に限られていた。農村部には接続するためのインフラがなかった。人口が少なく、電力会社は採算が取れなかったからだ。そのため、世界中の多くのコミュニティでは、必要なインフラを自ら構築し、分散型の協同組合を組織した。新しいインフラの恩恵を直接享受するために、市民たちには、参加する動機があった。

化石燃料の使用が加速するにつれ、私たちはこれらの資源を自然が生み出すペースをはるかに超える速度で消費し、地殻に数百万年かけて蓄積された化石燃料をわずか1年で燃やしている。エネルギー業界はますます複雑化し、消費者はエネルギーの起源やその影響からますます切り離されるようになった。

将来、エネルギーシステムを安定させるには、物理的インフラよりも仮想的なインフラ、つまりすべての市場参加者間のリアルタイムの情報交換に依存するようになるだろう。だが、そのためのインフラはまだ実現していない。

気候災害の瀬戸際に立たされている今こそ、コミュニティの力を再び発揮する時だ。大手エネルギー会社や議論ばかりの政府に期待しても意味がない。このストーリーでは、一般の人々が主人公だ。そしてグッドニュースは、今日、「人々の力」に基づくアプローチと、大手エネルギー会社が夢見るような国境を越えた規模を結びつけるテクノロジーが存在していることだ。

DePINは救世主

このソリューションは、DePIN(Decentralized Physical Infrastructure Network)と呼ばれる。DePIN は「トークンを使用して、物理インフラネットワーク(モビリティ、電気自動車の充電、通信など)をゼロから構築するようコミュニティを動機づける分散型アプリケーション」だ。

DePINは、現代のエネルギー状況の複雑さに対処することにきわめて適している。

従来のシステムとは異なり、DePINは集中管理的な制約に左右されない。ブロックチェーンベースのフレームワークで運用され、、暗号資産(仮想通貨)によって参加を奨励する。ソーラーパネルを備えた住宅所有者、バッテリーを持つ中小企業など、すべての貢献者がエネルギー市場に参加し、その貢献に対して報酬を得ることができる。

こうした分散型アプローチは、需要と供給をリアルタイムでバランスさせることができる、より回復力があり、柔軟なエネルギーシステムを実現する。ここで重要な要素は、接続デバイス(スマート冷蔵庫、スマートエアコンなど、家庭内のあらゆるスマートデバイス)と、ネットワーク参加者全員の匿名化されたデータだ。

電力網が厳しい状況にあるとき、各家庭は自動的に電力使用量を調整することで電力網全体の回復力をより高め、トラストレスなスマートコントラクトを通じてトークン報酬を手にすることができる。

さらにDePINは、ピアツーピア(P2P)のエネルギー取引を可能にする。ある参加者が発電した余剰エネルギーを、従来の電力会社を介さずに、直接、別の参加者に販売できる。エネルギーの無駄を削減できるのみならず、エネルギーへのアクセスが民主化され、個人がエネルギー使用をコントロールして、電力網全体の安定性に貢献できるようになる。

分散型ワイヤレスネットワーク構築におけるHelium Network(ヘリウム・ネットワーク)の成功と、環境モニタリングにおけるSilencio Network(サイレンシオ・ネットワーク)の成功は、エネルギー分野を超えたDePINの可能性を示している。これらのネットワークは、ユーザーにネットワークインフラへの貢献を動機づけることで急速に拡大し、分散型モデルが大規模に機能することを証明している。

エネルギー分野では、同様の原則を適用して分散型エネルギー電力網を構築できる。Combinder.ioなどのネットワークは、シームレスでトークン化されたエコシステムで消費者と生産者をつなぐエネルギーDePINの代表的な例だ。このネットワークでは、スマートメーター、ソーラーパネル、バッテリーなどの既存の家庭用機器を活用して、ユーザーはデマンドレスポンス・プログラムやピアツーピア取引に参加でき、新しい収益源を手にし、より持続可能なエネルギーシステムに貢献できる。

DePINを活用しないリスクは大きい

DePINをエネルギー分野で採用しないことの影響は深刻だ。分散型アプローチがなければ、エネルギー転換は、非効率的な資源配分から、再生可能エネルギー源を完全に統合できないことまで、大きなハードルに直面する。化石燃料への依存が続き、気候変動危機がさらに悪化する可能性がある。

持続可能でゼロエミッションな未来への道は明確だ。私たちはエネルギーシステムを変革し、個人やコミュニティに積極的な役割を持たせて、エネルギー転換を加速させる必要がある。

このアプローチは、地球環境に大きな利益をもたらすだけでなく、莫大な経済的機会も創出する。エネルギーの効率的な交換を可能にする分散型ネットワークは、数十億ドルの価値を生み出す。また家庭や企業が再生可能エネルギーや省エネ技術に投資する強い動機となり、経済的な恩恵を社会全体に公平に分配する。

エネルギーは現代社会の生命線だ。そして、その管理方法が未来を左右する。DePINは未来に向かう、最も有望な道を提供し、ネットゼロ目標を達成するとともに、すべての人のために、公平で回復力の高いエネルギーシステムを構築する。今こそ、エネルギーを取り戻すときだ。

|翻訳:T.Minamoto
|編集:CoinDesk JAPAN編集部
|画像:Shutterstock
|原文:We Need DePIN to Get to Net-Zero Emissions