ビットコインの発行量は1800万を超え、上限となる2100万ビットコインまで残り15%を切った。
「パイは小さくなっている。このマイルストーンは、我々は(ビットコインマイニング)プロセスのどこにいるかについての認識を高めるための簡単な算数を提供してくれる」とビットコイン報酬プラットフォーム、ロリー(Lolli)のCEO、アレックス・アデルマン(Alex Adelman)氏は述べた。
「ビットコインの進展を見て、これまでに行われてきたこと、次の300万ビットコインのために行われることすべてを見通すことは良いこと。次の300万に注意を払う必要がある」
だが心配はいらない。まだ120年ある。
次の300万ビットコインのマイニングは次第に、より遅くなっていく。21万ブロック(概ね4年)ごとに起こり、新しいビットコインの供給を50%削減するブロック報酬の半減のためだ。最後のビットコインは2140年にマイニングされると想定されている。
だが、本当にそうだろうか?
デジタルゴールドとして捉えられているビットコインの価値を考慮すると、そんなことを考えることすら冒とく的に思える。だが、外部の人間は、2100万枚の発行上限を再検討する日が来ることを予想している。
最終的にマイニングできるビットコインがなくなったら、マイナーはユーザーがブロックチェーンでコインを移動させるために支払うトランザクションフィーのみに依存することになる。この変化はビットコインのマイニング報酬をビットコインのインセンティブシステムにとって不可欠な要素と捉えている一部の人にとっては懸念のもととなる。
懐疑的な人たちにとっては、これは承認されたトランザクションを台帳に記録する動機をマイナーに与える構造を弱体化することになりかねない。
「インセンティブ、リスク、価値についてのすべての前提がなくなってしまう」とユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのブロックチェーンテクノロジーセンターでリサーチフォローを務めるアンジェラ・ウォルチ(Angela Walch)氏は語った。
「現実を直視し、ブロック報酬ではなく、純粋にトランザクションフィーのみのシステムにすべてが移行したとしても、すべてが変わらず機能すると想定するのはやめよう」
現在、マイナーは1ブロックごとに報酬として新たに作られた12.5ビットコイン(BTC)、約9万9370ドル(約1080万円)相当に加えて通常は1BTC以上に満たないトランザクションフィーを受け取る。
同様に監査法人アーンスト・アンド・ヤング(EY)のグローバルイノベーションリーダー、ポール・ブローディ(Paul Brody)氏もビットコインの供給が制限されることは、グローバルな準備通貨としてのビットコインの有用性を制限することになると述べた。
アメリカを経済的混乱から救い出すために金融政策による介入が必要であった大恐慌などの状況をあげながら、ブローディ氏は次のように述べた。
「ビットコインが国際金融システムの実質的な一部分になるなら、(決められた発行上限の問題に)取り組む必要がある。なぜなら、多くの経済学者はデフレシステムは必ずしもベストなものとは限らないという点で意見が一致している」
次にすべきことは?
ウォルチ氏もブローディ氏も、ビットコインの2100万の発行上限はある日、変更される可能性があると示唆した。もしそうなったら?
「我々は、2100万の発行上限は野心的なものであることを認める必要がある」とウォルチ氏は述べた。
「もし人々が何らかの理由で(発行)上限を変更しようと決断し、十分な数の人々がそう決めたら、システムはその方向に動いていく。野心であり、現実ではない」
発行上限の変更は技術的には可能だが、ゴールドのようなビットコインの特性に希望を抱いているユーザーには、ほぼ間違いなく意味のないことだ。実際、ビットコインのコードは長らく、その生みの親であるサトシ・ナカモトが生み出したオリジナルの特徴を維持し続けることに固執するコミュニティーによって運営されてきた。
世界第2位の仮想通貨イーサリアムと異なり、ビットコイン・ブロックチェーンは、コアコードの特徴を変えるような後方互換性のない、全システムにおよぶアップグレードをほとんど経験したことはない。
過去のわずかなケースでは、ビットコイン・コミュニティーは激しいガバナンス論争を経験した──ビットコイン・ブロックサイズの拡大の可能性を中心とした2017年の有名なスケーリング論争などだ。この哲学的な亀裂は最終的に2017年8月のビットコインキャッシュの誕生につながった。
それでも、ビットコインの2100万の発行上限を変更することになるハードフォークは、おそらく異端と捉えられるだろうが、あり得る。
「ビットコインが2100万という発行上限に留まらなければならないということは決まったことではない」とEYのブローディ氏は述べた(ちなみに同氏は競合のイーサリアム・ブロックチェーン上で企業向けアプリケーションを構築中だ)。
「ビットコインには、コミュニティーが同意すれば、変更を許可するというガバナンス・メカニズムが存在する」
もう1つの側面
そうだとしても、ビットコイン支持者で作家のアンドレアス・アントノプロス(Andereas Antonopoulos)氏は、ビットコインの発行上限をめぐるガバナンス・ドラマは、眠れなくなるほどのものではないと強調した。なぜならビットコインが純粋にトランザクションフィーモデルに移行するには120年もかかるから。
アントノプロス氏は、2009年のビットコインのローンチ以来、マイニングは常に「わずかな利益の追求」であり、変わらないことを意図したことは決してないと付け加えた。
「マイニング報酬は、ネットワークに基づいて動的に調整される。(中略)非常に複雑な経済環境。人々が思うほどシンプルなものではない」とアントノプロス氏は語った。
「マイナーの収益性を(現時点で)決定する変数は、電力、帯域幅トランザクションへのアクセス、ブロック報酬、その時点でのトランザクションフィー、ビットコイン価格、現地通貨との交換レート、マイニング装置の種類、電力あたりのマイニング効率など、数々存在する」
そのため、ブロック報酬から純粋なトランザクションベースのブロック報酬への移行をめぐる懸念は著しく誇張されているとアントノプロス氏は述べた。
「ブロック報酬がゼロになっても、魔法のようなことは起こらない」とアントノプロス氏は述べた。
「120年という期間で起こる、非常に緩やかな、想定できる範囲で起こる変化。すでに起こっており、(マイナーは)毎日、決断を下している」
1800万枚目のビットコインは発行上限に関する進行中の現実を思い起こさせてくれるベストなものではないかもしれないが、ビットコインにとってマイルストーンであることは間違いない。
次のビットコイン半減期をビットコインの歴史の中ではるかに注目すべきイベントと見るベンチャーキャピタリストのウィリアム・モウガヤー(William Mougayar)氏は次のように述べた。
「私の意見では、(1800万枚の)マイルストーンは2020年5月に起こる次の半減期と比べるとそれほど重要ではない。(中略)その日、ブロック(報酬)は12.5ビットコインから6.25ビットコインになる」
翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸
写真:Andreas Antonopoulos image via Christine Kim for CoinDesk
原文:With 18 Million Bitcoins Mined, How Hard Is That 21 Million Limit?