顧客データが民主化される時代、企業CRMは大きく変わる ~ブロックチェーンを活用した大規模企業連携の手法とは~<br>【web3 Jam ✕ N.Avenue club共同企画ワークショップレポート】

EU域内ではGDPR(一般データ保護規制)が、日本では改正個人情報保護法が施行されるなど、個人情報への取り扱いや規制が世界中で強化される中、Cookieをブロックする動きも進むなど、個々のユーザーに、使用できるデータ範囲の決定を委ねる動きが今、進みつつある。

こうした中で、企業活動の課題を解決するカギになり得るのが、相互運用性を特徴とするブロックチェーンだ。ブロックチェーンをベースにしたWeb3の世界では、ユーザー自身が情報を管理するようになり、企業はそのデータを使うためにユーザーに許諾を求めるようになる。

これから、企業がユーザー接点を維持しつつ、これまで以上に有用なターゲティングを実行していくためには、トークンや横断的なプラットフォームの活用が欠かせなくなっていくだろう。そのプラットフォームこそがブロックチェーンであり、今後「大規模なCRM」として機能していくものと見込まれる。

N.Avenue club」は9月11日、ブロックチェーンを活用した企業間連携プロジェクト「web3 Jam」との共同企画ワークショップを実施した。web3 JamはNTT Digitalが24年5月に立ち上げたプロジェクトで、社会課題の企業間連携による解決をめざしている。

ワークショップには、NTT Digitalとともに運営事務局を務める博報堂キースリー、さらにはweb3 Jamに賛同して参画している東急、アサヒ飲料の担当者も登壇。それぞれなぜweb3 Jamに参画したのかという理由や、これまでのWeb3に関する取り組み、今後の展望などについて語った。

スピーチの後には、出席者らがいくつかのテーブルに分かれてディスカッション。具体的な企業CRMのあり方や、Web3を導入することによるメリット、どのような形で社会課題が解決できるかについて、構想を出し合った。

N.Avenue clubのイベントは会員限定のクローズ開催のため、ここでは当日のプレゼンテーションや議論の様子について、概要を紹介する。

顧客データが民主化される時代、企業CRMは大きく変わる~ブロックチェーンを活用した大規模企業連携の手法とは~

最初に、web3 Jamを立ち上げたNTT DigitalのSales & Marketing Senior Manager、伊藤篤志氏が登壇、プロジェクトの概要や狙いなどについて解説した。

(NTT Digitalの伊藤篤志氏)

伊藤氏は、企業経営においては利益創出だけでなく「経済的な価値」と「社会的価値」の両輪求められるが、それぞれの企業が1社ずつ立ち向かうのは難しいのではないかと指摘。そして、企業やグループ、経済圏の中でシステムの”サイロ化”が進んでおり、これが企業間連携を実現する際の課題になっているとした上で、「ブロックチェーンを巨大CRMに見立てて活用することで、サイロ化を解消する。そうすることで、異なる企業間での相互送客・連携も可能になるのではないか」などと主張した。

5月22日にプレスリリースされ、14社の賛同で始まったweb3 Jamは現在、20社に拡大。参画する企業には、主に3つのメリットがあるといい、それは①Web3マーケティングをライトにトライアルできること、②類似した課題・テーマを抱えた企業とのコラボができること、③先進技術/CSRなどによるソーシャルブランディングが可能なこと、だ。

web3 Jamに参画した企業は、NFT保有状況に応じてターゲティング・特典配布ができる。配布したNFTを活用してマーケティングなどの施策を行い、その効果を測定できるのだ。これによって、D2C視点が構築できるほか、顧客行動・嗜好を多面的に把握できる。また潜在顧客層にリーチするなど、「Web2では実現することが難しかったことがライトにできるようになる」ことが期待されている。

まずプロジェクトが取り組む社会課題として「健康」が取り上げられるといい、25年1月にはキャンペーンが行われる予定とのこと。Web3に強い関心がある層以外からも広くユーザーを獲得するため、Web3であること、NFTやウォレットを活用していることを感じさせないUXを目指すという。

伊藤氏に続いて、web3 Jamのプロジェクト運営に関わる博報堂キースリーの代表取締役社長、重松俊範氏が登壇。なぜ広告会社がWeb3のプロジェクトに取り組んでいるのかなどについて話した。

(博報堂キースリーの重松俊範氏)

重松氏は、個人情報の規制強化や顧客獲得単価の高騰など、業界がさまざまな課題を抱える中で、ブロックチェーンの活用による新しい広告モデルを構築することが、企業のマーケティングに新しい価値をもたらすなどと指摘。「ユーザーの行動を、オンラインだけでなくオンチェーンでも追えるようになる。そこにWeb2の情報を足し合わせれば、マーケティング・ターゲティングがしやすくなる」などと強調した。

東急・アサヒ飲料はなぜweb3 Jamに参画したのか

次に登壇したのが、web3 Jamに参画している東急の天野真輔氏(フューチャー・デザイン・ラボ)だ。天野氏は、同社が昨年11月から取り組んでいる「SHIBUYA Q DAO」というプロジェクトについて説明した。これはハードの開発に取り組んできた東急が、ソフト、コミュニティと渋谷のリアルなアセットを組み合わせ、新しい価値をつくろうという取り組みで、その手段としてWeb3・ブロックチェーン、DAOを活用している。

(東急の天野真輔氏)

プロジェクト参加のハードルを下げるために、暗号資産やウォレットをスマホなどにインストールしなくてもいい設計にした一方で、参加者の募集においては「NFT」という言葉を使っているといい、天野氏は、「最初に募集した100人のうち7~8割はWeb3関心層なので、最初はそういう人たちに賛同してもらうためにも、NFTという言葉を(敢えて)使った」などと明かした。

最後に登壇したのが、アサヒ飲料未来創造本部の鈴木学氏。飲料メーカーである同社がWeb3に取り組むのは、既存ビジネスが鈍化し、新規領域の創出が急務である中で、同社が重視している「CSV」(Creating Shared Value)のコンセプトをもって新たな事業領域を立ち上げたいという狙いがあるからだという。

(アサヒ飲料の鈴木学氏)

鈴木氏によれば、同社には、社会課題解決を共創を通じて実現させたいという考えがあるといい、この点においてweb3 Jamの考え方に合致しているのだという。同社は、web3 Jamが掲げる課題の1つである「健康を『遊びながら』手に入れる。」に取り組むといい、今後、PETボトルなどの容器に依存しない飲料ビジネスのPoCを行う予定だ。

Q&Aタイムでは、同社がさまざまなブランド(三ツ矢サイダー、カルピス、十六茶など)を持っていることから、「ブロックチェーンが製造過程のコストダウンなどにも活用できるのではないか」といった指摘もあった。

ディスカッションではユニークなプランが提案

オープンディスカッションのパートでは、参加者は、web3 Jamが掲げている3つの社会課題(地域、健康、推し活)のうち自身が関心があるものを選んでテーブルを選び、同じ関心を持つ別の参加者と議論を交わした。

ディスカッション後には、各テーブルで話し合ったことを発表。たとえば、各企業のポイントシステムをブロックチェーンでつなぎ、属性を持たせたポイントを掛け合わせることで、新たなIP(レアカード)が生み出せるというプランや、富裕層に特別な体験ができるパッケージを地方で提供するプラン、さらには、地元の魅力が自ら見つけられない地域のための魅力発掘DAOの創設などが提案された。

今回、web3 Jamと共同でワークショップを開催した「N.Avenue club」は、毎月、ラウンドテーブルをクローズドな環境で行なっている。そこでは、先駆的な取り組みをしている企業がその背景や狙いを紹介し、Web3に携わる会員企業の参加者らがディープな議論を交わしている。事務局は、Web3ビジネスに携わっている、または関心のある企業関係者、ビジネスパーソンに参加を呼び掛けている。

|文:瑞澤 圭
|編集:CoinDesk JAPAN編集部
|写真:多田圭佑