SECに勝訴、ステーブルコインやEVM互換サイドチェーンを発表……活発な動きの狙いは【リップルプレジデント・インタビュー】

2020年冬に始まったSEC(米証券取引委員会)との裁判は8月に幕を閉じた。裁判所は1.25億ドルの罰金の支払いを命じたが、SECが求めていた20億ドルから見ればわずか。事実上、リップルの勝訴と言える。SECが上訴する可能性はあるが、その数日後にリップルはステーブルコイン「リップルUSD(RLUSD)」をテスト中と発表、さらに9月はじめにはXRP Ledger(XRPL)にイーサリアム互換スマートコントラクトを追加すると発表した。

積極的な動きを見せるリップル。同社プレジデント、モニカ・ラング(Monica Long)氏に聞いた。

XRP Ledgerの優位性はどこにあるのか

──リップル(Ripple)は、SECとの長期にわたる法廷闘争に勝利した。この勝利は、ビジネスにどのような影響を与えたか。

SECとの裁判は解決した。裁判所は、エックス・アール・ピー(XRP)は証券ではないとの判決を下した。この勝利は暗号資産(仮想通貨)業界全体にとって重要で、米国における法のルールを明確にし、前例となった。

SECとの裁判以前から、当社の成長の大部分は米国外で成し遂げられている。実際、当社の活動の40%はアジアであり、決済サービスの顧客獲得もアジア太平洋地域が中心となっている。判決後も米国外でより速いペースで成長を続けているが、判決により米国市場でも当社の製品やサービスをよりスムーズに利用できるようになった。

また当社は現在、決済サービスに加えて、カストディソリューションも提供しており、その成長に注力している。

──多くのブロックチェーンが日本に進出し、日本企業は選択に迷っています。レイヤー1間の競争をどう捉えているか。そのなかで、XRP Ledgerの優位性は。

XRP Ledger(XRPL)は、エンタープライズグレードのブロックチェーンで、2012年から稼働している。これまでに9000万以上の取引を処理しており、その間、一貫して高いレベルのセキュリティと安定性を維持してきた。

特に金融でのユースケースに非常に有用で、プロトコルには非常に安全な方法で設計された機能が組み込まれている。例えば、自動マーケットメーカー(AMM)、分散型取引所(DEX)、顧客確認(KYC)などのコンプライアンスに役立つ機能などだ。

日本では、リップルはSBIグループと長期にわたって協力し、SBIはXRPLを使った企業ユースケースを数多く実装している。直近の大きな事例としては、2025年大阪・関西万博の「EXPO2025デジタルウォレットNFT(愛称:ミャクーン!)」に採用され、ミャクーン!NFTはXRPL上で発行される。

また、最近のもう1つの例としては、コンサルティング会社のHashKey DXが、SBI Ripple Asiaおよび当社と提携して、XRPLを活用した法人向けソリューション、特にサプライチェーンファイナンスのユースケースに取り組んでいる。

もちろん、グローバルではさまざまなパートナーとも協力して、XRPL上で金融機関向けソリューションを実現している。8月には、トークン化プラットフォーム「OpenEden」が、XRPLで米国債1000万ドル(約14億円、1ドル141円換算)をトークン化することを発表した。メタバース企業のFutureverseはXRPLのNFT規格を採用し、ガストークンとしてXRPを採用していたが、9月に新たに当社のカストディソリューションの採用を発表した。

日本市場をどう捉えているか

──XRPは「XRP アーミー」と呼ばれるファンの存在が知られ、日本でも根強い人気がある。リップルにとって、日本市場の位置づけは。

日本では、XRPL開発者コミュニティの拡大に注力している。6月には、日本と韓国のデベロッパーを支援する助成金制度として「XRPL Japan and Korea Fund(XRPL 日本・韓国ファンド)」を創設した。助成金には、すでに多くの関心が寄せられ、すでにいくつかの助成金を授与できている。

例えば、韓国のWeb3スタートアップ「Girin Labs」は、XRPLに特化したウォレット「Girin Wallet」とDeFiサービス向けのLotusプロトコルの開発に取り組んでいる。日本では暗号屋が手がけるVWBL(ビュアブル)が助成金を獲得している。VWBLは、NFTの所有者のみがデータをコンテンツを視聴できるプロトコルで、彼らは医療記録への活用を進めている。

前述したように、法人ソリューションの開拓において日本市場は重要だ。SBIグループのSBIレミットは2017年から、XRPを活用する当社の決済ソリューションを用いた国際送金サービスを展開している。XRPをブリッジ通貨として使うことで、スピーディかつ低コストな送金を実現している。

日本での開発者コミュニティの拡大を、我々は非常に楽観視している。前述したファンドがあり、SBIとの提携を通じて、我々は日本市場におけるポジションを拡大できると捉えている。

またリップルは2018年に大学でのブロックチェーン・暗号資産の研究を支援する「ユニバーシティ・ブロックチェーン・リサーチ・イニシアチブ(University Blockchain Research Initiative)」を立ち上げ、日本では東京大学や京都大学などでの研究を支援している。

ステーブルコインとXRPの役割は

──最近、ステーブルコイン「リップルUSD(RLUSD)」の発行を発表した。リップルがステーブルコインを発行することはインパクトが大きい。ステーブルコインの用途は何を想定しているか。

RLUSDの主なユースケースのひとつは、決済であり、我々は独自の決済ソリューションに、当社のステーブルコインを使用する計画を立てている。現状、決済におけるテザー(USDT)やUSDコイン(USDC)といったステーブルコインの利用は進み、ステーブルコインを使って、決済の効率化が進められている。我々は、リップルUSDを決済用ステーブルコインのひとつとして確立する。

さらに、XRPL上では、高品質な分散型取引所(DEX)が構築され、高品質なステーブルコインが不可欠になる。現在、XRPLを利用している開発者は、トランザクションにリップルUSDが利用可能になることでさまざまなメリットを享受できるようになるはずだ。

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──決済ソリューションにおけるXRPのシェアを奪うことになるのでは。

当社の決済サービスでは、流動性を確保するためにすでにXRPとステーブルコインの両方を使用している。これはサービスの裏側で行われているため、顧客は当社がそうした流動性メカニズムを処理していることを知る必要はなく、選択する必要もない。今後、そのステーブルコインにリップルUSDを活用していくことになる。

ステーブルコインとXRPは、決済や他の取引において異なるユースケースを持つと考えている。例えば、XRPL上のDEXでは、リップルUSDがきわめて効率的に取引に利用されるだろう。一方、ロングテールの、時価総額の小さな暗号資産との取引では引き続き、XRPが使われていくと考えている。

リップルUSDという高品質なステーブルコインは、XRPL、そしてXRPに多くのアクティビティを呼び込むことになるだろう。

──準備金からの利回り収益も期待しているのか。

リップルUSDは、準備金口座で保有する米ドル、短期米国債、その他の現金同等物で裏付けられる。 それらの保有状況については、透明性を確保し、定期的に証明書を発行する。 つまり、リップルUSDには常に米ドルによる裏付けがあり、流動性が確保されていることが非常に重要になる。もちろん準備金として保有する米ドルには、利息が発生する。

現在、金融機関のパートナーとテストを行い、パートナーシップの構築に取り組んでいるところだ。

──リップルUSDは、個人ユーザーの利用は想定していないのか。

リップルUSDの顧客は金融機関、機関投資家などになる。だが例えば、暗号資産取引所は個人投資家への流通チャネルのようなものであり、取引所を経て、個人が利用することは考えられる。しかし、我々にとって重要なことは、KYCが確立され、適切なコンプライアンスのもとで利用されることだ。

──日本で使えるようになるか。

各国の規制当局と連携し、適切なライセンスを取得することはリップルにとって重要であり、参入する市場すべてにおいてコンプライアンスを遵守している。

2024年はじめに、当社はカストディ企業のStandard Custody and Trust Company(スタンダード・カストディ)を買収した。同社はニューヨーク州の信託ライセンスを保有しており、現在、そのライセンスをリップルに移行し、リップルUSDの申請を行うための手続きを進めている。つまり、リップルUSDが最初に登場するのは、すでにライセンスを取得している米国以外の国あるいは地域ということになる。

日本については、金融庁がステーブルコインの法規制を明確にしたことを非常にありがたく思っている。我々はそうしたルールを研究し、ルールに従っている。最初の発行に続けて、日本のような新しい市場に適切に参入する方法を評価している。

コミュニティと連携してプログラマビリティを強化

(左から9月6日に東京で開催されたXRP Community Dayに参加したリップル社戦略イニシアチブ担当SVPのエリック・ヴァン・ミルテンバーグ氏、リップル社CEOのブラッド・ガーリングハウス氏、モニカ・ロング氏、撮影:CoinDesk JAPAN編集部)

──数日前には、XRPLへのイーサリアム互換スマートコントラクトを追加すると発表した。

プログラマビリティは開発者にとって非常に重要であり、別の言語でコードを書きたい開発者に対してXRPLでの開発をオープンにすることに取り組む。また特定の機能をカスタマイズできるようにすることも重要だ。

イーサリアム(Ethereum)ブロックチェーンのスマートコントラクトが広く使われていることはご存知のとおりだ。我々は、開発チームと協力して、メインネットへのブリッジを備えたEVM(イーサリアム仮想マシン)対応のサイドチェーンをXRPL上に構築した。つまり、EVM対応アプリケーションの開発者は、開発したアプリケーションをXRPLのサイドチェーンに展開することができる。

サイドチェーンではXRPがガス(取引手数料)トークンとして使われ、メインネットの機能を利用したい場合はメインネットに接続できる。

また、XRPLにネイティブな方法でプログラマビリティを導入する方法についても検討している。例えば、XRPLにスマートコントラクトを導入する「Hooks」には大きな可能性があると我々は考えているし、コミュニティもそう考えていると思う。

EVMサイドチェーンに加えて、XRPLメインネットにプログラマビリティを導入する適切なアプローチについて、コミュニティと連携して進めていきたいと考えている。開発者から最も要望が多いのが、プログラマビリティであり、積極的に推進していく。

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|インタビュー・文:増田隆幸
|写真:多田圭介