なぜビットメインは世界最大のマイニング施設をテキサスの片田舎に作ったのか?
  • 世界最大のビットコインマイニング・コンピューターメーカー「ビットメイン(Bitmain)」は、テキサス州の古いアルミニウム精錬工場を新しいビットコインマイニングの場に選んだ。
  • 北京を拠点とする同社は、マイニング施設の初期の能力は25メガワットだが、50メガワットに拡張する予定で、最終的に300メガワットまで拡張する可能性もあると述べた。
  • テキサス州は電力が豊富で、新しいマイニング施設が地元の電力料金に影響を与える可能性は低いと関係者は語った。

テキサス州のほとんど放置された精錬工場のコンクリートと鉄の建物の中で、ビジネススーツに身を包んだ中国人とカナダ人の幹部たちは、カウボーイハットやベースボールキャップをかぶった地元住民と交流した。

競技場3つ分の長さ

幹部たちはテキサス州中部の片田舎にある町、ロックデール(Rockdale)の郊外に集まった。北京に拠点を置く、仮想通貨マイニング専用コンピューターの世界最大のメーカー「ビットメイン(Bitmain)」が作った新しいビットコインマイニング施設のオープニングを祝うために。

ミラム郡の選挙で選ばれたスティーブ・ヤング(Steve Young)郡判事は、写真を撮るために膝をついた。アリゾナに住むビットメイン幹部のタオ・ウー(Tao Wu)氏は薄いボロータイを身につけ、数千もの冷却ファンの作動音に負けないように大声を出して、見学ツアーに参加した好奇心旺盛な地元住民やジャーナリストを案内していた。

「雇用が生まれる。収益が上がる」とロックデールのジョン・キング(John King)市長はテープカットの際に周囲に語った。

「将来、素晴らしいことが待っている」

ツアーに参加した多くの地元住民は、ビットコインマイニングの仕組みについてほとんど知らず、そもそもビットコインが何なのかもほとんど知らなかった。

「どうやってお金にするの?」とツアーに参加した女性は尋ねた。

「なにもない」

綿から原油まで、豊富な一次産品で古くから知られるテキサス州は、わずか10年前に発明されたビットコインを求める新たな種類の投機家を引きつけている。

ビットメインの統合ソリューションディレクター、タオ・ウー氏。
フットボール競技場3つ分の長さに及ぶビットコインマイニング・コンピューターを案内する、ビットメインの統合ソリューションディレクター、タオ・ウー氏。

安価な電力と豊富なスペースを誇るテキサス州での事業は、特に2019年にビットコインがそれまでの2倍以上の約8200ドルまで値上がりした後には、魅力的な機会になっているとビットメインは述べた。

棚上げから一転

2018年、同社はビットコインマイニングのために大手アルミニウムメーカー、アルコアの工場内にコンピューターを設置する契約をテキサス州当局と結んだ。

数千台のマシンは1日24時間稼働し、ビットコインをマイニングするために1秒間に数兆の数字をインターネットを通じて送信している。マシン群の1つのユニットの高さと幅は鉄道の貨車と同じくらいだが、長さはフットボール競技場3つ分ほどに広がっている。

ビットメインは新施設の建設にかかった費用やマイニングされるビットコインの数を明らかにすることは拒否した。だが、施設は初期段階には平均的なアメリカ家庭の2万戸分に相当する25メガワットの電力を消費すると明かした。同社は施設を50メガワットに拡張し、最終的には世界最大のビットコインマイニング施設となる300メガワットにまで拡張する計画と述べた。

このテクノロジーに詳しい仮想通貨業界の関係者は、50メガワットのビットコインマイニング施設の構築には、8000万ドル〜1億ドル(約87億円〜108億円)かかるだろうと述べた。ビットメインのマイニング・コンピューター「アントマイナーS17プロ(Antminer S17 Pro)」のスペックと、ウェブサイト「クリプトコンペア(CruptoCompare)」のマイニング収益性計算機をもとにすると、ロックデールの施設は現在の価格で、1年間に約7300万ドル(約79億円)の収益を生み出す。マイニング施設の唯一の主な動力源は電力であり、政府のデータによると、テキサスはアメリカの州の中で4番目に安い産業事業者向け電力料金を提供している。

プロジェクトは2018年に始まったが、ビットコイン価格が2018年の高値から約75%下落した後、2019年はじめに棚上げとなった。だが価格が回復したことを受けて、ビットメインは施設の稼働開始を急いだ。

「価格が回復したため、我々は取り組みを急いだ」と元建築業者で、現在はビットメインのプロジェクトマネジャーを務める54歳のクリント・ブラウン(Clint Brown)氏は述べた。

「『急げ、これを完成させなければ』という感じだった」

新しいビットメインのマイニング施設に関わった幹部たち。
新しいビットメインのマイニング施設に関わった幹部たち。ロックデール・カントリー・クラブでのバーベキューの後で。

この新しいテキサスの施設はビットメインにとって今までで最大のマイニングプロジェクトと同社マーケティング担当マネージングディレクターのビル・シュ(Bill Zhu)氏は、ロックデール・カントリー・クラブ(Rockdale Country Club)の近くの木陰で行われたインタビューで語った。同社の主力商品はアントマイナーシリーズ。新しいロックデールの施設は、アフリカ南部の軍隊アリを含む、アリ(アント)の属「Dorylus」にちなんで「ドリー・クリーク(Dory Creek)」と名付けられたと関係者は語った。

シュ氏は、ビットコイン市場が低迷した際には新施設はすぐに閉鎖されるのではないかという、一部の地元住民の懸念に返答した。この地域の人々は商品サイクルについて十分に承知している。

「北米では良いリソースを見つけることができるが、我々はテキサス州を選んだ。ここのリソースは長期的な投資に十分良いものと考えている」とシュ氏は述べ、次のように続けた。

「我々の投資はビットコイン価格にそれほど敏感ではない。来月、いくらになるかはそれほど気にしていない。3年後にいくらになるかは気にしている」

今回のプロジェクトは、2008年後半に巨大なアルコアの製錬工場が閉鎖され、1000以上の雇用が失われて大きな打撃を受けた、人口5595人のロックデールに騒ぎを巻き起こした。

10月18日(現地時間)朝、アルコアの元従業員たちは熊手やあぶみなどが壁に飾られた地元の食堂「リーズ・ランディング(Lee’s Landing)」にモーニングコーヒーと朝食のために集まった。トイレの壁には「男に魚を与えれば、1日食いつなぐことができる。男に釣りを教えれば、ボートに座って1日中飲んでいるだろう」と書かれていた。

懐疑的な地元住民

リーズに集まった元従業員の1人、73歳のロイス・ハドソン(Royce Hudson)氏は、1967年11月に海兵隊を除隊し、テキサス州中部に戻ってアルコアの精錬工場で仕事を得たと語った。そこで40年間働き、溶鉱炉オペレーターとなり、工場が閉鎖された2008年に退職した。

最近、ハドソン氏は地元コミュニティーの先行きを嘆いている。次世代が職を探すことがますます困難になり、多くの人はオースティン、ラウンドロック、テンプル、ブライアン・カレッジ・ステーションで働くために長距離通勤に耐えている。

ハドソン氏はビットメインが地元コミュニティーに投資していることは嬉しいと述べた。だが、事業内容についてはほとんど知らないと語った。

「人々は少し懐疑的。仕組みが本当には分かっていないから」とコーヒーのおかわりを断りながらハドソン氏は述べた。

「我々は技術的に十分進んでいないだけ」

工場の元同僚の1人は、新しい施設から何も出荷されないことが理解できないと述べた。古い精錬工場からはアルミニウムの塊が生み出されていた。

現実には、ビットコインマイニングは新しい種類の産業施設であり、大きな設備はまったく存在せず、関連する発電からの大量の排出物以外には、汚染はほとんど、あるいはまったくない。アウトプット──マイニングされたビットコイン──はコンピューター上に、ほぼ即座に届けられる。

ロイス・ハドソン氏(右)は、ビットメインの新しいプロジェクトに「懐疑的」と述べた。
ロイス・ハドソン氏(右)は、地元住民はビットコインが何なのか、どんな仕組みなのかをよく理解していないため、ビットメインの新しいプロジェクトに「懐疑的」と述べた。

ビットコインマイニング・プロジェクトが進出した、ワシントン州など他の州では、地元電力の需要が増えたため、毎月の電力料金が急騰したと地元住民は不満を述べている。

テキサス州は対照的に、新しいユーザーに対応できる、十分に大きな、アメリカ最大の電力市場を有している。エネルギー情報局(Energy Information Administration)によると、テキサス州の年間電力消費量は、2位のカリフォルニア州より50%以上多い。

地元の期待

テキサス州の電力料金は、発電機の燃料に使われる天然ガスが地元で豊富に得られること、そして「テキサス電力信頼性カウンシル(Electric Reliability Council of Texas)」と呼ばれる送電系統上で、テキサス州の送電ネットワークがアメリカの他の地域から比較的独立していることによって抑制されている。テキサス州内で作られる電力の大半はテキサス州で使われている。テキサス州のほとんどの市や町には競争の激しい電力市場があり、企業や家庭は有利な料金を探し求めることができることもマイナスにはなっていない。

大規模な電力の買い手がサプライヤーを見つけることを支援する、ヒューストンに拠点を置くエネルギーコンサルタント企業、CGPソリューションズ(CGP Solutions)の社長、グレッグ・ペンドレー(Greg Pendley)氏は、契約規模が5〜8メガワットの政府向け契約を手配することが多いと述べた。つまり、ビットメインの契約量は極めて大きい。

ペンドレー氏はさらに、このプロジェクトには他にもユニークな性質があると指摘した。「100%ロード」だ。社員が退社した後、夜に電力消費量が下がる工場や政府機関のオフィスとは異なり、ビットメインのコンピューターは常に稼働している。

「ビットコインを探し求めるこのような業界では、稼働し続けなければ、利益が生まれない」と工場ツアーに参加したペンドレー氏はインタビューで述べた。

人員数が優に数千を超える大型工場や自動車組み立て工場と比べると、新しい施設が雇用にもたらす効果は小さい。ビットメインは現在、ロックデールのマイニング施設を50人未満のスタッフで運営している。

「一旦稼働してしまえば、それほど多くの人員は必要ない」とビットメインと契約して新しい施設の管理を行うカナダ企業、DMGブロックチェーン・ソリューションズ(DMG Blockchain Solutions)の最高執行責任者、シェルダン・ベネット(Sheldon Bennett)氏は語った。

キング市長はインタビューで、ビットメインが郡政府から減税措置を勝ち取った後でも、このプロジェクトは同氏にとって非常に良いものに思えたと語った。

すべては経済発展の名のもとにある──持てる天然資源を利益のために、ためらうことなく使ってきたビジネスフレンドリーなテキサスのような州で研ぎ澄まされた直感だ。

「地元の人を雇い、地元でものを買ってくれるなら、我々の利益となる」とキング市長は述べた。

「これは、我々の経済を再生させるための最初の一歩だ」

翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸
写真:Linda Lacewell image via CoinDesk’s Flickr archives
原文:Why Bitmain Is Building the World’s Largest Bitcoin Mine in Rural Texas