ビットコインの今後の立ち位置は、CBDCとの関係が影響:野口悠紀雄氏が基調講演【BITCON TOKYO 2024】

2024年9月21・22日に開催された「BITCOIN TOKYO 2024」において、一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏は、「パラダイムシフトに直面する日本経済」と題した基調講演を行った。野口氏は、ビットコイン(BTC)の可能性にいち早く注目し、精力的に発信をし続けてきた一人でもある。日本経済の現状と今後のビットコインの動向について持論を語った。

円安の功罪、日本を衰退させた原因とは

ビットコインを考えるうえで、法定通貨との関係性を無視することはできない。野口氏は、ここ数年のドルに対する急激な円安の原因について、米国がインフレ対策のために金利を引き上げたからだと指摘する。円安は日本社会において、どのような問題を引き起こすのだろうか。

(右は基調講演を行った野口悠紀雄氏、左はモデレーターでDiamond Hands共同創業者兼CEOの東晃慈氏)

「原材料の輸入価格が上がるため、企業はそれを製品価格に転化する。その上昇分は、消費者が負うことになる。また、物価高を負担できるだけの実質賃金も上がっていないため、国民が貧しくなっているのが問題だ」(野口氏:以下同)

このように円が価値を失っていくことから、デジタル上で希少価値を持つ「デジタルゴールド」としてのビットコインに注目する人もいる。しかし、日本では円安があまり問題視されていないのはなぜなのだろうか。

「国民は損をするが、得する側もいる。それは『企業』だ。輸出企業はドル建てで売上が立ち、円の評価に換算すると自動的に売上が増える。そのうえで、輸入原価の上昇分は製品価格に転化し消費者に負担させ、労働者に支払う賃金も上げていない。つまり円安になれば、企業の利益が増えるようになっているのだ。この点のみを評価した結果だろう」

一方で、世界全体で見れば、日本企業は弱体化している。一人当たりのGDPの推移を見ると、2000年ごろは米国よりも高く、世界で最も豊かな国の一つだった。しかし、この約20年の間に日本は停滞し続け、他国は成長し続けた。その結果、米国には大きく引き離され、2000年ごろの一人当たりのGDPが日本の4分の1程度であった韓国や台湾は、現在、ほぼ同じ水準まで成長した。なぜ、日本はこれほどまでに生産性を上げることができなかったのだろうか。

「デジタル化と中国の工業化に、日本企業が対応できなかったためだ。それらに対応するための努力をせず、円安のメカニズムに頼って簡単に利益を拡大してしまった。これが日本が衰退した根源的な原因だと私は考えている」

ビットコインに立ち位置に影響する中央銀行デジタル通貨(CBDC)

野口氏は、2014年ごろの非常に早い時期からビットコインに注目していた。野口氏を最も驚かせたのは、国家や銀行などあらゆる中央集権的な組織がないままでも、通貨の発行、運用ができることだった。

そして野口氏は、ビットコインが非効率な国際間送金の仕組みを変革し、世界の経済活動を大きく変えていくと考えた。個人間のマイクロペイメントが実現することで、独立した個人がフリーランサー的に仕事を進めていくような社会に発展していくと想像した。

「これは社会に非常に大きなインパクトを与え、人類の歴史上稀に見る大革命が起こると感じた」

ところがビットコインは、その思惑とは違った方向に進化していく。送金は「取引所」という中央集権的な組織を経由することになり、国家は取引所を通じて課税や規制ができるようになった。また、ビットコインの価格の変動が非常に大きく、決済手段には向いていなかったことも、当初の想定とは違っていた点だ。

野口氏は、10年後のビットコインのポテンシャルをどう考えているのだろうか。今後の円の為替レートのトレンドと合わせて予想を語った。

「円の為替レートの変動は、米国の利下げの過程が大きな要因となる。先日、FRB(米連邦準備制度理事会)が利下げを決めたが、現在の為替レートはすでに織り込み済みで大きな影響はなかった。今後の予想は難しいというのが正直なところだ」

そして、今後のビットコインの立ち位置に関係してくるのは、中央銀行が発行するデジタル通貨(CBDC:Central Bank Digital Currency)だと指摘する。

「CDBCが発行されれば、金融システムが大きく変わり、特に地方銀行に大きな影響を及ぼすだろう。技術的には可能でも、そうした問題によって発行が難しいのだと考えている。法定通貨に対して価格を一定に保つステーブルコインの動向や、CBDCとの関係の中で、ビットコインがどのような位置付けを見出していくかが、これからの課題となるだろう」

|文:橋本史郎
|編集:CoinDesk JAPAN編集部
|写真:橋本史郎、CoinDesk JAPAN編集部