チャールズ・ホスキンソン氏:州政府がステーブルコインを計画するアメリカ/民主党は「まったく理解できない」【インタビュー後編】

共同創設者の一人としてイーサリアム・ブロックチェーンの開発に加わり、その後にカルダノ・ブロックチェーンを創設したチャールズ・ホスキンソン(Charles Hoskinson)氏。

前編に続いて、9月に来日したホスキンソン氏がインタビューで語った内容を抜粋して掲載する。

前編:チャールズ・ホスキンソン氏:日本の2つの巨大産業からブロックチェーンの“ユースケース”は生まれる

民主党は「まったく理解できない」

(民主党候補で、副大統領のカマラ・ハリス氏:Shutterstock)

──暗号資産やブロックチェーンを基盤にしたトークンの世界市場を語る上で、米国は最も影響力のある市場だ。その国の行方を左右する大統領選が近いが、チャールズの政治的な考えを教えてほしい。

僕はロバート・ケネディ(Robert Kennedy Jr.)氏を支援してきた。しかし、彼は8月に選挙活動を中止し、共和党のドナルド・トランプ前大統領を支持することを表明した。

僕自身は政治的には「ホームレス」で、政治的リバタリアンだ。

ただ、それぞれの政党の政策を比較すると、共和党のトランプ氏と民主党候補で副大統領のカマラ・ハリス氏とでは、明らかに異なる点がある。簡単に言ってしまえば、トランプは暗号資産支持派だが、ハリスは反対派と言える。

僕たちはこれまで民主党に対して積極的に働きかけてきた。理屈の上では、民主党は暗号資産業界を支持する立場にあるだろう。米国では、暗号資産を保有する30歳以下の個人の過半数は、民主党支持者と言われている。

多民族国家である米国で、暗号資産を保有する多くはマイノリティであり、民主党はマイノリティのための政治政党になると主張している。加えて、暗号資産の支持者層には、米国の経済成長を支えるシリコンバレーのテクノロジー業界に属する人たちがいる。その過半数も民主党を支持している。

暗号資産業界を標的に攻撃的な姿勢を続ける今の民主党は、僕にはまったく理解できない。

トランプがビットコイン会議で手にした政治資金

(共和党候補で、前大統領のドナルド・トランプ氏:Shutterstock)

一方のトランプは以前、暗号資産反対派だったが、彼の暗号資産に対する考えは180度変わった

おもしろいエピソードがある。今年7月にテネシー州ナッシュビルで開かれたカンファレンス「ビットコイン2024(Bitcoin 2024)」にトランプが出席して、スピーチを行った。

この会合には僕の友人のデビッド・ベイリー氏(David Bailey=BTC Incの創業者)も参加したわけだが、トランプはこの会合前に暗号資産業界のエグゼクティブを呼んで、ラウンドテーブルを開いた。

このラウンドテーブルに参加するエグゼクティブたちは、それぞれ90万ドル(約1.2億円)近い参加費を払う必要があった。

参加すれば、トランプと30分程度の時間を共にできるというわけだ。このラウンドテーブルで、トランプは1000万ドル(約14億円)近い政治献金を手にしたと言われている。

──チャールズもそのラウンドテーブルに出席した?

もちろん参加していない。90万ドルのチケットを買う気にはなれなかったね。

一方で、僕たちは民主党候補のハリス氏に対しての働きかけを進めている。民主党全国大会(Democratic National Convention)には実際に派遣団を送り、暗号資産についての話し合いを行った。しかし、ハリス氏や民主党から、暗号資産業界を支持する声はいまのところ聞こえてこない。

カマラ・ハリス氏の暗号資産に対する発言:ハリス氏は9月、ニューヨークで開いたディナー会議で初めて暗号資産に言及し、消費者と投資家を保護した上で、AIやデジタル資産などの技術を奨励するとコメントしている。

州政府がステーブルコインの発行を計画

──ブロックチェーン上のキラーアプリケーションと言える1つは、法定通貨に連動するステーブルコインだろうと感じる。自国の法定通貨が不安定なことから、グローバルサウスの南米やアフリカ諸国では、「USDT」や「USDC」を積極的に利用して、資産を守ろうとする個人の数が増加傾向にある。

日本でも複数の企業がステーブルコインの開発を検討しているが、チャールズが予想するステーブルコインの未来はどんなものか?

ステーブルコインについては徹底的に思考・研究している。現に、我々(Input Output Global=カルダノ・ブロックチェーンの開発母体)は、米ワイオミング州が発行を計画するステーブルコインのプロジェクトへの参加を検討している。

今後2年で、ワイオミング州はUSDTやUSDCの競合となるステーブルコインを発行する可能性が高い。米国の州政府が米ドル連動のステーブルコインを発行するとなると、その影響は当然大きくなる。その際、ビットコイン・ブロックチェーンやイーサリアム・ブロックチェーン、カルダノ・ブロックチェーンなどのチェーンで発行されるようになるのか、注目されるだろう。

USDTとUSDCとは:USDTは世界で最大の流通量を誇る米ドル連動のステーブルコインで、テザー(Tether)社が発行している。USDCは米サークル(Circle)社が発行する米ドルステーブルコインでその規模は2番目に大きい。サークルは米国の証券取引所に株式を上場する計画を発表している。

ワイオミング州が計画しているステーブルコインは、USDTやUSDCに似てはいるものの、1トークン=$1の価値を維持するために運用するリザーブファンド(米国債や現金の米ドルなどで構成する)は州政府が管理することになる。

今、理想的なステーブルコインを作るには、どのような仕様で、どんなインフラ基盤が必要かが世界中で議論されている。シンガポールや日本が関係している「プロジェクト・ガーディアン」などでも、同様の議論が集中的になされている。

プロジェクト・ガーディアン(Project Guardianとは:シンガポール金融庁(MAS)が設立したデジタル資産に関する官民連携の研究プロジェクトで、日本の金融庁もオブザーバーとして参加している。民間からは、JPモルガン・チェースやドイツ銀行などの欧米の大手銀や、シンガポールの金融機関であるDBSなどが参画している。

ワイオミング州政府のステーブルコイン計画とは:ワイオミング州政府は2023年3月、「ワイオミング・ステーブルトークン委員会(Wyoming Stable Token Commission)」を組織し、1トークン=US$1のデジタルトークンを開発・発行するプロジェクトを進めている。同州政府はすでに、同委員会がこのデジタル通貨を発行できる法律を策定している。

少数のステーブルコインが覇権を握る

日本でもステーブルコインに関する法律が整備され、注目されていることは認識している。今後DeFi(分散型金融と呼ばれ、ブロックチェーン上でデジタルトークンで取引される金融市場のこと)が世界的に、イーサリアムやアバランチ、カルダノなどの主要ブロックチェーンで広がっていけば、ステーブルコインは必要不可欠となる。

将来的には、数百種類のステーブルコインが存在して、競い合うような世界ではなく、いくつかのステーブルコインが支配的に利用されるようになるだろう。法定通貨の世界を見ても、全体の95%の通貨取引はG7(先進7カ国)が発行する通貨によるものだ。その中で米ドルが覇権を握ってきたことは周知の事実だ。

もちろん、プロジェクトごとにそれぞれの目的で機能するような独自のステーブルコインは、小規模に存在し続けていくかもしれない。

また、ワイオミング州では、州政府が発行するステーブルコインについての政治的議論が活発化した。例えば、州発行のステーブルコインは州内のみで取引されるべきか?とか、その取引は1取引ごとに本人確認(KYC)を厳正に行うべきか?など。

州政府としては、もちろん連邦政府と競い合うような構図は避けたいだろうが、このプロジェクトが与えるインパクトは相当大きいだろう。

ワイオミング州で牧場を購入、600頭のバッファローを飼育

──州政府がステーブルコインの発行を計画するワイオミング州で牧場を買ったと聞くが、チャールズの現在のライフスタイルは?

僕の父方の家族はモンタナ州で育ち、長い間牧場を所有していたが、その牧場は他の人の手にわたってしまった。そこで、家族の牧場を持とうと考え、11,000エーカーの牧場をワイオミング州で購入した。

今では600頭のバッファロー(アメリカバイソン)を牧場で飼育している。

現在、5割の時間をコロラド州で過ごしている。主要都市であるボルダー市の郊外に農園を持っている。もう半分の時間はワイオミングだ。ワイオミングの牧場は遠隔地にあるから週末を過ごすことが多く、仕事はもっぱらコロラドがやりやすい。

これまで70以上の国を訪れた。直近の5週間、ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ、グアテマラに行った後に、アメリカのラスベガス、ジャクソンホール(ワイオミング州)とアラスカで過ごした。そして今は日本にいるが、次はシンガポールに向かう。

生活のベースはコロラドとワイオミングで、時間の7割近くを暗号資産(仮想通貨)に関係する仕事に費やしている。残りの3割は、ヘルスケアと合成生物学の分野の事業に充てている。

父と兄弟、祖父は医師という家系であるがゆえに、家族はワイオミング州でクリニックを営んできた。診察する患者の数は10,000人を超え、診察の範囲は内科や循環器内科など幅広い。診療に加えて、クリニックではアンチエイジングや再生医療などの研究開発を行っている。

合成生物学の領域では実際に実験ラボを作り、例えば、ホタルが光を発する化学反応を人の生活に役立つ技術に応用できないか、などの研究を行っている。

暗号資産分野の研究開発に加えて、ヘルスケアや合成生物学の領域のR&D(研究開発)に没頭するとき、自分自身の脳は違う働き方をする。僕にとっては生き甲斐を感じることだ。

──チャールズは現在36歳だと思うが、次の10年で何を目指すのか?

起業家として成功を収める人の多くは、金儲けが目的ではないと思う。美味いパンを作り、小売店に卸して収益を高めるようなビジネスに、僕は興味を持てない。正直なところ、僕は僕が必要とするものを手に入れてきたし、自分自身の今のライフスタイルを気に入っている。

その代わり、解決することが不可能に近い難解な問題を解決する方法を見出すことは、僕の生き甲斐だ。僕の家族は70年以上、医療の世界で生きてきた。しかし、いま僕たちが見ている米国のヘルスケアシステムには、多くの問題が存在していて、未だ未解決のままだ。

例えば、人の寿命は伸びてきたが、人の健康寿命を伸ばす方法はまだまだ改善の余地が残っている。特にアメリカという国にとっては一刻も早く改善されるべきだ。

合成生物学もとても興味深いのだ。子供のころに読んだ本に、シアノバクテリアが地球に出現したことで、地球の大気が分子状の酸素を含まない状態から酸素を含む状態に変化したと書いてあった。

たった1種類のバクテリアが地球を変えてしまうのだ。

いま僕たちが生きている地球は、人口増加や過度の工業化、マイクロプラスチックの海洋汚染、温暖化など、環境にとっては望ましくないことが起きている。これに対して、例えば、遺伝子を人工的に操作する遺伝子工学を通じて、地球環境にたいして良好なインパクトを起こすことはできないだろうか。

地球では1日に多くの種が絶滅し続けている。最悪の状態と言える。地球規模の難題に対してチャレンジし続けていくことで、僕は僕の人生を謳歌していきたいのだ。

|インタビュー・文:佐藤茂
|撮影:今村拓馬