ハリス氏の「機会の経済(Opportunity Economy)」、暗号資産業界にもたらすメリットとは

暗号資産(仮想通貨)関係者でハリス陣営を支持するグループ「Crypto4Harris」の運営者の1人であるG クレイ・ミラー(G Clay Miller)氏は、ハリス氏が政権を担った方が、トランプ氏が大統領になるよりも暗号資産にとって有利と考える理由を説明している。

暗号資産のみを論点とする有権者が、圧倒的にドナルド・トランプ(Donald Trump)氏を支持するのには十分な理由がある。暗号資産に対するバイデン政権の敵対的な姿勢は、いまやカマラ・ハリス(Kamala Harris)氏に起因すると考えられ、トランプ氏はここ数カ月、この業界を大げさなほど支持している。両候補者が公に発言していること(または発言していないこと)だけを見ると、トランプ氏は業界のためにより多くのことをしてくれると考えるのは理にかなっている。

しかし、各候補者の幅広い政策基盤をより詳しく見てみると、ハリス政権の方が暗号資産が繁栄する上でより良い長期的な環境を作り出すことが明らかになるだろう。ハリス氏は最近、暗号資産に関する沈黙をようやく破った。現地時間9月22日にニューヨーク市で行われた資金調達イベントで、同氏は「消費者と投資家を保護しながら、人工知能(AI)やデジタル資産などの革新的な技術を奨励する」と述べた。現地時間9月25日にはピッツバーグで、米国が「ブロックチェーンで優位に立つ」ことを望んでいると述べた。

民主党の態度変容とトランプ氏の欠点

こうしたコメントは、民主党支持の暗号資産業界のリーダーたちが「Crypto4Harris」を結成し、暗号資産政策に関する民主党の「リセット」を主張するタウンホールミーティングを主催してから1カ月以上経ってからのものだ。そして、懐疑派から支持者へと180度方向転換したトランプ氏に比べれば、コメントは控えめなものだったことは認める。多くの人にとっては、これらはハリス氏がこの業界を支援する意思があることを示す、初めての明確な印だった。

しかし、動向を追い、情勢分析をしてきた私たちにとっては、予想どおりだった。ハリス氏のアドバイザーや代理人は業界への支持を約束し、選挙運動スタッフたちは思慮深い対話に参加し、上院院内総務のチャック・シューマー(Chuck Schumer)氏や下院金融サービス委員会のナンバー2であるマキシン・ウォーターズ(Maxine Waters)氏といった民主党のリーダーたちは自らの立場を明確にし、またハリス氏自身のコメント、政策方針、キャッチフレーズは、バイデン政権下の厳しい暗号資産政策からの脱却を示していた。業界関係者は、ハリス政権下では「リセット」が起こると確信している。

両候補者の暗号資産に関する公の場での発言は対照的だが、カマラ・ハリス氏が大統領に就任した方が、将来のデジタル・エコノミーにとって有益と私は主張する。まず、トランプ前大統領の言動が一致しない点、そしてトランプ氏が優位に立とうとして嘘をついたり、誇張したりした多くの例を取り上げる。次に、ハリス氏による「機会の経済」のビジョンが、私たちの業界に広く利益をもたらす理由を概説する。まず、トランプ氏に懐疑的になる理由をいくつか列挙する。

  • 大統領としての行動は無し
    バイデン大統領は確かに暗号資産の擁護者ではなかったが、トランプ氏も同様だった。トランプ氏は在任中の4年間、業界を支援するようなことは何もしなかった。実際、同氏はチョークポイント2.0(Chokepoint 2.0)の前身となる財務省の「オペレーション・ヒドゥン・トレジャー(Operation Hidden Treasure)」を開始した。また、暗号資産を公に詐欺と呼んだ。そうした大統領候補は同氏だけだ。
  • 無知で非現実的な政策提案
    トランプ氏の政策提案の多くは、曖昧な決まり文句とカラ約束に過ぎない。暗号資産は「メイド・イン・アメリカ」であるべきという発言は、暗号資産の分散型の特長に対する無知を浮き彫りにした。米証券取引委員会(SEC)のゲイリー・ゲンスラー(Gary Gensler)委員長を「解任する」という公約は、正式には大統領権限の範囲外であり、ビットコイン(BTC)が国の債務を相殺できるという主張は、単に馬鹿げている。
  • お金を追いかけているだけ
    トランプ氏がこの業界の支援に軸足を移したことは、同氏の選挙運動への大口献金者を見ることで詳しく知ることができる。アンドリーセン・ホロウィッツ(Andressen Horowitz)氏、ウィンクルボス(Winklevoss)兄弟から始まり、トランプ氏の暗号資産への関与が増えたことは、同氏の選挙運動への支持を表明した献金者と直接的な相関関係がある。良くも悪くも、暗号資産業界は今回の選挙の企業献金のほぼ半分を占めている。さらに、トランプ氏が最近スタートさせた事業、ワールド・リバティ・ファイナンシャル(World Liberty Financial)は矛盾した主張を行っている。当初は認定投資家のみが利用できると発表したが、後にパブリックトークンを導入した(総供給量の20%はトランプ一族のために確保されている)。これは倫理面での懸念を引き起こし、多くの専門家はトランプ氏の関心は自分の懐を増やすことだけにあると考えるようになった。

ハリス氏の「機会の経済(Opportunity Economy)」

トランプ氏は確かに暗号資産に関して非常に具体的な政策提言を行っているが、同氏の一般的な経済政策はきわめて曖昧。それに対して、ハリス氏は自身の唱える「機会の経済(Opportunity Economy)」を創造するための詳細な戦略を説明している。長い間忘れられていた社会的な流動性の概念を再導入し、アメリカ経済の根本的な構造的欠陥に対処するビジョンだ。教育、中小企業の発展、そして強力な法の支配といった政策問題に対処することで、私たちの経済、そしてデジタル経済は、中間層の数十年にわたる停滞を回復させる態勢が整っている。

ハリス氏の「機会の経済」によって、どのようにしてデジタル資産のイノベーションが促進されるかを見てみよう。

  • 子育て関連の税額控除、教育政策、技術職業訓練
    ハリス氏による「機会の経済」は、子育て関連の税額控除、教育政策の改善、技術職業訓練へのアクセス拡大を組み合わせることで、中間層を活性化することに重点を置いている。こうしたプログラムは、デジタル資産のイノベーションにとって不可欠だ。教育を受けた熟練した労働力を創出することで、ハリス政権はブロックチェーンと暗号資産エコシステムを維持・拡大するために必要な人材を育成する。人的資本への注力は、明日の分散型テクノロジーに直接的な利益をもたらす。
  • 5万ドルのスタートアップ税額控除による中小企業支援
    ハリス氏の政策の大きな柱の1つは、中小企業支援のために設計された5万ドル(約735万円、1ドル=147円換算)のスタートアップ税額控除だ。この政策は、ビジネスを立ち上げるために初期段階の資本を必要とするブロックチェーン起業家にとって不可欠。暗号資産は、草の根のイノベーションをサポートする環境で繁栄する。中小企業は健全な経済を支えるバックボーンであり、ブロックチェーン・エコシステムにおける競争は成長を促進する。シリコンバレーと中小企業政策におけるハリス氏の経験は、分散型テクノロジーの次の波は大企業からではなく、小規模で機敏なプレーヤーから生まれるという理解を反映している。
  • 法の支配の重要性と市場の機能
    最も重要なことは、有罪判決を受けた重罪犯が担う政権下よりも、元地方検事としての経歴を持つハリス氏の政権下の方が、法の支配が強力になると確信できることだ。安定した、透明性のある、予測可能な規制と制度は、システムへの信頼を醸成し、突然の法改正を恐れることなく地場の企業が繁栄できる環境を整える。これは米国の投資家を保護するだけでなく、世界市場に強いシグナルを送り、米国が安全で革新的なビジネス環境であることを海外投資家に再認識させる。法の支配を通じて信頼を高めることで、ハリス氏の経済計画はデジタル資産に対する国内外の関心を高め、成長のための安定した環境を作り出す。

データとさまざまな視点を包括的に取り入れて推進されるハリス氏の経済改革に対する、総合的で実用的なアプローチは、より広範な国の利益につながる。繁栄する中間層は持続可能な成長の鍵であり、ハリス氏の計画は歴史的に取り残されてしまった人々を支援することで機会の再分配を重視している。教育、労働力の訓練、中小企業の革新、法の支配に重点を置くことで、裕福なエリート層だけでなくすべての人々が恩恵を受ける経済が生まれる。これは暗号資産コミュニティの中心的な価値観でもある。規制の透明性に対するハリス氏の取り組みは、長期的な成長に不可欠な市場の安定性を高める。バランスの取れたアプローチによって、すべてのアメリカ人が経済的繁栄の恩恵を受けられるようになる。

ハリス氏の広範な経済政策は十分に研究され、詳細だ。同氏が暗号資産業界を支持した今、その暗号資産政策もそうなるだろう。投票前に、ハリス氏からさらに検討されたコメントが聞けることを願っている。トランプ氏の予測不能な戦術とは違う。私はハリス政権下で米国がより強力になると確信しており、暗号資産業界もそうなると確信している。

|翻訳:T.Minamoto
|編集:CoinDesk JAPAN編集部
|画像:Shutterstock
|原文:How a Harris ‘Opportunity Economy’ Will Benefit the Crypto Industry