コインベースのレイヤー2「Base」は、技術力ではなくマーケティングの勝利
  • 米暗号資産取引所コインベースが手がけるイーサリアム・レイヤー2「ベース(Base)」は、他の取引所の羨望を集めるのみならず、他のレイヤー2を圧倒しているようだ。
  • Base最大のDeFi(分散型金融)プロトコル「エアロドローン・ファイナンス(Aerodrome Finance)」を見ると、ステーブルコイン以外では、トップ市場のほぼすべてがミームコイン関連の取引プールになっている。
  • コインベースのユーザーなら、Baseを簡単に使えることも勝因となっている。シードフレーズなどを必要とせずにウォレットを利用できる。

イーサリアムブロックチェーン上に構築されたレイヤー2ネットワークが急成長するなかで、米暗号資産(仮想通貨)取引所コインベース(Coinbase)が手がけるレイヤー2(L2)ネットワーク「ベース(Base)」は、技術面パイオニアと言える存在ではない。Baseは主要L2のオプティミズム(Optimism)が提供するOPスタック(OP Stack)を使って構築された。OPスタックを使うと、新しいレイヤー2を簡単に立ち上げることができる。

だからこそ、L2情報プラットフォームのL2Beatが扱う74のL2のなかで、18%の市場シェアを占め、第2位となっていることは大きな注目に値する。首位のアービトラム・ワン(Arbitrum One)はシェア40%を占めているが、Baseは、スタークネット(Starknet)、ポリゴン(Polygon)、さらにはオプティミズム自体など、最先端の開発で知られる、先行の競合プロジェクトを上回っている。

L2ネットワークは、イーサリアムブロックチェーンよりも高速かつ安価に取引を実行するよう設計されている。「シーケンサー」を呼ばれるものを使って取引をまとめ、イーサリアムブロックチェーンに記録する。

ロールアップと呼ばれることもあるL2は、広範なイーサリアムエコシステムのロードマップにおいて重要な要素となっている。イーサリアムは将来、より多くの、あるいはほとんどの金融がブロックチェーン上で行われる世界を目指して、規模を拡大していこうとしている。

マーケティングの力

だが、ブロックチェーンの覇権をめぐる競争は、他の業界と同様にマーケティング知識と新規顧客獲得のための十分な資金に大きく依存していることが判明した。最高の技術を持つ企業が勝つわけではない。そしてコインベースは、最近終了した「オンチェーン・サマー(Onchain Summer)」をはじめとする広告キャンペーンやプロモーションイベントを通じて、Baseの成長を後押ししてきた。

問題は、こうした取り組みが持続可能かどうかだ。集められたアカウントは、オンチェーンのニーズを持つ真のユーザーなのか、それともBase上に構築されたさまざまなプロトコルを試してみたいと考える好奇心旺盛なベータテスターなのか。1回限りのプロモーションやクエストを狙って利益を得ている日和見的な「ディジェン(Degen:高リスクで投機的な取引や投資を行う暗号資産トレーダー)」なのか、つまり最終的にトークン報酬を集めることを期待して使用回数を積み重ねているのか。

同社は現地時間9月9日のプレスリリースで、3カ月間の「オンチェーン・サマー」には200万を超えるウォレットが参加(2023年は約26万8000だった)し、クリエイターに500万ドル以上(約7.5億円、1ドル=150円換算)のミント収益がもたらされたと述べた。

「結果には本当に驚いた」と同社広報担当者は電子メールで述べた。

「220万のユニーク・ウォレットの参加は、昨年の約8倍であり、社内予想の2倍以上だった」

現在、Baseは、2017年にエンジニアリング・マネージャーとしてコインベースに入社し、2021年から同社のプロトコル開発を監督しているジェシー・ポラック(Jesse Pollak)氏が開発の指揮をとっている。

オンチェーンデータ

データもBaseの成長を裏付けている。オンチェーン・データプロバイダーのトークンターミナル(Token Terminal)によると、他のレイヤー2が落ち込んでいる一方で、ここ数か月でBaseの成長は加速している。

L2 monthly users (Token Terminal)
<L2ネットワークの月次ユーザー数:Token Terminal>

SEC(米証券取引委員会)に提出されたコインベースの四半期報告書を見ると、同社は6月30日までの3カ月間に販促費として1億6500万ドル(約245億円)以上を費やしており、これは前年同期の2倍以上となっている。

2024年第1四半期(1-3月期)、「その他」の取引収益は5250万ドル(約78億円)。ここには、Baseが集めた、いわゆるシーケンサー手数料が含まれている。

ミームコインの熱狂

Baseは、特にロングテール資産やマネーマーケットのスワッピングのようなDeFi(分散型金融)アプリケーションについては、レイヤー1(L1)ブロックチェーンのソラナ(Solana)や他のL2と良い戦いを繰り広げてきたと、ベンチャーキャピタルのドラゴンフライ(Dragonfly)でゼネラルパートナーを務めるロブ・ハディック(Rob Hadick)氏は述べている。ソラナはイーサリアムの競合であり、高速で安価な取引手数料でも知られている。

1日あたりのアクティブアドレス(「DAU」)と1日あたりの取引数において、Baseは他のレイヤー2を上回り、その他の重要なDeFi関連指標(TVL、シーケンサー手数料など)の多くでは、トップ5に入っていると同氏は続けた。

ところで、トラフィックの具体的な原動力は何だろうか。Base最大のDeFiプロトコル、エアロドローン・ファイナンスを詳しく見ると、ステーブルコイン以外では、トップ市場のほぼすべてがミームコイン関連の取引プールになっている。ミームコイン関連のアクティビティは、よく知られているように気まぐれで、ミームコイン・トレーダーは取引場所についても気まぐれだ。

「Base上のユニスワップ(Uniswap)を見ると、同じことが当てはまり、取引されている上位5つのトークンのうち2つがミームコイン」とハディック氏は述べた。

「ソラナと似ており、ロングテールのトークン取引市場でかなりの競争力を発揮しており、若いユーザーがミームコインの投機に移行している」

トークン移動は簡単

Baseのもう1つの成功要因は、コインベースからのトークンの移動が簡単なことで、シードフレーズを使ったり、他のウォレットのような複雑さがない。

「コインベースからBaseへの移動は簡単で、(通常であれば)DeFiに参加するためには多くの手順が必要になるはずの多くのオンチェーンに興味を持つ個人投資家を自動的にオンボーディングする」とハディック氏は述べた。

トークンターミナル(Token Terminal)のグロース戦略責任者オスカリ・テンパッカ(Oskari Tempakka)氏にとっては、コインベースとオプティミズムという2社のファンダメンタルの強さがポイントだ。すなわち、株式上場している暗号資産取引所と、オプティミズムの規模と分散型ガバナンスのような分野における専門知識が組み合わさっている。

この組み合わせは、「コインベースのブランド、流通、パートナーシップを活用することで、Baseをきわめて優れたポジションに置いている」とテンパッカ氏は述べた。

|翻訳:T.Minamoto
|編集:CoinDesk JAPAN
|画像:Alpha Photo/Flickr
|原文:Coinbase Layer-2 Success Shows Power of Marketing Over Cutting-Edge Tech