著者は、長年にわたって企業分析の経験を積み、現在はCoinDeskの調査部ディレクターである。本稿は、あくまで著者個人の意見である。
米証券取引委員会(SEC)のウィリアム・ヒンマン(William Hinman)委員が2018年、デジタル資産は最初は証券でも、「十分に分散化」すると証券ではなくなる可能性もあると発言して以来、トークン発行者や投資家らは、それが何を意味するのか定量化を熱望してきた。
テレグラム(Telegram)のTONブロックチェーントークンを差し止めるというSECの最近の決定はついに、そのヒントを与えてくれたかもしれない。我々が予期した形ではないが。
最終的な結果は、従来型市場で新しく起こっている傾向を映す新しいタイプのトークン金融となるかもしれない。
すべてを分散化
SECのヒンマン委員は2018年6月のスピーチにおいて、次の質問に答えようとした。「元々証券として提供されたデジタル資産はその後、証券としてではない形で販売することが可能なのか?」ヒンマン委員の見解では、答えはイエスである。ビットコインは「しばらくの間、分散化されているように見受けられ」、「時間が経てば、十分に分散化した他のネットワークやシステムが現れ、それらで機能するトークンやコインを証券として規制する必要はなくなるかもしれない」とヒンマン委員は説明した。ヒンマン委員は「分散化した」という意味の言葉を7回使用した。
規制の文脈での「分散化した」という言葉の利用は、業界の観測筋を心配させてきた。アンジェラ・ワルシュ(Angela Walch)氏は2019年2月、そのように曖昧なコンセプトを法的定義の領域で評価することの複雑さを浮き彫りにする説得力のある論文を発表した。
ワルシュ氏は、この言葉がノードのロジスティックな分配とガバナンスの手続き上の分配の両方をカバーしていること、どちらも定量化することは非常に困難で、多少無意味であることを指摘している。システム、特に分散化したものは、時間とともに流動的になる傾向がある。
まるで規制当局がワルシュ氏の論文を読んで、メモを回したようである。それ以来、分散化という言葉が公式のやりとりから大方消えてしまったのだ。
米証取委の動向
メッセージングプラットフォームのテレグラムは2018年、「もちろん」証券登録の必要がないほどに分散化することになる、グラム(Gram)トークンの将来的な分配を約束する私募でのTONブロックチェーントークンの開発に資金を出した。これに対して、SECは納得しなかった。
SECは10月初旬、テレグラムとその子会社に対して、トークン発行の差し止め命令を発した。公式声明は、トークン自体の性質ではなく、発行者と元々の投資家らの営利目的な意図に焦点を当てているようだった。興味深いことに、「分散化した」という言葉は31ページに及ぶ声明の中で4回しか使用されず、その内2回はTONのマーケティング資料からの抜粋、残りの2回は、発行者は投資家らがトークンを所有し続け、利用することを決して意図していないことの証拠として使われていた。
「確かに、TONブロックチェーンは当然、元々のグラム購入者「以外」のグラム所有者が実際にグラムを投資した場合にのみ、(オファリング書類で検討され、宣伝されている通り)本当に分散化した状態になることができる。(中略)別の言い方をすれば、元々のグラム購入者が全員、保有しているグラムを即座に投資したら、TONブロックチェーンは分散化ではなく中央集権化していることになり、そのために悪用や51%攻撃にさらされることになる」
SECのジェイ・クレイトン(Jay Clayton)委員長は2019年3月、ネットワークの状況によってはデジタル資産が証券ではなくなる可能性もあるというヒンマン委員の見解を認めた。クレイトン委員長は同じような言い回しを繰り返したが、1つ重要な違いがあった。委員長は「分散化した」という言葉を一度も使わなかったのだ。
米商品先物取引委員会(CFTC)の委員長も10月、自身の見解ではイーサは証券ではないと公式に表明した。CFTC委員長も「分散化した」という言葉を使わなかった。
直接上場に見る可能性
デジタル資産が「分散化」を通じて証券要件を回避できるように望んでいたトークン発行者らはほぼ間違いなく、落胆することになりそうだ。テレグラムの動きと最近の声明は、「意図」の方が指標となることを示しているからだ。SECのクレイトン委員長は2018年、「私が見てきたすべての新規コイン公開(ICO)は証券である」と宣言した時に実質的にそのように述べた。
これに抵抗するのではなく、業界は新しく生まれている明確さを受け入れ、登録要件を軽減するために規制当局と連携することができる。煩雑さは少ないがより制限的なReg Dよりも、広範でより流動的なトークン分配の道として一部のプロジェクトが選択している現在のReg A+登録プロセスは、ゆっくりとしていてコストがかさむ。規制当局は時勢に適応するが、しばしば時期を逸して、大抵は非常にゆっくりとしたペースである。しかしそれは主に、構造的制約のためであり、革新的であるが安定した金融ファネルの経済への貢献の可能性に関心がないためではない。
現在の規制内であっても、新しいタイプの分配方法が出現する可能性はある。それがどのようなものになるかの例として、従来型金融における新しい傾向を見れば良い。直接上場(ダイレクトリスティング)だ。
直接上場では、民間企業の既存の株主が保有株のすべてまたは一部を、指定の取引所での従来型の新規公開株(IPO)よりもかなり低い費用での公開セールのために手放す。この方法で市場に登場した初の企業となったスポティファイ(Spotify)は、投資銀行への費用を約3000万ドル(約32億6140万円)節約したと推計している。
テレグラムがグラムトークンを証券として登録し、初期投資家、従業員、開発者に分配したとしよう。直接上場では、既存のトークン所有者は制約なしに指定の取引所でそれを販売することができる。安くはないが、大規模な訴訟よりもおそらく時間もお金も少なくて済む。そしてコストは高まる需要と標準化に伴って下がっていく可能性もある。
需要の落ち込みにも関わらず頑固なほどに高いコストが示す通り、従来型のIPO市場には、イノベーションの機が熟しているのは明確だ。それでも、従来型金融の世界の動きはゆっくりとしており、今のところ直接上場の道を選んだ著名な企業は他にスラック(Slack)の1社しかない。
それでもウォール・ストリートは、時勢の変化を間違いなく感知して、この進化を支持しているようだ。モルガン・スタンレー(Morgan Stanley)もゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)も10月、シリコンバレーで初となる直接上場のイベントを主催した。
トークン発行者向けに直接上場のプロセスを整えようとするSECや議員らの動きは、方向性を熱望する業界に待ち望まれた明確さを与えることになるだろう。仮想通貨金融業界は比較的動きが速く、トークン上場行為がわき起これば、従来型金融関係者の関心も集めるだろう。投資銀行家は仮想通貨業界の手本に習って、投資家を守りながらも参加を促すような従来型取引所におけるより円滑な規制を促進し、新しい公開株に命を吹き込むようになるかもしれない。
金融業界全体も、新しいトークンベースのビジネスモデルの出現、未公開株や債券への依存からの脱却、より流動的な資本市場から恩恵を得るだろう。境界や参加者が重なりはじめるに連れ、新しい世界と古い世界の収斂も見られるかもしれない。そうすれば、仮想通貨エコシステムは新しいレベルの成熟度に達したと間違いなく言うことができる。
翻訳:山口晶子
編集:T. Minamoto
写真:Gumball machine image via Shutterstock
原文:Crypto Convergence: From Decentralization to Direct Listings