ビットコインで生まれる日本の新たな金融・ビジネス・資産運用〜サトシ・ナカモトのコンセプトはすでに世界と日本を変えた~【N.Avenue club 2期4回ラウンドテーブル・レポート】

ビットコインのホワイトペーパーが公開された2008年以来、ありとあらゆる組織と企業で、ビットコインが作る電子通貨のエコシステムの研究が徹底的に行われてきた。また、持っている資産の一部をビットコインに替える人の数は、地球規模で増え続けてきた。

この傾向は、日本においても例外ではない。ビットコインを取引する国内市場は変化を続け、ビットコインを活用した事業を始める企業も増えてきた。ビットコインを原資産にリターンをもたらす新たな金融商品の開発をめぐっては、国内の金融界においても水面下で動きが活発化している。

こうした中、『N.Avenue Club』は10月17日、「ビットコインと日本」を主題にしたラウンドテーブルを開催、4つの視点からこのテーマを深堀りした。ビットコインが今後普及すると、どのようなビジネスが生まれ、拡大するのか、その可能性や展望、課題などについて活発な議論が交わされた。

CoinDesk JAPANを運営するN.Avenueが2023年7月より展開している「N.Avenue club」は、Web3をリサーチ・推進する企業リーダーを中心とした、法人会員制の国内最大Web3ビジネスコミュニティ。会員限定のクローズドな開催のため、ここでは当日のプレゼンテーションや議論の様子について、概要を紹介する。

ビットコインで生まれる日本の新たな金融・ビジネス・資産運用~サトシ・ナカモトのコンセプトはすでに世界と日本を変えた~

冒頭のセッションでは、バビロン(Babylon)チェーンの共同創設者兼CTO(最高技術責任者)であるフィッシャー・ユー氏がオンラインでプレゼンした。

ユー氏がスタンフォード大学のデビッド・ツェー教授とともに設立したバビロンは、ビットコインをPoSブロックチェーンにステーキング資産として導入する方法を提供する「ビットコイン・ステーキングプロトコル」だ。

[バビロンチェーン 共同創設者兼CTOのフィッシャー・ユー氏]

「How Many Native Use-Cases Does Bitcoin Have?」と題したプレゼンでユー氏は、ビットコインのユースケースには、「保有」「決済・支払い」「レンディング」「ブリッジ(カストディ)」があるが、後者の2つは、サードパーティーなどの別の事業体が関与することになる点で信頼性に疑問が生まれ、「ネイティブなユースケースとは言えない」と指摘。保有と決済こそがビットコインのネイティブなユースケースだと定義した。

その上で、ビットコイン以外のトークンではステーキングできることから、「ビットコインでもステーキングはできないか?」との問いから、ビットコイン・ステーキングが生まれたことを明かした。

さらに、バビロンにはすでに15億ドル相当のビットコインが集まっており、「バビロンのステーキングこそが、ビットコインの3つ目のネイティブユースケースであり、すでに十分に活用してもらえていると思う」と胸を張った。

取引所から見たビットコイン市場の歴史と展望

続くメインセッションで最初に登壇したのは、デジタルガレージグループでweb3事業を担当し、Crypto GarageのCBOを務める木室俊一氏。木室氏は「ビットコインのエコシステムと現在の概況について」と題し、デジタルガレージグループのビットコイン分野での投資状況などについて説明した。

[Crypto Garage CBOの木室俊一氏]

スタートアップへの投資のほかに、2016年に設立した研究開発組織DG Labでブロックチェーン技術の研究開発を行っていること、ビットコイン・コアの開発者を採用してオープンソースへの貢献を続けていることを紹介。またグループでは米国に拠点を構え、2015年から SF Bitcoin Devsというイベントを続けていることなどについても触れた。

さらに、ビットコイン関連の情報をキャッチアップするために役立つ方法として、Bitcoin Optechを紹介。日本語版はchaintope(チェーントープ)の安土茂亨氏(取締役CTO)が翻訳に参加、ビットコインに関わる事業・サービスを提供する企業向けの技術動向がまとまっており、有用だと思うと話していた。

メインセッション2人目の登壇者は、SBI VCトレード株式会社代表取締役社長の近藤智彦氏。近藤氏は「ビットコインで生まれる日本の新たな金融・ビジネス・資産運用」と題し、取引所からの視点でビットコインの歴史を振り返り、今後の展望について話した。

[SBI VCトレード 代表取締役社長の近藤智彦氏]

近藤氏はビットコイン現物市場の動向をデータとともに振り返り、「国内のビットコイン現物の保有金額は、BTC価格と強い相関がある」として、このトレンドが今後も続くかどうか注視したいなどと述べた。

また、現物売買高は価格と相関傾向にあるが、保有金額に対しては減少傾向にあると指摘。さらにSBI VCトレードの顧客動向として、BTC売買高比率が、ずっとおおむね30~40%であるとした上で、「特殊な事情がない限り、暗号資産の象徴的存在であるビットコインがトップで、この傾向が揺らぐことはないだろう」などと話した。

ビットコインマイニングが電気代の削減につながる?

[アジャイルエナジーX 代表取締役社長の立岩健二氏]

最後に登壇したのは、株式会社アジャイルエナジーX代表取締役社長、立岩健二氏。同社は東京電力パワーグリッドの100%子会社で、利用されていない再生可能エネルギーを有効活用する手段としてビットコインのマイニングを活用しているほか、系統混雑(発電された電気を送配電線や変電所などの系統設備に流す潮流が、設備容量を超えてしまう問題)の緩和に取り組んでいる。

大学時代の専攻は原子力で、東電にはエンジニアとして入社したという立岩氏は、2018年ごろ、大量に電力を消費するビットコインマイニングの存在を知り、これを、東電をはじめとする電力会社・業界が抱える再エネの消費、系統混雑などの問題解決につなげられると考えたといい、その後、数年にわたって上層部を説得、2022年の新会社設立にこぎつけたという。

同社はこれまでに、群馬県と栃木県にコンテナ型のマイニング装置を持ち、PoCを進めてきた。最近では、国内だけでなく海外にも進出。米国テキサス州の非営利法人・パーミアンエネルギー開発研究所との間で、ビットコイン・マイニングとその排熱利用などを活用するための共同研究、開発、デモ、および商業化を目指し、協力に向けた覚書を締結したばかりだという。

立岩氏は、同社が取り組んでいるビジネスについて、「道のりは遠いが、将来の”勝ち筋”は見えている」と力を込めた一方、現状では「設備を増強させるほど赤字が大きくなる」と明かした。そして、各種の制度や分散エネルギー取引市場などが必要で、経産省などに働きかけているとした上で、「将来、市場が生まれるまで、出血を抑えつつ準備に取り組んでいるところだ」と話し、来場者に投資や協業、共創を呼び掛けていた。

メインセッションの後は、来場者がいくつかのテーブルに分かれて、「ビットコインが日本で普及した際、どんなビジネスオポチュニティがある?」とのテーマで、グループディスカッションを行った。

ビットコイン決済について、日本国内での拡大を海外からのインバウンド増加が後押しする可能性や、国際的には、グローバルサウスで大きく伸びる可能性についての指摘があった、また、国内の大手インフラ系企業がビットコイン関連の事業に参入する方法として、バリデータープールの構築を例に挙げる意見が聞かれた。

『N.Avenue club』は毎月、ラウンドテーブルをクローズドな環境で行なっており、そこでは、国内外の先進的な取り組みが紹介されているほか、Web3に携わる会員企業の参加者らによって、最新の情報や議論が盛んに交わされている。事務局は、Web3ビジネスに携わっている、または関心のある企業関係者、ビジネスパーソンに参加を呼び掛けている。

|文:瑞澤 圭
|編集:CoinDesk JAPAN編集部
|写真:多田圭佑