イーサリアムは方向を見失ったのか?──二兎を追う者は一兎を得ず

イーサリアムはあらゆるニーズに応えようとして、本来の目的を見失っているのではないか? 当初の目的である「ワールド・コンピュータ」に注力すべきだとコヴァレント(Covalent)の共同創業者ガネシュ・スワミ(Ganesh Swami)氏は語る。

イーサリアム(Ethereum)は、2015年に「フロンティア(Frontier)」というコードネームでネットワークが稼働して以来、長い道のりを歩んできた。壮大なアイデアから、今では数千もの分散型アプリケーションの基盤へと変化した。

だが、ビットコイン(Bitcoin)のみならず、ソラナ(Solana)のようなブロックチェーンが台頭し、イーサリアムの開発者やユーザー基盤を奪おうとするなかで、イーサリアムは勢いと方向性を失い始め、当初目指した目的が見えなくなっている。価格も低迷している。ネイティブトークンのイーサリアム(ETH)は、2021年に記録した史上最高値4700ドルをいまだに更新できていない。

では、どうすれば軌道修正できるだろうか?

「二兎を追う者は一兎を得ず」。ソラナの早い取引速度と、ビットコインに負けない「ウルトラサウンド・マネー(ultrasound money)」のストーリーを追い求めるなかで、イーサリアムは「ワールド・コンピューターを目指す」という当初のビジョンを見失ってしまった。

ウルトラサウンド・マネー:ビットコインが「サウンド・マネー(sound money)」と呼ばれることに対抗して、イーサリアムを「ウルトラサウンド・マネー」と呼ぶ。soundは「堅実な」という意味。ultrasoundは「超音波」という意味だが、sound(ここでは、ビットコインを表す)を超えるという意味と、超音波のように決済が早いという意味の2つを表している。

イーサリアム・チーム・リード(Ethereum Team Lead)のピーター・シラーギ(Péter Szilágyi)氏は「イーサリアムは方向を失っている」と述べた。

「ウルトラサウンド・マネー」さえも疑問視されている。取引活動およびバーン率の低下によって、イーサリアムのインフレ率は0.74%にとどまっている。デフレ性を主張する人もいるが、ウルトラサウンド・マネーは決して目標ではなかったことを忘れてはならない。

分散型未来の構築

イーサリアムは単なる通貨以上の存在であり、これまで最速のTPS(1秒あたりの処理速度)や最安のガス代(取引手数料)を目指してきたわけではない。イーサリアムは常に、真の分散型未来の構築を目指してきた。

ヴィタリック・ブテリン氏と他の共同創設者たちは、イーサリアムを「ワールド・コンピューター」、すなわち誰もが、どこからでも分散型アプリケーションを構築できる数千ものコンピュータで構成されるユニバーサル・ネットワークにすることを目指して開発した。だが、アクセス性と相互運用性を高めることを目的としたエコシステムは、最新トレンドに惑わされ、焦点を失っている。

価格が2500ドルを下回り、暗号資産イーサリアムが低迷している原因は、ネットワーク上に構築されるアプリケーションに関連していると考えられている。現在、イーサリアム上のdApp(分散型アプリ)の多くは短期的な注目を集めている。だが、使いにくいUIや開発不足のプラットフォームに対する評価が、限られた利用とユーザー数の伸び悩みにつながっている。

さらに、これらのアプリケーションは、多くの場合、さまざまなレイヤー2にサイロ化されている。使用する価値のあるアプリケーションがなければ、イーサリアムは「ワールド・コンピューター」になるという目標を達成できない。

インフラにフォーカス

イーサリアムの大きな目的は、アプリケーションではなく、強固なインフラにかかっている。イーサリアム・メインネットにつながるレイヤー2、レイヤー2の分散型コンピューティングは開発が進められ、イーサリアムのインフラが発展していることを示している。

企業でさえ、プライベート・ネットワークよりも、イーサリアムのようなパーミッションレス・ネットワークを選択するようになっており、パーミッションレス・ネットワークでの開発は一層、低コストになっている。

しかし、こうした進展にもかかわらず、イーサリアムはスケーリング・ロードマップの途中で停滞しており、マークル・ツリー(Merkle Trees)、zkSTARKS、アカウント抽象化、そしてレイヤー2を統合する技術が現実のものとなりつつあるという、あまりエキサイティングではない時期にある。

短期的思考から抜け出さなければならない。ビットコインのように、イーサリアムも活気がないように見える低迷期を抜け出すだろう。イーサリアムは、ウルトラサウンド・マネーというストーリーを捨て、ソラナを追うことをやめる必要がある。イーサリアムは、解決のための明確な道筋がある。

ペクトラ、パージ

3月のデンクン(Dencun)アップグレードに続き、ペクトラ(Pectra)が次のメジャー・アップグレードとして2024年末に、その先にはパージ(Purge)が予定されている。パージは、イーサリアムが他のチェーンに遅れを取らずに進展し、より広範な普及が実現した際に、アクティビティの急増に対応するうえで重要な役割を果たす。パージは、古い履歴を消去することでプロトコルを簡素化し、技術的負債を解消し、ネットワークへの参加コストを削減する。

履歴の消去にはメリットがあるが、チェーンが中央集権的エンティティにデータが収集されてしまう脆弱性もあり、イーサリアムをデータ中心のチェーンにしてしまう。そうなると、イーサリアムはトラストレスな性質を失い、広告塔のようなものになってしまう。

この問題は、イーサリアムの次の段階への進展を妨げる。なぜなら、マルチ・エージェントAIシステムや分散型コンピューティングのような下流のアクティビティは、参照できるデータがなければスケーリングできない。この問題は、分散型の長期データ可用性というソリューションが解決する。

今、イーサリアムはスケーリング・ロードマップの途中で停滞している。しかし、インフラに焦点を当てることでイーサリアムは軌道に復帰できる。これが、ネットワークが真にワールド・コンピューターとしての役割を果たすことを実現する。

イーサリアムがロードマップの終盤に達し、今後数年で分散型コンピューティングを実現すれば、ワールド・コンピューターは強固なグローバルインフラに支えられ、問題なく機能するだろう。

|翻訳・編集:CoinDesk JAPAN編集部
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|原文:Has Ethereum Lost Its Way?