「米国政府はボタンを押すだけで、我々を潰せる」テザー社CEO

だが、世界最大規模のステーブルコイン「テザー(USDT)」を発行する同社は、国際制裁を尊重しているため、米国の金融機関で米国債を保有することに問題はないと、パオロ・アルドイノCEOはインタビューで述べた。

  • テザー(Tether)社は、暗号資産の不正使用を取り締まるために「できる限りの最善を尽くしている」とアルドイノCEOは語った。不正な資金調達におけるUSDTの役割は、米ドルに比べると「大海の一滴」にすぎないと同氏は続けた。
  • 同社は「誰からも政治的な便宜を期待していない」と、同社に近い債券取引大手キャンターフィッツジェラルドのハワード・ルトニックCEOがトランプ氏の選挙キャンペーンで果たしている役割に触れた。
  • ウォール・ストリート・ジャーナルの25日の報道によると、テザー社は米当局による捜査を受けているという。だが同社はこれを否定している。

暗号資産業界大手のテザー社が再び厳しい監視の目にさらされるなか、パオロ・アルドイノ(Paolo Ardoino)CEOは、同社は国際制裁を尊重し、法執行機関と密接に連携していると述べたが、最終的には米当局の判断に委ねられていることを認めた。

「米国が我々を潰そうと思えば、ボタンを押すだけですぐに潰せる。我々は米国と戦うつもりはない」と同氏は述べた。

「我々は、自社のプレゼンテーションについてはベストとは言えないかもしれない。だが、重要なのは、FBIを(テザーのコンプライアンス・システムに)組み込んだことだ。シークレット・サービスも組み込んだ。司法省から感謝状を受け取った……できる限りの最善を尽くしていると思う」

米CoinDeskは25日に開催されたカンファレンス「Plan B」で同氏にインタビューを行った。その数時間前にウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は、米司法省(DOJ)がテザー社に対して、制裁およびマネーロンダリング防止法違反の疑いがあるとして捜査を行っているようだと伝えた。この報道を受けて、ビットコイン(BTC)をはじめとする暗号資産は下落した。

その後、アルドイノCEOは「テザー社が捜査を受けているという兆候は一切見られない」とXに投稿し、同社はWSJの記事を「きわめて無責任」と批判した

また先週、政治メディアのポリティコ(Politico)は、テザーが保有する800億ドル(約12兆円)の米国債をカストディ(管理・保管)している債券取引大手キャンターフィッツジェラルド(Cantor Fitzgerald)のハワード・ルトニック(Howard Lutnick)CEOに利益相反の可能性があると報じた。ルトニックCEOは、トランプ氏の政権移行チームの責任者も務めている。

米当局の監視の的となっているテザー社は、2兆ドル(300兆円)規模のグローバル・デジタル資産市場全体に影響を及ぼし得る。同社は暗号資産エコシステムにおいて重要な役割を担っており、時価総額1200億ドル(18兆円)にのぼるUSDTは業界最大のステーブルコインであり、取引所における流動性を支え、新興国では決済手段としての利用が拡大している。

キャンターとテザー

米当局が米国を拠点とするキャンターに保有されている準備資産を通じてテザー社に影響力を及ぼす可能性について質問されたアルドイノ氏は「キャンターは隠れることはできない」と述べた。

「どこで米国債を保有しても、米国債は実際には最終的にFRB(米連邦準備制度理事会)の口座にある。私がキャンターと安心して取引できるのは、我々がOFACを尊重しているからだ」

OFAC(Office of Foreign Assets Control)は、米財務省傘下の組織で、テロリストや麻薬密売人をはじめとする個人や国に対する制裁措置の実施を担当している。

アルドイノ氏は、不正な資金調達におけるUSDTの役割については、米ドルが使われていることと比較して「大海の一滴」に過ぎないと答えた。

「誰も完璧ではないが、銀行が麻薬関連の取引で支払った罰金を見てほしい」と同氏は述べた。例えば、TD銀行は今月、麻薬カルテルによるマネーロンダリングを適切に監視できなかったとして、30億ドル(4500億円)以上の罰金を支払うことに合意した。

アルドイノ氏は、テザー社は暗号資産ウォレットの凍結とブラックリスト化に積極的に取り組んでおり、世界中の180の政府当局と協力していると述べた。

「我々のメッセージはきわめて明確だ。USDTや暗号資産を犯罪に使うことは、どうしようもないくらい愚かなことだ」

選挙の影響

米大統領選が規制やテザー社に及ぼす影響についてアルドイノCEOは、どちらが勝っても、暗号資産やステーブルコインの可能性を理解してくれると期待していると述べた。

「ステーブルコインについては、理解しやすいだろう。中国が米国債を売却しており、我々は今、米国債を購入している。政府と規制当局は『素晴らしいことだ』という結論に達しただろう」

テザー社の米国債保有高は、ドイツを上回り、世界トップ20にランクインしている。

キャンターフィッツジェラルドとハワード・ルトニックCEOの政治的役割については、彼らとの仕事は、時価総額が100億ドル規模の頃には小規模な銀行と取引していたをテザー社が、米国債を保有するために「アイビーリーグのカストディアン」との取引を必要とする大規模な事業へと成長するまでの4年間の道のりの一部だったと述べた。

「齟齬が生まれたのは、ハワードが公の場で、キャンターはテザー社に対してデューデリジェンスを行ったことを明言し、皆に『我々は彼らの資金を保有している』と伝えたことだ」

「我々は誰からも政治的な便宜を期待していない」とアルドイノCEOは述べた。テザー社は金融包摂(ファイナンシャル・インクルージョン)の推進に多大な取り組みを行っており、「民主党は誰よりも金融包摂の必要性を理解しているはずだ」と語った。

一方、テザー社は米国債の大口購入者であり、これは米ドルの覇権維持に関心を持つ共和党にとって説得力があるはずだ。

「我々が構築しているものは両党にとって理にかなっている」とアルドイノCEOは結論づけた。

「いずれにしても、(米国の規制は)ポジティブなものになるだろう」

|翻訳・編集:CoinDesk JAPAN編集部
|画像:テザー社のパオロ・アルドイノCEO(Tether)
|原文:Tether’s Paolo Ardoino: ‘If the U.S. Government Wanted to Kill Us, They Can Press a Button’