仮想通貨と法定通貨の巨大な資産を預かり、その資産を管理する暗号キーを唯一知っているとされる取引所・創設者の死、そして取引所の閉鎖。カナダの仮想通貨取引所、クアドリガCX(QuadrigaCX)を巡る問題は2019年2月、各国のメディアが取り上げた。
自分の資産を簡単に引き出すことができないと苦情が相次ぎ、クアドリガCXはその運営上の問題を数カ月にわたり指摘されてきた。その矢先、創設者で最高経営責任者(CEO)、ジェラルド・コットン(Gerald Cotten)氏の突然の死は、顧客たちの不安を恐怖へと変えた。
カナダ・ノバスコシア州の裁判所に債権者保護の申請を行った同取引所は、1億3000万ドル(約143億円)を超える顧客の資産を、果たして取り戻すことができるのだろうか?債権者保護申請が裁判所で受理されたクアドリガCXは、今後30日間で資産の回収と顧客への払い戻し方法を解明していかなければならない。
しかし、この問題を巡っては依然として不可解な事が多くある。CoinDeskは、現段階で解明されていない不可解な事実を追った。
明らかになった事実
1. 託された巨額の資産
クアドリガCXによると、同取引所は約11万5000人の顧客から1億9000万カナダドル(約157億円)の現金と仮想通貨を託されているという。この人数は、同取引所のおよそ30万の個人口座数の半数近くに上る。
クアドリガCXに眠るとされる巨大な資産へのアクセス方法は、コットン氏の妻、ジェニファー・ロバートソン氏も、同取引所の従業員も知り得ないと、裁判所に提出された宣誓供述書には記されている。
同供述書によると、クアドリガCXは1億4700万ドル相当の仮想通貨を保有しているという。内訳は、2万6500ビットコイン(約9230万米ドル)、1万1000ビットコインキャッシュ(130万米ドル)、1万1000ビットコインキャッシュSV(70万7000米ドル)、3万5000ビットコインゴールド(35万2000米ドル)、約20万ライトコイン(650万米ドル)、43万イーサ(4600万米ドル)。
報道によると、コットン氏は、暗号キーでロックのかかるノートパソコンで全ての業務を行っていた。専門家も雇われ、パソコンロックの解除が試みられたが、失敗に終わったという。コットン氏のパソコンは今後、裁判所が監視役として選任した企業EYに、引き渡される予定だが、その時期は分かっていない。
クアドリガCXの問題を複雑化しているのは、同取引所とカナダ帝国商業銀行(CIBC:Canadian Imperial Bank of Commerce)との法廷闘争だ。カナダ帝国商業銀行は2018年1月、同取引所の支払い処理を目的とする複数の口座を凍結。The Globe and Mailの報道によると、それらの口座が、仮想通貨を購入するために開設された個人のものなのか、それとも取引所のものかを判断することが困難であるという理由だった。
2. 全てが仮想通貨ではない
裁判所に提出された書類でもう一つ明らかになったのは、同取引所が管理する資産のうち7000万カナダドル(約5300万米ドル)は、法定通貨として支払い処理業者によって保有されていた。
そのうち、3000万カナダドルは支払い処理業者のBillerfyが、手形として保持している。Billerfyは過去に、資産をクアドリガCXに戻すことを避けようとしたが、手形に裏書きする金融機関を見つけることが困難だったと説明している。
法廷でQuadrigaCXの代理人でスチュワート・マッケルビー(Stewart McKelvey) 法律事務所 のモーリス・チアソン(Maurice Chiasson)氏は、EYに対して手形の裏書きができる金融機関の確保を要請したが、その可否は現時点では不明。EYは、CoinDeskの取材に対して、コメントを控えている。
一方、Billerfyのオーナー、ホセ・レイズ(Jose Reyes)氏は、EY側からは依然として何も聞かされていないと、CoinDeskの取材に対してEメールで答えた。また、同氏は別のEメールで、手形の裏書きが可能な金融機関の確保はいまだにできていないと述べている。
クアドリガCXの弁護団は現在、カナダ・ニューブランズウィック州の複数の企業が所有する500万米ドルを管理している。チアソン氏曰く、この資金は倒産手続や他の事務費用に充てられる可能性があるという。
3. 30日間で探しだせるか?
債権者保護申請が受理されクアドリガCXだが、今後30日間で、保管していた仮想通貨と現金資産を取り戻すことができるのか?そしてこの間、同取引所は収益に代わるあらゆる資産を見つけ出さなければならない。EYは以前に、クアドリガCXが持つトレーディングプラットフォームを売却すれば、収益の一部になり得ると示唆していた。
クアドリガCXは3月1日までに報告書をまとめる必要がある。そして、与えられた30日間の最終日に再度、聴聞の機会が与えられ、この間の進捗を問われる。期間の延長は可能だが、チアソン氏は、管理されていたコインが見つかれば、直ちに(払い戻し作業)進めていきたいと、法廷で述べた。
明らかにされていないこと
クアドリガCXにおける今回の騒動では、いまだに解明されていないことが多々ある。
その一つは、同取引所のコールドウォレットに関する主張だ。裁判所に提出された供述書の中で、取引所が保有していた貨幣は、コールドウォレットに保管されているが、現在、それにアクセスすることはできないと述べられている。
1. コールドウォレットは存在するのか?
MyCrypto創業者・CEOのテイラー・モナハン(Taylor Monahan )氏は、「(クアドリガCXが)3つの主要ウォレットを使って管理した事実を踏まえると、今後、コールドストレージのイーサ・アドレスを見つけることはできるのだろうか?」と、CoinDeskの取材で述べている。
「ほとんど全ての大型取引は取引所、もしくは3つの主要アドレスで行われている。イーサリウム・チェーンで使われているコールドストレージのメカニズム、または貨幣のリザーブの存在を示唆するものを見たことはない」と、モナハン氏は言う。
現段階で、モナハン氏のコメントを踏まえて、クアドリガCXがコールドウォレットを保有していないと言い切ることはできない。しかし、ブロックチェーンデータを示すことと、QuadrigaCXが主張することに食い違いがあることは事実だ。そして、この食い違いは新たな疑念を生む:資産は本当に存在するのか?
2. マルチシグ・ウォレットは本当に利用されていたか?
コットン氏は2015年に、取引所がセキュリティ強化のためマルチシグ(マルチ・シグネチャー)・ウォレットを利用していたと述べている。マルチシグ・ウォレットは、複数の参加者がウォレットのプライベートキーを管理する。
通常、2、3人以上の参加者が、取引が認められる前にサインオフする必要があるが、クアドリガCXにおいて、取引をサインオフできる社員の存在は明らかになっていない。果たして、QuadrigaCXは本当にマルチシグ・ウォレットを使っていたのか?
3. 取引所は今後、何ができるのか?
クアドリガCXは30日間で行方不明となった仮想通貨を探し出し、凍結された法定通貨を取り戻さなければならない。しかし、それを可能にする方法は不明だ。
EY CanadaはクアドリガCXの債権者からの連絡を受け取るため、特定の電子メールアドレスを設定しているが、CoinDeskが取材を行った時点で、それが機能していないことが分かっている。
また、クアドリガCXは発表文を公表しているが、詳細は全くわからないままである。発表文には、「現在、長いプロセスの中の初期段階である。同プロセスは進行中である」と記されている。
飛び交う憶測
コットン氏は本当に死亡しているのか?
これまでに、コットン氏の死亡を証明する書類は2種類が確認されたが、依然、「同氏は生きている」とする陰謀説は聞かれる。
2018年12月12日、葬儀場のJ.A. Snow Funeral Homeは、コットン氏が12月9日に死亡したとする発表を行っているが、同葬儀場はこの文書を公式に発行したかについて、否定も肯定もしないスタンスを取っている。
一方、インド・ラジャスタン州の経済統計局は翌13日、コットン氏がジャイプール市内で死亡したとする証明書を発行。CoinDeskはそのコピーを入手した。同証明書には、死亡原因などの詳細は記されていない。
取材協力:Anna Baydakova, Yogita Khatri
翻訳:CoinDesk Japan編集部、
編集:佐藤茂、浦上早苗
写真:Canadian flag image via Shutterstock
原文:The Collapse of QuadrigaCX: What We Know (And What We Don’t)