仮想通貨取引所「バイナンス(Binance)」のCEO、チャンポン・ジャオ(Changpeng Zhao)氏とセルフィーを撮るための列はどこまでも続くように見えた。その夜、2度目の写真撮影の機会であったにも関わらず。
初めてのロシア訪問
「CZ」として知られる仮想通貨取引所の大物は、モスクワでのミートアップが始まる前にもすでにロシアのファンと写真を撮り、ミートアップ後も30分にわたってカメラに向かって微笑み、握手し続けた。
ジャオ氏のロシア訪問は今回が初めて。参加者の数がロシアの仮想通貨の世界での同氏の人気を表していた。モスクワ中心部にあるラディソンホテルのコンサートホールは、2019年10月21日(現地時間)に行われた今回のイベントに申し込んだ約700人を収容するのに精一杯だった。
互いに温かい感情を抱いていた。
「我々は常にどこのコミュニティーにおいてもパートナーを探しています。特にロシアではそうだ」とジャオ氏は講演の前にCoinDeskに語った。
「ロシアは我々にとって重要なマーケット、世界のブロックチェーン業界において最も活発なマーケットの1つ」
ステージ上で近い将来、仮想通貨に最も大きな影響力を持つ人物は誰かと聞かれると、ジャオ氏はプーチン大統領の名をあげ、観衆の笑いを誘った。ロシアの規制当局の決断力のなさに暗に触れてのことだった。
「アメリカでは規制当局は極めて分散されており、中国がすぐに動くことはないだろう」とジャオ氏は観衆に語った。
「ロシアにはまもなく通過する可能性のある法案があり、業界にとっては良いものになるだろう」(問題の法案は現在、ロシア議会で膠着状態にある)
ロシアオフィス開設へ
ここ1年、マルタを拠点にするバイナンスは他の世界最大級の仮想通貨取引所と同様に世界中で積極的な拡大を続けている。
同社はウガンダ、イギリス領ジャージー、シンガポール、そして10月にはアメリカと4つの地域で取引所を開設した。
バイナンスはまた、ナイジェリアの通貨ナイラ(NGN)向けのフィアット・オンランプ(法定通貨と仮想通貨の交換の場)もローンチし、最近ではロシアのルーブルの入金受け入れ計画も発表した。
しかしそれは、バイナンスのロシア進出計画の始まりに過ぎない。ジャオ氏はロシアでのオフィス開設を望んでいるとCoinDeskに語った。
「(ここには)非常に優秀なプログラマーが存在している」とジャオ氏は述べた。
「今回の訪問で、開発者用オフィスを検討すべきということが非常にはっきりした。今のところはまだ商業用オフィスではない」
さらにバイナンスは、同社のステーブルコインプロジェクト「ヴィーナス(Venus)」をロシアでも展開しようとしている。
「法定通貨に裏付けられたステーブルコイン発行者の候補者と連携もしている」とジャオ氏。
「我々はどこでも、特にロシアにおいてパートナーを探している」
ロシア政府は2018年1月、いわゆるクリプトルーブルと呼ばれる国家仮想通貨に取り組んでいると発表した。だがそれ以来、特に新しい情報はない。
入金サービスへの対応は?
法定通貨の取り扱いはロシアで仮想通貨事業を行う際に難しい部分だ。ロシアでは仮想通貨はまだ法的な位置づけがなく、仮想通貨関連企業は通常、ITサービスなどの提供者として登録されるためだ。
EXMO、ヨービット(Yobit)、ライブコイン(Livecoin)、クナ(Kuna)などの少数の小規模な取引所のみが、電子決済を処理し、法定通貨の銀行口座を取り扱う金融サービス企業とのパートナーシップを通じて、ルーブルでの入金に対応している。
名前をあげることはなかったが、ジャオ氏はルーブルの入金サービスを提供するためにロシアの銀行や金融サービス企業と交渉中と語った。
「我々は基本的に他の取引所がロシアで行っていることを行っている」とジャオ氏は述べた。
「銀行と交渉中だが、まだ正式なものではない。銀行とは極めて初期の段階にある。決済サービス企業がおそらく最初に登場するだろう」
実際、ルーブルでの入金サービスはすでに運用が開始されている予定だったが、技術的な問題によりローンチが数週間遅れたととジャオ氏は述べた。バイナンスは現在、暫定的に11月上旬のローンチを計画している。
その他の構想
一方でジャオ氏は9月にオープンした新しいビジネスパートナー「バイナンスU.S.」の実績に満足していると語った。市場データウェブサイトのコインマーケットキャップ(CoinMarketCap)、コインゲッコー(CoinGecko)、クリプトコンペア(Cryptocompare)によると、現在、バイナンスU.S.の1日あたりの取引高は約1400万ドル(約15億円)にのぼる。
ジャオ氏によると、ネバダ州でライセンスを受けた信託会社「プライム・トラスト(Prime Trust)」はバイナンスU.S.向けに入金サービスと銀行との関係を提供している(プライム・トラストは連邦預金保険公社[FDIC]の保険対象ではないが、保険対象となっている機関に口座を保有している)。ジャオ氏は機関投資家が最終的にバイナンスU.S.で取引の大半を行うようになることを望んでいる。
しかし、機関投資家はデリバティブ取引に高い関心を持っている。現在、バイナンスでは、この取引はアメリカの投資家は利用できない。「バイナンス・フューチャーズ(Binance Futures)」に登録しようとすると警告文が表示される。
それにもかかわらず、先物取引プラットフォームのバイナンス・フューチャーズはローンチから最初の数カ月で勢いを増しており、日によってはバイナンスのビットコインスポット市場を超えることもある。さらなる拡大を目指してバイナンスは10月はじめ、先物契約に前例のない125倍のレバレッジを導入した。
他のビットコイン先物プラットフォームで利用可能なものよりも高いこのレバレッジに一部の人は眉をひそめ、125倍のレバレッジはトレーダーにとって「破滅」の絶好のチャンスだとする皮肉なツイートも見られた。ジャオ氏は、この前例のないほど高いレバレッジはバイナンスのユーザーが求めていたもので、バイナンスと競合を差別化するものと述べた。
「マーケティングであり、PRゲームという側面も少しあるが、少し革新的でもありたい」とジャオ氏は述べた。
「我々は多くの人の、多くのものを真似ている。だが少し違った存在でもありたい」
翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸
写真:Anna Baydakova for CoinDesk
原文:Binance CEO: ‘Russia Is Our Key Market’