トレーディングカードゲーム(TCG)市場が急速に成長している。
一般社団法人日本玩具協会によると、日本のTCG市場の一次流通規模は2023年4月から2024年3月までの期間で2774億円に達し、前年比118.1%を記録した。グローバル市場も2023年に9.9%成長し、46億ドル(約7100億円、1ドル=154円として計算)の規模となっている。
市場シェアではポケモンカードゲームが49.8%(1337億円)でトップとなっており、遊戯王OCG(17.5%、471億円)、デュエルマスターズ(10.5%、289億円)が続く。上位3銘柄で市場の78%を占めている。
深刻化する偽造品問題
市場の急成長と並行して、偽造品問題が深刻化している。TCG市場では、カードの高額化に伴い、鑑定や価値保証に多大なコストがかかり、流通の透明性も課題となっている。
日経新聞は「偽造品の流通問題で高額カードの取引量が減少し、相場の過熱感が後退した。足元では2021~22年に10万~20万円で売買されていたカードが半額以下に下落している。」と事態の深刻さを伝える(日経新聞 2023年11月28日付)。ポケモンカードも公式サイトにて偽造品に関する注意喚起を行う。
トレーディングカード偽造対策としては、PSA(Professional Sports Authenticator)などの第三者機関による鑑定サービスが存在する。専門家がカードの真贋性と状態を評価し、格付けを行う。
しかし、鑑定には数週間から数カ月を要し、即時取引や迅速な価値確認には適さない。また、鑑定料金は低価格帯のカードの価値を上回ることもある。このような時間とコストの制約が、急速に変化するTCG市場において課題となっている。
ブロックチェーンによるソリューション
この課題に対し、ブロックチェーン技術を活用した新たなアプローチで解決を図ろうとする取り組みがある。2024年5月に設立されたモノリスは、NFT(非代替性トークン)を活用したTCGの販売を開始する。
モノリスが開発中のTCGの核心は、NFTとNFC(Near Field Communication:近距離無線通信)技術を組み合わせた真贋証明システムにある。システムは特許申請中で、各カードに搭載されたNFCタグとレイヤー2ネットワークBaseチェーン上のNFTを連携させる。
具体的な仕組みとしては、各カードに固有のNFCタグが埋め込まれており、このタグにはBase上のNFTと紐付けられた固有IDが格納されている。ユーザーがスマートフォンでカードをスキャンすると、このIDを基にBaseネットワーク上でNFTの情報が参照され、カードの真贋や希少性、所有履歴などが即座に確認できる。
また、ブロックチェーン技術により各カードの発行枚数を透明化することで、ユーザーはいつでも誰でも流通量を確認でき、カードの希少価値を把握することが可能となっている。
なお、NFTを使った真贋証明の取り組みは各産業で広がりを見せており、日本酒「獺祭」は最高級商品にチタン素材対応NFCタグを導入した。SBIトレーサビリティが提供する「SHIMENAWA」と呼ばれるこのシステムは、ブロックチェーン技術と組み合わせることで、製品の真贋証明から流通管理までを一貫して実現する。
また美術品分野では、旭化成とTIS共同開発の偽造防止ソリューション「Akliteia」が棟方志功作品の真贋鑑定に採用された。偽造防止ラベルと真贋判定デバイス、ブロックチェーンを組み合わせることで、作品の真正性を永続的に担保。鑑定履歴を安全に保管・閲覧できるシステムを構築している。
既存TCGとの違い
ブロックチェーンを活用したTCGプロジェクトとしては、すでにソラーレ(Sorare)やゴッズアンチェインド(Gods Unchained)、クリプトスペルズ(CryptoSpells)などが存在する。
また、国内TCG市場で約半分のシェアを誇るポケモンが、スマートフォンゲーム「Pokémon Trading Card Game Pocket(ポケポケ)」に関連するものとみられるブロックチェーン技術に関連する特許を取得している。
モノリスのプロジェクトは、フィジカルカードとデジタルNFTを融合させている点で、これらの既存プロジェクトとは異なるアプローチを取っている。
モノリスの齋善晴(さいよしはる)CEOは「いわゆるブロックチェーンゲームではなく、完全なトレーディングカードゲーム。ここにNFTを絡めた。Web3事業でいうとRWAの分野になる」と説明する。
RWA(Real World Asset)とは、現実世界の資産をデジタル化し、ブロックチェーン上でトークンにしたものだ。現物資産のトークン化によって、不動産や美術品など従来は分割や取引が困難だった資産の流動性が高まる。
齋氏は「デジタル完結ではなく、CNPトレカでは従来のトレーディングカードがもつ確立された希少性に着目して、ブロックチェーン技術でさらにその希少性をよりオープンで具体的なものにしている。これにより、従来のトレーディングカードゲームファンとNFTセクターの両方にアピールができると考えている」と述べる。
トレーディングカードのキャラクターには、NFTコミュニティから生まれたIP「CryptoNinja Partners(CNP)」を活用している。CNPコミュニティには約2万人のアクティブなメンバーが集まる。
7月には、ベータ版のアートトレカ200ボックス(1ボックス=10パック、1パック3枚入り)が30秒で完売。2024年12月に販売開始予定の製品版優先購入権を兼ねる「CNPトレカパス」もこれまでに600枚が完売している。
KDDIをはじめとした強力なパートナー
モノリスのプロジェクトは、多様なパートナーを組み合わせた協業体制を構築している。KDDIのWeb3事業から販路を含めた支援を受け、CNPのIP元であるバケットも株主として参画している。
ゲーム面では、トレーディングカードゲームのヒットタイトルを多く手掛ける老舗企業オーアールジー(ORG)がゲーム設計をサポートしている。また、TCG大手企業出身のクロダ氏が顧問として参画し、クリエイティブ監修とグローバル展開に関する知見を提供している。
著名インフルエンサーもエンジェル投資家として加わり、トークン発行プラットフォームである「フィナンシェ(FiNANCiE)」でのCNPトークン発行による資金調達も行われている。
これらの多様な協業体制を基盤に、既存のCNPコミュニティの応援を受けつつ、一般のTCGプレイヤーやコレクターへの拡大を図る戦略を立てている。
障害福祉事業を行うmanabyの上場経験を持つ齋氏は「モノリスも上場を目指している。(国内市場規模の)3000億円中1パーセントのシェアを取っただけでも30億円になる」といい、市場における同社の可能性を強調する。
なお、モノリスは製品発売に先立ち、全国3カ所で試遊会を開催する。11月16日(土)に名古屋、17日(日)に大阪、24日(日)に東京での開催を予定。そして12月13日(金)には東京で製品発表会を実施し、同日より予約販売を開始。製品の出荷は2025年3月上旬を予定している。
|文:栃山直樹
|画像:モノリス提供、Shutterstock