アジアには本当にポテンシャルがあるのか──インドネシア、タイ、フィリピンの業界トップランナーが議論「Coinfest Asia 2024」

インドネシアのバリ島で8月末に開催されたWeb3イベント「Coinfest Asia 2024」(主催:CoinDesk Indonesiaを展開するCoinvestasi)のパネルディスカッション「Asian Exchanges Shaping the Global Cerypto Scene(アジアの取引所が形づくるグローバル暗号資産市場)」には、インドネシア、フィリピン、タイの暗号資産業界を代表するキープレイヤーが登壇。同イベントのメディアパートナーであるN.Avenue/CoinDesk JAPANの代表取締役CEO、神本侑季がモデレーターを務め、アジア各国のリアルな現状と可能性について議論した。

Bitkubのスルプスリソバ氏は、タイの先進的な規制の枠組みと規制当局との連携の重要性を強調。Coins.phのゾウ氏は、フィリピンの送金とゲームにおけるユニークなポジションを指摘。Pintoのマーティン氏とIndodaxのダルマワン氏は、3億人の人口を誇るインドネシア市場の潜在力と規制上の課題に触れた。また、1月にスタートした米国のビットコインETFが与える影響や、グローバル戦略についても議論した。

登壇者(右から)

  • トップ・ジラユット・スルプスリソバ(Topp Jirayut Srupsrisopa)氏:タイの暗号資産取引所「Bitkub」創業者兼グループCEO
  • ウェイ・ゾウ(Wei Zhou)氏:フィリピンの暗号資産ウォレット「Coins.ph」CEO
  • ティモティウス・マーティン(Timothius Martin)氏:インドネシアの暗号資産取引所「Pintu」CMO
  • オスカー・ダルマワン(Oscar Darmawan)氏:インドネシアの暗号資産取引所「Indodax」共同創業者兼CEO

アジアは重要な地域なのか?

──東南アジアのポテンシャルと各国のWeb3マーケットについて聞きたい。日本から見ても、東南アジアは世界で最も重要な地域の1つとされている。だが、リアルに何が起きているかはよくわかっていない。東南アジアは重要な暗号資産ハブ、重要な市場になりつつあるのか。

マーティン氏:東南アジアは暗号資産取引所にとって世界的に非常に重要な地域だと信じている。そして、この地域におけるインドネシアの存在感は際立っている。インドネシアには現在約2000万人の暗号資産トレーダーがおり、2024年上半期だけで、取引高は約200億ドルに達している。東南アジア、特にインドネシアの市場規模の大きさは、グローバル取引所にとっても重要なハブであることを示す要因の1つだ。規制のサポートもある。インドネシアは、ユーザーがリアルに、オープンに、安全に暗号資産に投資できる最も触れどりーな規制を備えている。

[ティモティウス・マーティン氏:インドネシアの暗号資産取引所「Pintu」CMO]

スルプスリソバ氏:我々は2021年にはタイ証券取引所よりも多くの利益をあげた。タイはあまり注目されていないかもしれないが、規制面では、最も安定し、最も進んでいる国の1つだ。2018年には、デジタル資産取引所ライセンスを世界で初めて取得した。さらに我々は国内トップ5の不動産会社と提携し、すでに不動産に裏付けられたRWA(現実資産)トークンも上場している。

タイでは今、2つの大手銀行が暗号資産取引所を運営している。つまり、伝統的金融機関が我々と競合している。すべての伝統的なプレイヤーがこの分野に参入している。なぜならASEANは暗号資産に最も適した市場だからだ。欧米の伝統的金融機関は既存の仕組みに多額の投資を行っており、暗号資産のような最新技術にはなかなか投資できない。しかし、アジアでは人口の50%は銀行口座を持っておらず、十分な銀行サービスを受けていない。また銀行もシステムにまだあまり投資できていない。つまり、最新のテクノロジーを採用して、欧米をリープフロッグするための機会費用は少ない。

ゾウ氏:2点指摘したい。1つ目は、東南アジアは暗号資産にとって、最も重要な成長地域ということだ。先進国の多くでは、暗号資産を投機的資産として扱っている。一方、アジアでは、ある意味で安定した暗号資産規制が行われ、巨大なエコシステムができあがった。一般ユーザーが簡単に暗号資産を取引し、現金できる。周辺ビジネスも誕生している。本当のユーザーが存在する。
もちろん投機的な側面はあるが、ゲームでもDeFi(分散型金融)でも、実際に暗号資産を使用できる。

2つ目は、送金。フィリピンでの暗号資産の最大のユースケースは送金だ。フィリピンは、中国、インド、メキシコに次いで世界第4位の送金受取国になっている。我々は当初から暗号資産を使った送金を手がけてきた。ここ数年はステーブルコインが使われている。送金は、もはや銀行のサービスではなく、暗号資産のサービスとなっている。

[ウェイ・ゾウ氏:フィリピンの暗号資産ウォレット「Coins.ph」CEO]

ダルマワン氏:東南アジアが重要な役割を果たすという点は、皆と同じだ。だが、インドネシアでは規制という課題もある。インドネシアは暗号資産について、より優れた、戦略的なポジションを取ることができる。だがこの3年間、インドネシアの暗号資産エコシステムは、規制や税制の観点から厳しくなってきている。東南アジアには、解決しなければならない宿題がまだある。さもないと、東南アジアは暗号資産エコシステムにとって重要な地域になっても、中心にはなれないだろう。

米国のビットコインETFの影響は

──各国それぞれのリアルな状況を知ることができた。次に米国のビットコインETFについて聞きたい。1月のSEC(米証券取引委員会)のビットコインETF承認は、暗号資産が次のフェーズに進んだことを意味すると思う。ETFには伝統的金融プレーヤーも関わっている。どんな影響があるだろうか。

ダマルワン氏:インドネシアにはETFに関する規制の枠組みがない。しかし、米国がETFを承認したことで、規制当局はより真剣に議論するようになったと言える。規制当局の大部分は、暗号資産は若い世代のものであり、投機的なものに過ぎないと考えている。ビットコインETFの登場は、規制当局にとって、ビットコインETF、そしてビットコインは真剣に検討すべき重要な問題だという警鐘のようなものだ。インドネシアでは暗号資産の規制を簡素化しようとしている。業界にとってプラスになることを期待している。

スルプスリソバ氏:取引所の運営には2つのやり方がある。1つ目は、迅速に行動し、後で謝罪するやり方。つまり、認可されていない取引所だ。2つ目は、最初から規制当局と緊密に連携し、確実にコンプライアンスを遵守する方法だ。未認可の取引所は動きは早いが、安定しておらず、寿命が短い。もちろん正しい戦略ではない。
ETFの登場により、今後ますます規制されたプロダクトが登場し、機関投資家の資金が流入する。機関投資家は未認可のプラットフォームは利用しない。かつ、オフショアではなくオンショアで取引する。これこそが我々の長期戦略だ。
もしトランプ氏が当選し、アメリカ国民に100万ビットコインの購入を約束したら、世界中の他の国々も同じことをするだろう。この業界は、より規制され、安定した、未来の金融プラットフォーム、未来の金融機関へと向かっていると思う。

[トップ・ジラユット・スルプスリソバ氏:タイの暗号資産取引所「Bitkub」創業者兼グループCEO]

ゾウ氏:だからこそ、米国上場のビットコインETFは米暗号資産取引所大手のコインベース(Coinbase)と連携している。フィリピンにはETFに関する法律はなく、実現には時間がかかるだろう。だが先進国と発展途上国ではスタンスは大きく異なる。伝統的市場に比べて、より先進的なプロダクトを開発できるはずだ。自国の才能ある人材が自国の顧客向けにプロダクトを開発し、自国の取引所で取引して、資本を調達すべきだと考えている。ビットコインETFに迎合するような答えは出したくない。

マーティン氏:ETFは、暗号資産市場に大きな興奮をもたらすだろう。各国もビットコイン投資に対して、よりオープンな姿勢になると思う。ただし、イノベーションの観点では、暗号資産取引所は規制当局と密接に連携し、各国の金融リテラシー、購買力、行動様式に適した安全で、イノベーティブなプロダクトを実現できるよう規制当局を教育する必要がある。規制当局とともに業界を形成していくことが重要だ。

アジアからグローバルへ

──グローバル戦略についてはどう考えているか。それぞれ、言語や地理的特性を強みとして各国でポジションを築いているが、より幅広い顧客を求めて、海外進出や国際的企業との提携などは検討しているのか。

スルプスリソバ氏:Bitkubはタイではすでに限界に達している。95%の市場シェアを維持し、7人に1人が当社のアプリをダウンロードしている。次のフェーズとして、来年末までのIPOを目指しており、タイ国外への事業拡大も視野に入れている。そのために2つの戦略を考えている。まずは未開拓のエリアに進出し、プラットフォームを最初に立ち上げたい。 既存プレーヤーがいない国では最初から政府と連携していく。一方、有力な既存プレーヤーが存在する国では、国を超えたパートナーシップを締結したいと考えている。例えば、ここに登壇しているような各国のNo.1企業と提携したい。ASEANの人口6億人、世界第4位の経済地域でポジションを獲得したい。

ゾウ氏:さまざまな戦略を考えている。まず第1に、国外で働く1000万人以上のフィリピン人へのサービス提供だ。具体的には、200万人のフィリピン人が働く中東でのライセンス取得を検討している。さらには、我々のブロックチェーンサポート、カストディサポート、オーダーブックサポートなどのテクノロジーをより多くのユーザーに提供していきたい。問題は基本的には、マーケティングファネルの上部をいかに広げられるかだ。

マーティン氏:Pintoは今、国内に焦点を絞っている。インドネシア市場は、十分に大きいと考えている。暗号資産の普及率は人口の7%に過ぎない。まだかなりの可能性がある。もちろんグローバル展開を否定するつもりはない。実際、ユーザーがどこにいてもWeb3アプリやPinto自体とやりとりできるWeb3ウォレットをスタートさせた。我々はインドネシア人だけでなく、パスポートとビザを持つ外国人にもサービスを提供している。また、バリには多くの外国人が住み、一方で海外で働くインドネシア人も多い。我々にとっても、送金は非常に興味深い分野だ。

ダルマワン氏:我々も同様に国内市場に焦点を当てている。インドネシアには、約3億人が住んでいるからだ。だが、インドネシアの暗号資産トレーダーは、データでは2000万人となっているが、正直なところ1000万人を超えていないと思う。インドネシアにはまだ成長余地が多く残っている。

[オスカー・ダルマワン氏:インドネシアの暗号資産取引所「Indodax」共同創業者兼CEO]

最もエキサイティングな時代

──アジアのポテンシャルや各国のリアルな姿に触れることができた。最後に観客にメッセージを。

ゾウ氏:やはり注目はビットコイン価格だろう。(観客は)あまり関心がない? ソラナ価格の方に興味があるのか?

スルプスリソバ氏:観客の反応は、この業界はまだ初期段階にあることを示している。だがこの技術は、金融において最も有用で、最も破壊的な技術だ。銀行システム全体を再構築することになり、業界はもっと大きく成長できる。将来的には、炭素クレジット、電力、不動産など、あらゆるものがトークン化される。我々は今、最もエキサイティングな時代に生きている。

マーティン氏:東南アジアにはユニークなユースケースがある。1つは送金、もう2つはゲームだ。東南アジアには2億人以上のゲーマーがいるだろう。ゲームは、暗号資産と密接に交差する分野だ。暗号資産のグローバルなトレンドを形作っていくと思う。ゲーム以外にもクリエイティブなものがある。分散型クラウドレンダリングサービスのレンダートークン(RNDR)は、GPUが非常に高価なインドネシアには、非常に有用なものだ。3Dレンダリングをインドネシアでも簡単に利用できるようになる。

ダマルワン氏:バリ島は特別な場所だ。バリ島には専門知識を持つ多くの外国人が住んでいるが、多くの人たちが暗号資産のみを使ってバリ島に住んでいる。世界の他の地域では見られないことだ。かつてバリ島は「ビットコイン・アイランド」を目指したが、プロジェクトは規制の問題で頓挫した。だが今、リアルな形で実現している。

|文:coindesk JAPAN編集部
|画像:Coinvestasi