東南アジアは、ASEAN加盟の10カ国に約7億人が住み、今後もさらに人口が増えると見られる有望なマーケットだ。特にWeb3の分野では、ゲームを中心にユーザーが多いことや、エンジニアなど開発に必要な人材も豊富であることから、世界中の起業家や投資家も熱い視線を注いでいる。
そんな東南アジア市場の今を知り、未来を見通すため、CoinDesk JAPANを運営するN.Avenueが2023年7月から展開している「N.Avenue club」は11月21日、「アジアの巨大トークン経済圏をけん引するビッグマーケット──東南アジアを徹底解剖する」と題したラウンドテーブルを開催した。
レイヤー1ブロックチェーンのアバランチ(Avalanche)を手がけるアバラボ(Ava Labs)のベトナム責任者(Head of Vietnam)、ローラ・グエン(Laura Nguyen)氏が現地からオンライン登壇。また、決済サービスを手がけるSlash Fintech limited CEOの佐藤伸介氏、One Asia Lawyersパートナー弁護士・One Global Advisory代表の森和孝氏がいずれもシンガポールから来京してプレゼンテーションを行った。また参加者らは、プレゼンの内容を踏まえ、今後のビジネス機会、可能性などについて議論を交わした。
N.Avenue clubは、Web3をリサーチ・推進する企業リーダーを中心とした、法人会員制の国内最大Web3ビジネスコミュニティで、ラウンドテーブルは会員限定のクローズドな開催のため、ここでは当日のプレゼンテーションや議論の様子について、概要を紹介する。
アジアの巨大トークン経済圏をけん引するビッグマーケット──東南アジアを徹底解剖する
ラウンドテーブルでは最初に、アバラボ(Ava Labs)のベトナム責任者、ローラ・グエン(Laura Nguyen)氏がオンラインで登壇し、アバラボの概要や、ベトナム市場の現状や可能性などについて話した。
グウェン氏によると、アバラボの事業は、アジア太平洋地域においては韓国から始まったといい、今はベトナム、マレーシアのほかに、日本、シンガポール、インドに拠点を置いている。このほか、タイやフィリピンなど拠点がない国・地域にもコミュニティマネジャーを置き、エコシステムの拡大に務めている。
グウェン氏は、ユースケースのトレンドを5つ――エンタープライズ、FSI(金融)、DeFi、ゲーミング、アート&カルチャー――に分類して解説。その上で、東南アジア市場が魅力的である理由として、ただ人口が多いだけでなく、アンバンク(金融機関へのアクセスが十分ではない人たち)が多いことや、モバイルの普及率が高いこと、新しい技術に触れることに躊躇のない若い層が多いことなどを挙げた。
ベトナム市場については、ブロックチェーンのアダプションに必要な人材が豊富なことや、クリプト関連のサービスの普及率が高いこと、政府がブロックチェーンに対して理解を示していることなどを紹介し、可能性が高いことをアピール。アバラボが具体的に提供しているソリューションについても、詳しく状況を解説した。
会場からは、ベトナムのステーブルコイン事情や、人口の多いインドネシアに拠点がない理由などについての質問が投げかけられ、グウェン氏が答えた。
東南アジアのCrypto規制
続くメインセッションで登壇したのは、One Asia Lawyersパートナー弁護士・One Global Advisory代表の森和孝氏。
森氏は、自身がシンガポールに移住したという2017年ごろからこれまでを振り返り、時系列で、東南アジアでのクリプト関連の動きに言及。ICOブーム、ゲームの流行を経て、2022年ごろから大企業の動きが目立ち始めたなどと指摘した。
またこの分野で成功しているビジネス・事業の形には、「本音と建て前」があると説明。たとえばユーザーを獲得しているエリア、運営の法人が拠点を置く国、利用規約の適用がある、管轄法の根拠となる国・地域などが異なっていることを挙げて、どの企業も「うまく使い分けて規制に対処している」などと話した。
このほかにも、東南アジア各国の状況についても、資料を示しながら概要を紹介した。
ミームコインはファンコミュニティの熱狂バロメーター
次に登壇したのは、森氏と同じくシンガポールを拠点に置いている、Slash Fintech limited CEOの佐藤伸介氏だ。Slash Fintech limitedは、人気キャラクター「ちぃたん☆」をモチーフにしたミームコイン「Chiitan☆Coin(CTAN)」のサポートで広く知られている。
そのSlash Fintech limitedがターゲットとしているのは、クリプトにほとんど興味を持っていない人たちだという。どんなにいいサービスや技術が生まれても、この状況が変わらないとマスアダプションが起きないと指摘。その上で、「1ビットコインと100ドル、どっちかもらえるとしたら、どちらがいい?」と聞かれたときに、「100ドル」と答える人たちを取り込むことが必要だと強調した。
Slash Fintech limitedはアジアを舞台に事業を展開するというが、日本と東南アジアとで戦略を分けていると説明。日本ではフィンテック×Web3の文脈で、ペイメントや、暗号資産を担保に発行されるクレジットカード・スラッシュカードなどを展開。東南アジアでは日本のIPを使ったミームトークンを発行して広げるとの構想を披露した。
また「Cryptoのトレンドと可能性」と題し、あらゆる企業がミームに注目しており、「クリプト業界でも無視できないカルトカルチャーに成長」していると説明。ミームコインの価格はファンコミュニティの熱狂バロメーターそのものだとして、日本が抱える多数のIPが十分に活用できる可能性があるなどと語った。
東南アジアにおける日本企業のWeb3ビジネス機会は?日本のコンテンツをWeb3で展開するには?
プレゼン終了後、参加者らは8つのテーブルに分かれて、ディスカッションを行った。テーマは2つ――「日本企業にとって、東南アジアでのWeb3ビジネス機会は?」と「日本のコンテンツ(IP・文化)をWeb3で東南アジアに展開するには?」――で、テーブルごとにいずれかのテーマを選び、話し合いが行われた。
ディスカッションの後、各テーブルの代表者が議論についてサマリーを紹介。注目されたのは、ミームコインの活用法で、日本の地域創生に役立てるアイデアや、日本の食文化を海外に広めるために活用するプランなどが提示された。
ビジネス機会の可能性として、海外不動産のセキュリティトークン化、越境決済などが提案されたほか、日本とアジアを結ぶPeer2Peer レンディングDeFiの構築という具体的なビジネスアイデアまで飛び出した。
「N.Avenue club」は毎月、ラウンドテーブルをクローズドな環境で行なっており、そこでは、国内外の先進的な取り組みが紹介されているほか、Web3に携わる会員企業の参加者らによって、最新の情報や議論が盛んに交わされている。事務局は、Web3ビジネスに携わっている、または関心のある企業関係者、ビジネスパーソンに参加を呼び掛けている。
|文:瑞澤 圭
|編集:CoinDesk JAPAN編集部
|写真:多田圭佑
※編集部より:一部本文を修正し、更新しました。