仮想通貨取引が普及する中、多くの投資家が見落としがちなのが税金対策です。年間の所得は1月1日から12月31日までが対象となるため、今が対策を行うにはベストなタイミングと言えます。
本記事では、仮想通貨投資における効果的な税金対策について、年内に行うべき重要なポイントを5つ解説します。
1. 含み損益の把握と適切な売買戦略
仮想通貨投資において、含み損益の理解と管理は税金対策の要となります。
なぜなら、含み損益を把握し適切な取引を年末までに行うことで、当年の利益の額を圧縮して税額を減らす、または翌年以降の税負担を平準化することもできるからです。
仮想通貨の所得は総合課税の「雑所得」に原則として分類され、他の所得と損益通算(損益を相殺すること)はできません。しかし、仮想通貨同士など、同じ総合課税の「雑所得」同士では損益通算が可能なため状況に合わせて取引することで利益を調整できるのです。
含み損益の計算方法
含み損益とは、保有している仮想通貨の現在価値と取得価格との差額のことで、実際に売却するまでは「含み」の状態にあります。
含み損益 = (現在の仮想通貨価格 – 取得時の価格) × 保有数量
例えば、1BTC(ビットコイン)を500万円で購入し、現在の価格が1,000万円の場合、含み益は500万円となります。
なお、仮想通貨の損益はコインごとに計算する必要があるため、複数の通貨を保有している場合や複数の取引所で同じコインを保有している場合、上記のようにシンプルではなく、計算が煩雑かつ複雑になります。
こうした場合には、仮想通貨の損益計算ツール「クリプタクト」のような損益計算ツールを使うのがおすすめです。
損益圧縮のタイミングと方法
では実際にどういった場合にどんな取引をすると効果的かをご紹介します。
1.年内の利益が大きい場合:含み損のある仮想通貨を売却して損失を確定させ、全体の利益を圧縮することができます。
2.年内の利益が少ない場合(含み損が大きい):含み益のある仮想通貨を売却して利益を確定させ、翌年以降の税負担を平準化することも考えられます。
2. 経費の計上
仮想通貨取引に関連する経費を適切に計上することで、課税対象となる利益を減らすことも覚えておきたい対策のひとつです。
経費として認められる主な項目
仮想通貨を取得する際に支払う手数料
売却時に負担する売却手数料
1. 仮想通貨を送金するための送金手数料
2. 売却時に負担する売却手数料
3. 仮想通貨を送金するための送金手数料
など。
これらの経費を適切に記録し、確定申告時に計上することで、課税所得を減らすことができます。注意点として、解説した費用が必ずしも経費計上できるとは限りません。
経費に計上できるか分からない費用については、税理士と相談して決めるのがおすすめです。特に、令和4年のFAQ改訂により、経費計上できる範囲が限定的になったと思われているため、経費計上の可否についてしっかりと相談しておくことが重要です。
3. ふるさと納税の活用
仮想通貨取引で得た利益は、「総合課税」の雑所得に分類され、給与所得などの他の総合課税対象の所得と合算されて課税所得額が決まります。そのため、ふるさと納税の寄附上限額も、仮想通貨の利益があると増加します。
ふるさと納税では、税金の支払先が変わるだけで税負担自体は変わりませんが、実質2000円の自己負担でさまざまな返礼品を受け取れるメリットがあります。仮想通貨の所得で上限額が増えている場合、その上限を把握したうえで適切な寄附額を活用することで、よりお得な納税ができると言えます。
ふるさと納税の寄附は1年中受け付けていますが、例えば2024年分として申告するためには、2024年12月31日までに寄附が完了している必要があります。今年度すでにふるさと納税を利用している方は、年末までに仮想通貨の所得を含めた上限額を確認し、上限に達していない場合は追加寄附を検討するのもおすすめです。
また、仮想通貨の損益計算ツール「クリプタクト」の無料「仮想通貨の税金シミュレーションツール」を使えば、給与所得と仮想通貨所得を合算した場合のふるさと納税の上限額(概算)も簡単に算出できます。
気になる方はぜひ試してみてください。
4. その他の税金対策
法人化の検討
仮想通貨取引の規模が大きい場合、法人化を検討する価値があります。
メリット:
– 経費の計上範囲が広がる
– 税率が個人より有利になる可能性がある(所得額による)
– 損失の繰越期間が長い(個人の雑所得は損失繰越不可能、法人は10年)
デメリット:
– 設立や維持にコストがかかる
– 会計処理が複雑になる
– 社会保険料の負担が増える可能性がある
また、法人を設立すれば法人化が完了するわけではなく、法人名義での仮想通貨取引所の開設、個人名義の仮想通貨を法人へどのように移転させるかの論点があります。実際に法人化を検討されている場合は、税理士などの専門家に相談することを推奨します。
年間20万円未満の利益確定戦略
通常の会社員において、仮想通貨の所得(利益)が年間20万円未満の場合、確定申告が不要となります。この制度を活用し、年間の利益を20万円未満に抑えることで、申告の手間を省くことができます。
また同様に、利益を少しずつ確定させていくのも有効になります。仮想通貨の利益は雑所得として総合課税の対象となっているため、利益が多ければ多いほど高い税率が適用されることとなります(累進課税)。これを避けるために、毎年少しずつ利確し、利益を出していく方法も有効となります。
5.税金対策を行うために必要な準備
これらの対策を行うにあたって、以下の点について事前に確認しておきましょう。
取引履歴のバックアップ取得
仮想通貨の損益計算を行うには、詳細な取引履歴が不可欠です。
以下の情報を入手できるようにしておきましょう。
1.各取引所からの履歴取得: 利用している全ての取引所から取引履歴をダウンロードします。多くの取引所では、CSVファイルなどの形式でデータを提供しています。
2.ウォレットの移動履歴の記録: 取引所外でのウォレット間の移動も記録しておきます。特に、ハードウェアウォレットなどを使用している場合は注意が必要です。
3. DeFi取引の記録: 分散型金融(DeFi)プラットフォームでの取引も忘れずに記録します。これらの取引は自動で記録されないことが多いため、手動での記録が必要になる場合があります。
4. NFT取引の記録: NFT(非代替性トークン)の取引も課税対象となるため、購入や売却の記録を保管しておきます。
こうした記録を管理は取引が頻繁であればあるほど、手動での管理は難しくなります。
こうした場合も仮想通貨の損益計算ツール「クリプタクト」を使えば、API連携できる取引所のデータと連携し自動で反映させたり、ウォレット接続をしてDeFiやNFTの取引履歴をインポートして管理するなど、こうした手間を大幅に削減できます。
取引履歴が欠けた場合の対処法
万が一、取引履歴の一部が欠けてしまった場合は、以下の方法で対処することができます:
1. 取引所のカスタマーサポートに連絡し、履歴の再発行を依頼する
2. ブロックチェーンエクスプローラーを使用して取引を追跡する
3. 銀行の入出金記録から取引を推測する
ただし、これらの方法でも完全な復元が難しい場合があります。そのため、定期的なバックアップの取得が極めて重要です。
まとめ
仮想通貨の税金対策は、年間を通じて意識すべき重要な課題です。特に年末に向けては、以下のポイントを押さえておくことが大切です:
1. 含み損益を把握し、適切な売買戦略を立てる
2. 取引に関連する経費を正確に記録し、計上の準備をする
3. お得な納税方法として、ふるさと納税の活用を検討する
4. 法人化や年間20万円未満戦略など、自身の状況に合わせた対策を考える
5. 取引履歴のバックアップを確実に取得する
これらの対策を適切に行うことで、不必要な税負担を避け、効率的な資産運用につなげることができます。ただし、税法は複雑で頻繁に変更される可能性があるため、最新の情報を常に確認し、必要に応じて税理士などの専門家に相談することをお勧めします。
|文:伊藤里香/pafin編集
|監修:村上裕一
村上裕一公認会計士事務所・代表税理士。大手監査法人・税理士法人での豊富な経験を積んだ後、Web3(ブロックチェーン、暗号資産・仮想通貨、NFT、ブロックチェーンなど)の専門税理士として、多くのクライアント(個人及び企業)を支援。株式会社pafinの仮想通貨の損益計算ツール「クリプタクト」のブログも監修。監修した記事は、「仮想通貨(暗号資産)の税金基礎と計算方法、対策も解説」など。
※編集部注:CoinDesk JAPANは「暗号資産」を表記として使っていますが、ここでは原文を尊重しています。