暗号資産は「国民の資産として推奨されるべきか否か更なる議論が求められる」:参院調査室

参議院常任委員会調査室は、暗号資産(仮想通貨)取引をめぐる税制の現状分析と今後の展望に関する調査書を公表した。

本資料は、「暗号資産取引に係る所得税制の現状と動向」というタイトルで議員向け調査情報誌「経済のプリズム」に掲載されたもの。予算委員会調査室のメンバーである谷合正成氏が執筆を担い、本文中の意見にわたる部分は執筆者個人の見解であることが明記されている。

暗号資産の税課題

谷合氏は冒頭の要旨で、日本で口座数が1000万を超えている(2024年10月時点で約1121万口座:JVCEA資料)ことを引き合いに、ビットコイン(BTC)をはじめとした暗号資産取引が世界的に拡大していると指摘。その上で、「他の金融所得との整合性や主要国との比較の観点から、20%の申告分離課税を求める声も上がっている」としている。

政府はこれまで申告分離課税の導入に慎重な姿勢を示してきたが、「金融庁の令和7年度税制改正要望において暗号資産取引に係る課税上の取扱いについて言及がなされるなど、変化も見られる」と述べ、今後の動向を注視するとまとめている。

調査書では、現行の暗号資産税制の課題として、他の金融商品との税率の差異を分析している。株式等の金融商品取引が申告分離課税で20%の税率が適用されるのに対し、暗号資産取引は最大で55%(住民税含む)の税率が課される。

また、米国や英国などの主要国では、暗号資産取引の利益に対して概ね20%のキャピタルゲイン課税が適用されており、国際競争力の観点からも制度の見直しを検討する必要性が指摘されている。

一方で、谷合氏は暗号資産の課題にも言及している。「詐欺などに利用されることが多いことや価値の裏付けがないことなどから、懐疑的な見方も多いところである。投機的な動きが強いことや、取引所からの不正流出が多数発生している」ことから「国民の資産として推奨されるべきか否か更なる議論が求められよう」と述べている。

石破首相も慎重な姿勢

暗号資産の税制改正については、石破首相が2日、衆議院本会議における答弁において「給与などの所得には最大55%の税率が適用される一方、暗号資産による所得に20%の税率を適用することに、国民のご理解が得られるのか。暗号資産を国民にとって投資を容易にすることが必要な資産とすべきかどうかを踏まえ、検討する必要があると考えている」と慎重な姿勢を示している。

|文:栃山直樹
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